0,死ぬことより怖いこと
現実的で世界を達観したような主人公よりも、人情味にあふれた主人公が好きです。
吐く息が白い。手がかじかむ。
さびれた神社の前に立ち、今にも千切れそうな鐘をカランカランとならす。そしてお賽銭を入れる……5円玉。
願うのは当然、「うまく話せるようになりたい」。それだけだ。
ただいま、高校3年の1月である。
☆
学校のみんなが冷たいわけじゃない。あぶれてる僕を見かねて「元気かー?」と尋ねてくれる優しい子もいる。だがその時僕は。
1,「元気だよ」
2,「元気かもしれない」
3,「今日はいい天気だね」
4,「5君(6あなた・7お前・8お主・9〇〇君10〇〇)は今日も元気だね」
などの選択肢が次々と湧き出てきてどうしようもなくなる。
「げげげげげげげっ」
「げ?」
「お主今日も良い元気じゃねっ!?」
「お、おーう」
辛い。マジで辛い。
何が辛いって、こんな僕に親切に話しかけてくれる人をこんなに困らせてしまうことが。
家では。
家族が心配するので。
「今日学校どうだった?」
「うんとねー、〇〇君が補修サボって怒られてた」
「〇〇君とは仲いいの?」
「う、うん。毎日話すよ」
辛い。
12月31日の夜、クラスのみんなが「俺ら全員で除夜の鐘行こうぜー」と言っていたので、勇気を出して僕も行った。
その集団はすぐに見つかった。木陰に身をひそめ彼らを観察する。なんだか数が少ないような?
「ラインでさ」
「おう」
「もう寝まーす、が28件」
「あいつらまじふざけんなっ」
この距離だと何言ってるかわからないがみんなが携帯を出してるので、僕も携帯を取り出してみると、示し合わせたような連携プレーで「もう寝まーす」が増えていく。あ、また増えた。
……僕もそうしようかな。一応、「もう寝まーす」とボックスに入れたものの送信する勇気が出ない。よく考えたらこれまで「よろしくお願いします」以外発言したことないな。
あ、連打止まった。総計30件の「もう寝まーす」だ。出遅れた。僕はボックスに打ち込んだそれを急いで消した。
じっと息を潜めて集団を見る。7人しかいないな。
「ま、いいか。俺たちだけで行くかー」
「ああ、ん? あれ、友季じゃないか?」
「あ、ホントだ」
ん? ん? 目が合った?
「確保ーっ!」
ん!?
みんなが走ってこっちに来る。僕は逃げた。そりゃもう全力で。
で、
逃げ切れた。
なんで逃げ切れちゃうかなぁ、もう。
ゴーンと鐘が鳴り始めた。切なくて涙が出そうになった。
☆
ああダメ。落ち込む。立ってられない。ボロボロの神社に腰かけた。
こんな風に気分が沈むのは珍しくない。そういう時は。
「帰って猫ちゃんとあそぼ」
それに限る。
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3月のある日、みんな受験が終わってホッと一息。受かった人も受からなかった人も等しく教室にいた。
結局、友達出来なかったな、と思ったが、みんなの少しハメを外した会話を聞いてるだけで楽しかった。たまに心の中で話しかけたりもする。そこだとうまく会話できるのにな。
しばらくすると、先生が入って……うん?
女子が悲鳴をあげる。
ガタガタっと椅子を倒す音が響く。
みんな教室の後ろに走って逃げる。
入ってきたのは先生だった。
まるでヘドロのような流動体が先生の体を覆い、気味悪げなチューブが全身から生えている。
「キシャアアアアアッ!」
パニックだった。
後ろの扉から逃げた生徒は多い。しかし、腰が抜けて逃げ遅れた生徒も多くいる。
ジリジリと近づいてくる異形。その前に僕は、立った。
「友季くん!?」
怖い。怖いけど、僕が友達になりたかった大好きな人たちが死ぬのはもっと怖い。
みんなたくさん話しかけてくれた。応えられなかったけど、たくさんの優しさを貰った。
このクラスのみんなは世界で一番だと思う。僕みたいなのがいてもなお世界一だ。
椅子を異形に叩きつける。異形は怒りをあらわに飛びかかってきた。生身の先生が背後に倒れこんだ。代わりに僕は異形に覆われた。
息苦しいし、脳をいじられているのか、だんだんと自分の意識というものがあやふやになってきた。
最後に残っていたのはみんなへの感謝だけだ。僕は自分の身体を必死で動かした。歩くのがこんなに難しいとは知らなかったな。
ここからはくだらない辞世の句だ。みんなに届かないのは分かっているけれど、本当に勝手だけど、言いたい。
「ありがとうみんなのおかげで楽しかった.」
窓から僕は身を投げた。
☆
3年8組。その教室は荒れに荒れていた。異形の残した気色の悪い液体がそこかしこに散乱していて臭いもひどい。
だがそれ以上に。
クラス全員が友季の最期に会した。
取り残しがいることに気付いた先に逃げたグループが意を決して戻って来ていたのだ。彼らが教室に着いた時見たのは頭を異形に侵食された友季の姿だ。
ジリジリと窓枠まで歩み寄る。誰もが、彼がこれから何をしようとしているのかを察した。
誰も動けなかった。その中で、その声は不思議と鮮明に響いた。
「ありがとうみんなのおかげで楽しかった.」
安堵か、悲しみか、それらいっぱいの感情で8組は荒れに荒れた。
泣き叫ぶ者がいれば、急いで窓枠に走り寄って友季の名前を叫ぶ者もいた。
異形は友季の死後ジリジリと移動を始めた。だが学校中の避難が完了しており、やがて次の宿主を見つけられないまま日に焼かれ朽ち果てた。
拙作を読んで下さりありがとうございます。
主人公の心のうちの葛藤とかもっと描きたいのですが文章力が稚拙なため難しいですね。精進します。