芽生える自覚
とうとうLaLaの最新号が発売された。
大学へ行く前にコンビニでチェックをしてみる。
ちゃんと自分が映っているページが何枚もある。
こうやって見てみると、本当に読モになったんだって実感が沸いてきた。
そして一番気になっていたインタビューの記事。
3ページにわたり、写真とともにちゃんと紹介されていた。
今月から新たに仲間入りした君川裕香ちゃんに直撃インタビュー!
ご存知の方も多いと思いますが、裕香ちゃんは君川舞香ちゃんの妹、
ということで今回のインタビューは姉妹で答えてもらいました。
ここから先はインタビューが記事になっていた。
ざっと読んでみると、半分以上は秋葉が書き直したものになっていた。
イマドキの女の子が答えるような回答になっている。
まあ、あの答えじゃしかたないよね。
むしろ秋葉さんに余計な仕事をさせちゃって申し訳なかったな。
けど、舞香に対しての部分は裕香の言葉でちゃんと書かれていた。
読み返すと恥ずかしくなる。
なんであんなこと言っちゃったんだろう…
しかも記事になって書かれてるし…失敗した!
これ以上読むと顔から火が出そうになったので雑誌を棚に戻して大学へ向かった。
大学に着くと、真っ先に美紗たちが裕哉の前に集まってきた。
もちろんLaLaを持っている。
「裕香読モになってたの?なんで教えてくれなかったの?」
「だって自分から言うことじゃないし…」
「けど言ってくれてもいいじゃん、友達なんだから」
そう、今一番の友達は間違いなく美紗だ。
チラッと遠くに座っている実久を見たが、まったくこっちを向く気配がない。
もう完全に自分はこっち側の人間だ。
「ごめんごめん、だって恥ずかしいしさ」
そういった後、インタビューの話や撮影の話などを聞かれたので、
少し恥ずかしがりながら答えて盛り上がった。
こんなに自分自身が変わるなんて思ってもいなかった。
裕哉は今までで一番充実した日々を送っていた。
大学が終わり、今日は買い物に行くと決めていた。
なぜなら給料が入ったからだ。
給料が入ったら真っ先に買うと決めていたものがある。
「裕香、今日って予定ある?」
聞いてきたのは美紗だった。
美月も有紗もバイトなので、今一緒にいるのは美紗だけ。
「今日はちょっと買い物に行くから…ごめんね」
「え、だったら一緒に行くよ。わたしも買い物に行きたかったから裕香に付き合ってもらおうと思って聞いたんだもん」
「あ、いや…」
裕哉が買いに行こうと思っていたもの、それは下着だった。
明日撮影があるので、スタイリストさんにちゃんと下着も気を使っているというのを
アピールしたかったのだ。
「その…下着だから…」
「え、全然いいよ。だから行こう!」
裕哉は美紗に強引に連れていかれてしまった。
恥ずかしいから一人で行きたかったんだけどな…
「裕香ってそういえば胸大きいよね?」
「一応E…かな」
「一応ってなに、羨ましいんですけど。わたしなんかBしかないのに」
みんな羨ましいっていうんだよなぁ…別に大きくていいと思ったことないのに。
適当に受け流して店内を見て回った。
買ったのはレースなどのかわいいブラセット2点、
あとは撮影用に響かないカップのものを2点購入した。
「ところで美紗はなにを買うの?」
「服に決まってるじゃん!裕香と一緒に見たかったからさ」
つまりコーディネートしてほしいということか。
申し訳ないけど、それは無理!
なぜなら裕哉もまだまだ勉強中の身だから。
読者モデルになってまだ1か月も経っていない。
おそらくオシャレの知識なら美紗のほうが全然上だろう。
「なんのアドバイスもできないよ。だってまだまだ自信ないし」
「わかってるよ、だから一緒に見たいっていったでしょ。単に楽しそうだなって思ったから」
それなら確かに楽しそう。
それに勉強にもなる。
「そうだね、うん、行こう!」
2人でいろんな服を選んだり、試着をしてみたり、
美紗と服を見るのは予想以上に楽しかった。
傍から見たら、裕哉はオシャレが好きな女の子にしか見えないだろう。
「明日は撮影だっけ?」
「うん、だから大学は休むよ」
「どんな服着たのか教えてね」
「はーい、じゃあバイバイ」
美紗と別れ、裕哉はもう一つ寄りたかった場所に一人で向かった。
「すいません、これください」
「はい、2000円になります」
これで今日の出費は2万を超えてしまった。
でもこれも初給料で買うと決めていたものだから仕方ない。
それを持って家に帰ると、舞香がリビングでくつろいでいた。
お、裕香が帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま」
手に荷物を持っている。
給料入って早速買い物をしてきたな。
「何買ったの?」
「ん…下着とか…」
おお、そこまで気を使うようになったか。すごい成長ぶりだ。
「あと、これ…」
「ん?なにこれ」
渡してきたのは小さな袋で、開けてみると、中身は人気のあるお店のクッキーだった。
「こないだ…化粧品買ってくれたから…あと、いつもお世話になってるお礼…」
それだけ言って照れくさそうに部屋に行ってしまった。
裕香がこんな気遣いしてくれるなんて…
まったく予想していなかったことなので、嬉しさがこみ上げてくる。
「裕香、ありがとう!」
ドア越しにお礼を言うと、「べ、別にいいよ」と返事が返ってきた。
あきらかに照れているのがわかり、それがまたかわいい。
「ねえ、一緒に食べよう。コーヒー入れるから」
そういうと、着替えた裕哉が部屋から出てきた。
「もう8時過ぎてるよ。8時以降の間食はダメって自分でいつも言ってるじゃん」
「今日は特別。だって嬉しいんだもん」
一段と裕哉が照れているのがわかる。
舞香はクスッと笑って、鼻歌を歌いながらキッチンへ向かってお湯を沸かした。