去る友達
翌朝、大学に行くための準備を始めた。
きっと…今までの服を着ていったらダメなんだろうな。
仕方ないか…
リビングに行くと、舞香も支度をしていた。
「お姉ちゃん、服…貸して」
それを聞いて、舞香が嬉しそうになる。
「コーディネートしてあげるからちょっと待って」
楽しそうに舞香が服を持ってきた。
「本当はパンツ系でもいいんだけど、インタビューがあるでしょ。きっと写真も撮るから今日もワンピかな」
そういって、昨日とは違うタイプの花柄のワンピースの上にジャケットを羽織り、
レザーのトートバッグを渡された。
こんな格好で大学に行ったらどうなるんだろう…想像しただけで恐ろしくなる。
その服に着替え、メイクもしてもらった。
大学でよく見かけるオシャレな女の子と同じように見える。
いいや、とりあえず行こう。
まだ自分ではできないが、舞香に買ってもらった化粧品の入ったポーチを手に取って
少し考えた。
せっかく買ってくれたんだし…一応持っていくか。
ポーチをバッグに詰めて大学へと向かった。
講義室に入ると、みんながジロジロとみてくる。
誰だろう?という顔をしていて、あまり裕哉と気づいていない感じだ。
気にしない、気にしない…
自分に言い聞かせて、実久の隣に座った。
「前田さん、おはよう」
「君川さん…お、おはよう」
「う、うん…」
その会話を聞いて実久をはじめ、まわりが驚いていた。
「雰囲気が…全然違うね…」
「そう…だよね」
裕哉自身も返答に困ってしまった。
そこへ例によって矢沢たちがやってくる。
「あー、裕香ちゃんがオシャレしてる!」
最近は話しかけてこなかったので安心していたが、
やはりこういう服を着れば話しかけてくるだろうなと予想していたが、その通りになった。
「やっぱりこっちのほうが全然いいよ!」
「あ、ありがとう…」
あまり絡みたくない。
いずれはバレるけど、読者モデルになったことは伏せておこう。
適当に答えてなんとかやり過ごした。
だが、なんとも嫌な1日だ。
やたらと男子が見てくる。
それが一番の苦痛だった。
こんな服装とか変わっただけで気になっているやつらがバカに見えた。
それに裕哉は男に興味などない。
元が男だからなくて当然だ。
あー、早く帰りたい。
変化はそれだけではなかった。
実久がいつもよりよそよそしい。
「君川さん、これから毎日そういう感じにするの?」
「その予定…」
実久にだけは本当のことを言っておいたほうがいいかな。
「実はね…姉に説得されて、読者モデルになったんだ…だから普段からオシャレしなきゃいけなくて…」
「そう…なんだ…。君川さんとは仲良くなれると思ったのに残念…」
残念?どういうことだ??
「別に読者モデルになったからって関係なくない?」
「そうかもしれないけど…わたしね、オシャレとかに興味ないから、そういう人って苦手なの…」
「わたしだって好きじゃないよ!でも仕方なく…」
「それでも君川さんはオシャレしてるし…」
「中身はなにも変わってないから」
「そうかな…でもやっぱり…ごめんね」
そういって実久は裕哉の前から逃げるように去って行ってしまった。
なんなんだ一体!意味がわからない。
やっぱり今日は散々な1日だ。