仲良し姉妹?
駅前で裕香と合流して、出版社に着いた。
案内されたのは、会議室だった。
後ろにはLaLaのパネルだったり、いろんな服などが掛かっている。
裕香とインタビューか、なにを答えるんだろう。
変なことを言わなければいいけど…
ちょっと不安になって裕哉を見ると、どことなくおとなしい。
緊張しているのかな?と思ったが、どうも違うみたい。
大学でなんかあったのかな?
「お待たせ」
奈緒美と一緒にもう一人、別の女性が入ってきた。
「インタビューの記事を担当する秋葉です。よろしくね」
秋葉は奈緒美と同じくらいの年で、奈緒美以上にサッパリとした感じだ。
舞香も秋葉に会うのは初めてだったので、奈緒美に接するよりも姿勢を正していた。
「そんなかしこまらなくていいから。気楽に雑談するみたいな感じでいいから」
そういって、秋葉はボイスレコーダーを置いて録音を始めた。
あとでこれを聞いて記事にするらしい。
「裕香ちゃんいくつだっけ?」
「えっと…18です」
「誕生日は?」
「2月18日です」
「じゃあまだまだ18歳だ。若くていいなぁ、10代なんて羨ましいわ。舞香ちゃんは?」
「わたしは20です。11月で21になります」
「2つ違いなのね。裕香ちゃんはどうして読者モデルになろうと思ったの?」
慣れているのか、次々と自然な感じで質問をしてくる。
これなら裕香も答えやすいかな。
「お姉ちゃんと奈緒美さんにやってみないって言われて…」
「へー、それでやってみようかなって思ったんだ。その前に1回やったんだっけ?」
「はい…わけもわからずに…」
「もともとやってみたいって思うことはあった?ほら、お姉さんが読モじゃない」
「全然!オシャレとか興味ないですから」
そこを全力で否定しなくてもいいのに…
少しくらいは盛っていいんだよ、裕香…
ちょっとあきれ顔になって舞香は聞いていた。
「でも今日の格好、ずいぶんオシャレじゃない」
「これ、お姉ちゃんが選びました…」
「あ、そうなの…。裕香ちゃんが好きな服ってどんなの?」
「特にないです…」
ここまでバカ正直に答えるの?
チラッと秋葉を見ると、少し顔が引きつっていた。
それもそうだよね、読モになったのに服に興味ないって宣言しちゃってるんだもん。
仕方ない、フォローするか。
「そうなんですよ、裕香って昔からそういうのに興味がなくて、だから姉のわたしがオシャレの楽しさを教えてあげなきゃいけないと思って」
「なるほどね。好きになりそう?」
「まだわかんないです…今はこういう格好することでいっぱいいっぱいなので…」
バカ…そこは好きになるって言おうよ。
ところが秋葉は笑っていた。
「裕香ちゃんって正直なんだね。奈緒美さん、この辺の話はこっちで作っていいよね?」
「うん、そうして」
そうするしかないだろうなと思った。
こんなの記事にしたら読者が怒るよ。
だって読モになりたがってる子は、たくさんいるんだから。
「じゃあ次からは2人のことを聞こうかな。裕香ちゃん、舞香ちゃんってどんなお姉さん?」
お、裕香はなんて答えるのかな?
頼りがいがあって、優しくて、オシャレで理想のお姉ちゃんとか言ってくれるのかな。
舞香は勝手にほくそ笑んでいた。
「えーと…自己中でわがままで、自分の意見を強引に押し通して、なんでも押し付けてきます」
は?なにそれ??わたしってそんな女???
すごいムカついてきた。
「なに言ってるの?裕香こそ人の話をまったく聞かない自己中じゃない。見た目に少しは気を遣ったらって言っても、興味ないし人間見た目じゃないとか言って、だっさい服着てさ」
「ダサい格好して誰かに迷惑かけた?かけてないだろ。それに押し付けるじゃん。今は読モになったからいいけど、なる前だって無理矢理ランニングに付き合わせたりさ、夜は太るからって姉貴と同じようにヘルシーな飯しか食わせてくれないし」
「女なんだから見た目も体系も気を使って同然じゃない!妹がズボラ女なんて姉としたら嫌に決まってるじゃん」
まさかの姉弟ケンカを始めてしまった。
しかも裕哉は姉貴と呼んでいた。
慌てて秋葉が仲裁に入る。
「2人とも落ち着いて!なんでケンカを始めるの…」
「裕香が文句を言うから」
「事実を言っただけだ」
言い合いが止まらない。
そこで奈緒美が怒鳴った。
「いい加減にしなさい!」
ビクッとなり、2人が固まった。
「2人ともプロとしての意識がないんじゃないの。まず裕香、ウソでもいいから記事になりそうな答えがなんでできないの?もっと考えてから答えなさい!次に舞香、裕香と同じ目線で言い合ってどうするの、舞香が冷静になってリードしないとダメでしょ!」
「ごめんなさい…」
舞香も裕哉もシュンとなって頭を下げた。
奈緒美さんの言うとおりだ。
なんてバカなんだろ、わたし…
秋葉が苦笑いしながら話しかけてくる。
「じゃ、じゃあもう一度聞こうかな。舞香ちゃんってどんなお姉さん?」
「お姉ちゃんは…気が強くて、わがままで…」
奈緒美さんが言ったことが全然わかってない!
