最後の5分
「広にぃ...」
由美は泣いていた。
「由美、行くな!」
「でも、私が行かないと、広にぃが...」
「俺のことは、どうでもいい!」
パシンッ!
「ぐっ!」
「広にぃ!自分はどうでもいいとか、そんなこと気軽に言わないで!」
「でも、お前だって俺を助けるために...」
「私は広にぃを信じてる!」
「えっ?」
「広にぃが助けに来てくれるって...私を連れ戻しに来てくれるって!」
『信じてる』その言葉を聞いたとき、広夢は昔の出来事を思い出した。
-----------------------思い出------------------------
ある日のことである。
「こっちまで来いよ泣き虫由美!」
「私の鞄返してよ!ぐすんっ。」
「嫌だね!」
「どうして...どうしてこんなことするの!」
「僕のお母さんが言ってたんだ、お前のお父さんは悪い人だって、人殺しなんだって。だからお前も悪い人なんだ!」
「私のお父さんは悪い人じゃないもん!それに...あの時お父さんは私を守るために...」
「うるさい!お前もお前のお父さんも悪い人なんだ!」
「悪くないもん...悪くないもん!」
由美は少年に飛びかかった。
「いってぇ!何しやがる!」
少年は由美蹴飛ばした。
「痛い...痛いよぉ...」
その時
「おい!俺の妹に何してるんだ!やめろ!」
「お兄ちゃん!」
「大丈夫か!由美!」
「うん...」
「お前!俺の妹に怪我させやがって...殴る...1発殴る!」
「ひぃ!?」
少年は広夢の顔を見ると怯えて、逃げてしまった。
その時の広夢は我を忘れていて、その顔は誰もが恐怖する程のものだった。
「まて!」
広夢は少年を追いかけようとしたが、由美がそれを止めた。
「だめ!あの子を殴ったらお兄ちゃん怒られる...」
「俺のことはどうでもいい!あいつを...お前を傷つけたあいつを殴らないと気が済まないんだ!」
「お兄ちゃん!自分のことをどうでもいいなんて言っちゃだめ!」
「由美...でも...」
「私は...お兄ちゃんが私のせいで怒られるのが嫌なの!」
「.....」
「だから、もう誰かを殴ったりしないで...」
「わかったよ...でも」
「でも?」
「俺はこれからずっとお前のそばにいる、お前が虐められそうになったら、俺がお前を守ってやる」
「お兄ちゃん...ありがとう」
「じゃあ帰るぞ」
「うん!お兄ちゃん、今の言葉『信じてる』からね!」
あぁ、あのとき俺は約束したんだ。由美を守るって。
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「お兄ちゃんが、私を助けに来てくれるって、連れ戻しに来てくれるって!」
「俺は...」
「私はまだあの約束を忘れてないよ!」
「えっ!?」
由美はあの時のことをまだ覚えていた。覚えていてくれたんだ。
「そろそろ5分です。行きますよ」
「うん...」
「待ってくれ!由美!!」
「お兄ちゃん...行ってくるね」
「俺は...俺は絶対にお前を取り返す!そして、また一緒にシチューを食べよう!」
「うん!約束だよ?」
「あぁ、約束だ!」
「それでは転移します」
「バイバイ、お兄ちゃん...」
由美は、泣きながらも必死に笑顔を作っていた。
「転移!」
「由美!!」
カチャッ!ブウォンッ!
由美を含めた4人が門にに吸い込まれ消えていった...