イメチェンしてみた
半月が過ぎ、裕哉は舞香に教えてもらってメイクはなんとか一人でできるくらいまで
上達した。
「裕香さ、髪カラーしたほうがいいんじゃない?」
美紗は裕哉のことを裕香ちゃんではなく、裕香と呼ぶようになっていた。
「そうかな?でも美紗ほど明るくしてもいいのかなぁ」
裕哉も美紗と呼んでいる。
彼女たちはオシャレが好きなので、話していて参考にもなるし、
自然と本当の友達のように仲良くなっていた。
今では実久と会話することもあいさつを交わすこともない。
完全にオシャレが好きな女の子のグループにいた。
髪かぁ…勝手に色変えていいのかな?
電話をして奈緒美に確認してみよう。
「奈緒美さん、髪の色変えたいんですけど…」
「そう、だったらイルミナカラーがいいんじゃない。きっと裕香に合うよ。ついでに髪も切ったら?」
「イ、イルミナ…なんですか?」
「イルミナカラー。舞香がいってるサロンならやってくれるから」
そういって、奈緒美はサロンまで教えてくれた。
ネットで空いているか確認をしたら、タイミングよく今日の夕方が空いていたので
早速予約した。
イルミナカラーってなんだろ?
講義を受けている最中にスマホで調べてみた。
どうやらダメージレスのカラー剤で外国人のような抜け間とツヤがでるらしい。
髪の色が変わった自分を想像してみてワクワクしていた。
が、実際にサロンに着くと裕哉は緊張していた。
それはサロンで髪を切るのが初めてだからだ。
髪型などまったく気にしなかった裕哉はいつも1000円カットだった。
裕哉の知らない裕香がどこで切っていたかは知らないが、今の裕哉にとっては別世界だ。
外装だけでなく、内装もきれいでオシャレで、
こんなところで切っていいのかと少し不安になった。
とりあえず受付で予約していた旨を伝えると新規なので名前などを書かされた。
そして5分ほどして、案内される。
あー、緊張する。
「はじめまして、担当させていただく紀藤です。今日はイルミナカラーとカットですね。どんな感じにします?」
担当してくれるのは紀藤という男性の美容師だった。
30代前半くらいで、パーマがかかった髪型をしている。
髪型に関しても常にお任せだったので言葉が出てこない。
しまった、カラーのことしか考えてなかった。
「あの…似合う髪型で…」
「わかりました。君川さんってひょっとして舞香ちゃんの妹?」
「姉を知ってるんですか?」
「やっぱり、似てるなって思ったんですよ。舞香ちゃんの担当もしています。お姉さんの紹介じゃないんですか?」
まさか同じ人が担当になるとは思わなかったのでビックリした。
「い、いえ…編集長に教えてもらって…」
「ってことは、えっと…裕香ちゃんだよね。裕香ちゃんも読者モデル?」
「い、一応先月から…」
「おお、そうなんですね。だったら任せてください。裕香ちゃんにピッタリの髪型にしますから」
舞香の髪を切っているというのを知り、安心感がある。
この人なら任せても大丈夫だ。
切り終わった髪は、長めのボブになっていた。
ロングでゆるく巻いている舞香とは敢えて違う髪型で、似合うものにしてくれていた。
ツヤもあり、一気にオシャレ度が増したような気がする。
「どうですか?」
「すごく気に入りました。ありがとうございます」
「気に入ってもらえてよかった。モデル頑張ってね」
「はい、頑張ります!」
髪を切っただけなのに、いつもより足取りが軽い。
そっか、髪型を変えるとこういう気分になるんだ、知らなかった。
裕哉はテンション高めで家に向かった。
「ただいまー」
ドアを開けるが、人の気配がない。
「なんだ、帰ってきてないのか。反応が楽しみだったのに」
少し残念そうに中に入る。
その途中にあった鏡で自分の髪型を見て、またすぐにテンションが上がってきた。
「すっごい艶々…あー、誰かに見せたい!」
髪を切って初めてウキウキしてしまったので、見せたくてしょうがない。
早く帰ってこないかなぁ…
そんなことを思いながらソファーに座っていたら、いつの間にか寝てしまっていた。
鍵を開けてからドアノブを回す。
ドアを開けると電気が付いていた。
もう9時だし帰ってきてるか。
「ただいま」
舞香が靴を脱いでリビングに向かうと、ソファーで寝ている人物がいた。
「なんだ、寝てるのか。ん?」
後ろ姿しか見えないけど、裕香?
髪の色が違う…それに髪型も…誰だ??
急に怖くなって警戒する。
そーっと近づいていくが、怖くてなかなか進まない。
そもそも寝てるのかな…死んだりしてたらどうしよう…
っていうか、なんで知らない人が勝手にうちにいるわけ?
あー…考えても仕方ない!
舞香は勇気を振り絞ってソファーに近づきながら怒鳴った。
「誰!何してるの!?」
寝ていた女がビックリして飛び上がった。
「な、なに??どうしたの???」
顔を見た途端、一気に力が抜けた。
「なんだ、裕香か…脅かさないでよ」
「だからなにが?寝てただけだし…あービックリした…」
「ビックリしたのはこっちだよ、誰かと思った…髪の色とか違うからさ…あ、どうしたのその髪???」
「あ、いや…なんとなく…」
ちょっと恥ずかしそうにしている。
そうかそうか、自発的にやったんだ。
裕香も成長したなぁ。
「いいじゃん、すごくかわいい」
かわいいと言われて照れてるところが、また妹ながらかわいい。
「でもさ、勝手にやって平気かな…」
「奈緒美さんには許可取ったよ。そしたらカラーとサロンを指定されて、お姉ちゃんと同じところで切った。美容師さんも紀藤さんだった」
「あ、そうだったんだ。紀藤さんいいでしょ!」
「うん、普段お姉ちゃんの髪切ってる人だから安心して任せられたよ」
それにしてもちゃんと奈緒美さんに確認したんだ。
プロ意識も出てきたのかな、偉いぞ。
「ところで今何時?」
「9時ちょっとかな。裕香ご飯食べたの?」
「食べてない、お姉ちゃんは?」
「わたしは食べてきちゃった」
「そっか、お腹空いた…でもこの時間だしなぁ。いいや、サラダと豆腐で我慢しよう」
そういいながら裕哉は冷蔵庫に向かっていった。
こういう風に太らないために食事も気を遣うようになった裕哉は、
もう裕哉ではなく完全に裕香になったように見えた。