「裕香!」
思わず舞香が怒鳴ると、それを奈緒美が制して裕哉に話を続けさせた。
「でもすごく努力家なんです。読モになってから、読者のみんなに憧れられる存在にならないといけないからって、日ごろから体系を常に意識してたり、オシャレや美容に関しても研究熱心で、読モに命を懸けてるというか、全力なんです。そこまで一つのことに真剣に打ち込める姿を見てすごいと思ってます」
「裕香…」
「それに、人に意見を押し付けたりムチャクチャなところが多くてうんざりするんですけど、実はすごく優しかったりするんです。昨日なんて…」
裕哉はバッグからポーチを取り出した。
「化粧品買ってくれたんです!お金ないのにわたしのために無理して…読モになったんだからこれくらい持ってないとダメだよって。わたし、こういうの興味なかったら何も持ってなくて…だからわたしにとってお姉ちゃんは頼りがいのある姉でもあり、尊敬できる読モの先輩でもあるんです」
裕香が本当はこんな風に思ってくれてるなんて知らなかった…
舞香の目に少し涙が溜まっていた。
「舞香ちゃんのことが大好きなんだね。舞香ちゃんはどう?」
裕香が本心で答えてくれたんだ、わたしもちゃんと答えないと。
「裕香はガサツでちょっと男っぽくなったりするときもあって、さっきもわたしのこと姉貴って呼んでましたけど、たまにそう呼ぶので、その度に「お姉ちゃんでしょ」って言い直させたり、結構ケンカが多いんですけど、本当は優しくて心配性で、姉思いのかわいい妹なんです。だから姉として、裕香を素敵な女の子にしないといけないなって、ちょっと口うるさくなったり厳しくしたりしています」
秋葉がニコニコしながら頷ている。
最初から裕香がちゃんと答えてくれてれば、わたしだってこうやって答えるのに。
でもいいか、大目に見てあげよう。
なんたってかわいい妹なんだから。
ところが裕哉は突然言い出した。
「これなら記事になります?持ち上げすぎました?」
コイツ…記事用の答えかよ!前言撤回、まったくかわいくない!
このあといくつか質問し、恋愛に関しての質問も出てきた。
「好きな男性のタイプってどんな人??」
これにはさすがの裕哉も困ってしまった。
考えてみたら裕香って男の人好きなのかな?こないだまで男だったんだけど…
「好きになった人がタイプです…」
お、うまい回答だ。
でも秋葉はさらに突っ込んでくる。
「んー、じゃあ理想のデートは?」
恋愛経験がまったくないし、そういうの興味ないから答えられないよね。
頑張って適当に答えろ、裕香!
心の中で舞香は応援していた。
「は、晴れてる日に公園を散歩したり、おいしいもの食べ歩いたり…ですかね」
まあベターな答えってところかな。
秋葉は「なるほど」と頷き、あまり面白くなかったのか、恋愛に関する質問はこれだけで終わったので2人ともホッとしていた。
そしてとうとう最後の質問になった。
「裕香ちゃんはこれからどんな読者モデルになりたい?」
「いっぱい勉強して、みんなの見本になれるように頑張ります」
やっとインタビューが終わった。
それと同時に裕哉が「トイレに行ってきます」といって部屋を退出していったので
舞香は姉として2人に改めて謝罪した。
「今日は本当にすいませんでした。まったく可愛げがなくてつんけんしてて…記事にするの大変だと思いますけどお願いします」
「そう?かわいい妹じゃない。ねぇ」
秋葉がそういいながら奈緒美に問いかける。
「そうね、なんだかんだ言って舞香のことが大好きなのが伝わったしね」
この2人は何を言っているんだ?
「だって裕香は記事用の答えを…」
「本当にそう思う?そう言ったのは照れ隠しだよ。特にポーチ出したときなんてすごく嬉しそうだったしね」
本当にそうなのかな?
帰りにちょっと探ってみよう。
ということで、帰り道にさりげなく聞いてみた。
「裕香ってわたしのことあんな風に見てくれてたんだね」
「だからあれは記事用の答えだって」
しらを切る気か、だったらこっちは別の返しをしよう。
「わたしは本心だよ、裕香は大事な妹だもん」
「ば、ばかじゃないか。まったく…」
お、顔が赤くなった。
すると裕哉がボソッと呟いた。
「俺…わたしも半分は本心だよ…」
「え?なんて言った??」
聞こえたのにわざと聞き返す。
「うるせーな、なんでもねーよ!」
「あー、言葉遣い!」
「う、うるさいな。もう…」
まったく、素直じゃないんだから。
まあ、これでこそ裕香だけどね。
舞香は一人でクスクスと笑っていた。