撮影前の準備2
ランチを済ませてからスタジオに到着すると、舞香に奈緒美のところへ連れていかれた。
こないだは終始怒り顔のイメージだったが、今日は最初からニコニコしている。
「今日はこないだと違って見違えたじゃない」
それは今の格好のことを言っているのだろう。
面と向かって言われると恥ずかしくなる。
「姉…お姉ちゃんが選んでくれたんで…」
「でしょうね」とあっさりと返されてしまった。
まあ、奈緒美じゃなくても以前の裕哉を見ていれば誰でもそう思うだろう。
「舞香は先にメイク室に行って。裕香には契約とかの話があるから」
「はーい」と返事をして舞香がメイク室に入っていく。
裕哉は奈緒美と一緒に別の部屋に向かった。
「まずはやる気になってくれてありがとう。正直ダメかなって思ってたんだよ」
「い、いえ…でもなんで自分なんかが…」
緊張して普通にしゃべってしまった。
俺と言わなかっただけマシかもしれないが。
「自分だなんて、男の子みたいな話し方するんだね」
奈緒美は怒ることもなく笑っていた。
「舞香から聞いたと思うけど、本当に反響が大きかったの。特に姉妹っていうのがよかったみたい。だからね、姉妹のモデルでLaLaを押し出していこうって方針になったの。正直、舞香はうちの雑誌の中では5番手くらいの人気なのよ」
姉貴は5番手なのか、てっきり1番人気があるのかと思ってた。
「ビジュアルもいいしセンスもいい、スタイルもいい、でも今一つ殻を破れないというか…本人がかなり頑張ってるのはわかってるんだけどね。そこで白羽の矢が立ったのが裕香。姉妹でモデルっていうのはうちでは初めてだから斬新だし、いい相乗効果が期待できるのよね。わたしとしては、舞香と裕香で1位2位を争うくらいの人気モデルになってもらいたいと思ってる。だから裕香に期待しているから頑張ってね」
自分が加わった程度でそんなに変わるとは思えない。
それどころか、勝手に期待されてプレッシャーを感じてしまう。
でもやると決めた以上、期待に応えられる努力はしないといけないな、とも思った。
「さてと、ここからは仕事の話ね。まずわかっていると思うけどLaLa以外のファッション雑誌には出ない。それ以外の雑誌などに載るような話があっても必ずわたしに連絡をして。出ていいかどうかはこっちで判断するから」
専属になるというのはこういうことだ。
「わかりました」と返事をすると、奈緒美は次にお金の話を始めた。
「単独で1ページを飾ったら10000円、それが特集ページだと倍の20000円、複数だと5000円、特集で複数は7000円。人気が出れば出るほど単独で出ることが多くなるから」
ということは、こないだの撮影だと7000円になるのか。
そういえばお金もらってない…姉貴め、くすねたな。
それにしても、思ったより安いんだ。
裕哉は自分が載ってる最新号を思い返した。
舞香はどれだけ載っていたか。
まず単独が2ページだったかな。
そのうち1ページは特集だった気がする。
あとは裕哉と一緒に載ったのを合わせて5ページ。
計算すると57000円にしかならない。
あんなに努力しているのに全然儲かってないじゃないか。
あの莫大な服とかはどうしているんだ?
「意外と安いと思ったでしょ」
「あ、いや…」
「本当はもっと出してあげたいんだけど、人数もそれなりにいるからこれが限界なの。だからそんなに人気がない子は普通に他のバイトしたりもしてる」
そんなもんなのか。
「でもお姉ちゃんはこの仕事以外は何もしていないですよ…」
「そうなんだよね、舞香はこの仕事にプライドを持っているから、他の仕事での収入は得たくないって。そこまで言われちゃうとこっちも何かしてあげたくなるじゃない。だから撮影で使った服とかをあげたりしてるのよ。服って大抵は撮影に使ったものは返却しなくていいの。だからこないだのも裕香にそのままあげたでしょ」
あれはそういう意味だったのか。
てっきり元の服がダサいから着て帰れという意味なのかと思っていた。
しかし、今の話を聞いて納得。
舞香が持っているほとんどの服が撮影に使ったものだった。
「ということは今着てるのって…」
「そのワンピースも撮影で使ったやつだよ」
「そうだったんですね」
「じゃあ話はここまで。裕香もメイク室へ行って支度してきて」
「は、はい…」
お金などリアルな部分の話をしたおかげで、裕哉の中にも実感が沸いてきた。
もう俺も姉貴と同じ読者モデルなんだ。
自分を鼓舞してメイク室へ向かった。