96話「ジェネシック・ゴーガン」
中学時代の俺はコミュ力もそれなりにあり、友達もそれなりにいたが、その中でも親友と呼べる存在が1人だけいた。
「大空澄人……」
小学校入学時からの付き合いで、互いにアニメや漫画が好きで、なんとなく話す時の空気感も合う。
互いに親友だと確認し合ったわけではないが、相手もそう思ってくれていると確信できるくらい仲が良い存在だった。
「懐かしいな……」
中学生になってからずっとクラスは違ったが、それでもよく一緒に遊んでいた。
だが、中学2年になった頃。澄人が柄の悪いグループとつるみ始めてからは、徐々に距離ができるようになっていった。
「あの時にちゃんと話を聞けていれば……」
澄人とは合わなそうなグループだったため、心配になって何度も声をかけたのだが、「大丈夫」の一点張りだったので詳しくは聞かずに過ごしていた。
そして中学3年になったある日、澄人が学校へ来なくなった。
「もっと早く澄人の変化に気付けていたら、違う未来があったのかな……」
何度も家を訪ねたが会うことは出来ず、それからしばらくして、澄人は誰にも言わずに転校していった。
当時はスマホも持っておらず、引越し先の電話番号も知らなかったため、何も言わずに転校していった澄人に事情を聞くことは叶わなかった。
そんな時、ふと思い立ってこの秘密基地にやってきたのだ。
「あの時も、こんなふうに手紙が置いてあったな」
目の前の秘密基地に入ると、ボロボロのテーブルの上には当時と同じく白い封筒に入った手紙が置いてあった。
そこには、2年の頃に柄の悪いグループに目をつけられてから、暴行やカツアゲなど、相当酷いいじめを受けていたこと。
そんな時期に親の出張が重なり、転校が決まったこと。
そして、最後まで何も相談せず、何も言わずに転校してしまったことへの謝罪が書かれていた。
「それを知って、怒りのままにいじめてた奴らに突っかかって、返り討ちに遭って……」
……先ほどの教室での光景に至ったのだ。
その後は俺がいじめの標的になりそうだったが、高校受験が近づくにつれてそんな空気もいつしかなくなり、澄人のことを話すクラスメイトもいなくなった。
というより、澄人の一件は腫れ物を扱うような形となって、みんなが忘れようとしている雰囲気があった。
「都会への憧れもあったけど……この一件も、札幌へ進学する後押しになったんだっけな……」
もとから都会の高校へ行きたいという思いは強かったが、澄人のことを忘れようとしている友人たちを理解できず、次第に心の距離ができたことも、札幌の高校に進学を決意した理由の一つだった。
余談だが、怪我だらけで帰ってきた俺を見た両親が学校に相談して情報を集め、相手の親に事情を話し、いじめっ子たちはそれなりの罰を受けた。
相手の親も相当な抵抗を見せたらしいが、部族間の抗争を止めたり、他国の登山隊と交渉を行うほどの話術とパッションを持つうちの両親には敵わなかったらしい。
「……封印能力で抵抗力が下がっていたのか、思いの外心に響いたな」
そう呟きながら澄人の手紙をテーブルに置き、莫大な霊力を放出する。
どうやら、先ほど感じた怒りで封印能力に抵抗できたらしい。
「悪手だったなぁ、千年将棋」
トラウマを蘇らせて時間を稼ごうとでも思ったのだろうが、逆に封印の解除を早める結果となったようだ。
「さっさとここから出るか」
莫大な霊力の影響で常世結界に異常が発生しているのか、ガラスにヒビが入るような音が至る所から聞こえて来る。
「その前に、まずは結界内の妖を倒してからだな……『散炎弾』」
使役された妖がいるであろう方向へ向けて、現実では到底発動することができない、全力の散炎弾を放った。
◇
岩の妖が黄金巨兵を押さえつけ、蜘蛛の妖が黄金巨兵の頭に乗るニアとウルを絡め取るように糸を放ち、鬼の妖もそれとタイミングを合わせて肉弾戦を仕掛けてくる。
「糸ノ操作ニハ自信ガアリマシタガ、本業ノ技ハ凄イデスネ」
「ぎゃーっ!結界結界結界結界結界結界ー!」
そんな状況の中。ニアは飛んでくる蜘蛛の糸を霊力糸で弾き、肉弾戦を仕掛けてくる鬼はウルが結界を張ることで防いでいた。
しかし、糸の操作精度は蜘蛛の妖の方が高く、結界も鬼の怪力で次々と破壊されていくため、戦局はニアとウルが不利な状況であった。
「押サレテイマスネ。ウルサン、ドウデスカ?」
「準備は……できた!いつでもいけるよ!」
「デハ始メマショウ。黄金巨兵ト僕タチダケデハ、コレ以上保チソウニアリマセン」
「おっけー!『製鉄工場』!」
ニアの言葉にそう返し、結界を連発しながらも術のイメージを固めていたウルが製鉄工場を発動した。
すると、集まった砂鉄が形を変え、鉄製の鷹型と虎型と2体の土竜型ゴーレムが出現する。
「そしてー、合体!!」
ウルの掛け声で黄金巨兵が飛び上がる。
同時に、変形した2体の土竜型ゴーレムが両脚に、分解された鷹型ゴーレムは背中と腕に、変形した虎型ゴーレムは肩と胸部を覆うようにして装着され、最後に余ったいくつかのパーツが兜のような形となって頭部に装着された。
「「搭乗!」」
最後に頭部のハッチが開き、様々なレバーやスイッチが付いたコックピットへニアとウルが搭乗した。
ちなみに、レバーやスイッチは全て飾りだ。
「完成デス!」
「超絶合体!ジェネシック・ゴーガン!!」
脚部に装備された土竜型ゴーレムによって岩の妖に迫る高さとなり、各部に装備された武装によって威圧感の増した黄金巨兵が、鋭い眼差しで敵を睨みつける。
この『ジェネシック・ゴーガン』は、ニアとウルが何日も夜更かししながら構想を練り、何度も練習を重ね、血の滲むような努力の末に完成させた必殺技だ。
変形する必要性は一切なく、むしろ変形中に攻撃を受ければ合体は失敗するという大きなデメリットを抱えているのだが、2人の求めるロマンの前では些細な問題なのである。
「キシャァ……」
「ゴッ……」
「グルァ……」
今回は相手の妖が予想の遥か斜め上をいくウルたちの行動に警戒心を高め、変形が終わるまで様子見に徹したため、ジェネシック・ゴーガンは無事に爆誕できたのであった。
「それじゃあいっくよー!」
敵が困惑している中、ウルの声で戦闘が再開された。
「イーグルウイング!展開!」
ウルの声に反応し、背中の羽が大きく開く。
ジェネシック・ゴーガンの操作権はニアにあるため、正確にはウルの声に合わせてニアが操作しているのだが、ウルはノリノリなので気にしていない。
「キシャァ!」
そんな様子を見た蜘蛛の妖が、ジェネシック・ゴーガンの飛行を防ぐために特大の蜘蛛の巣を空中へ放出する。
しかし、空を飛ぶかに思われたジェネシック・ゴーガンはそのまま体勢を低くし、岩の妖の足を薙ぎ払うようにして鋭い蹴りを放った。
「ゴゴォ!?」
上に意識を持っていかれていた岩の妖は完全に虚をつかれ、体勢を崩して倒れる。
そして、ジェネシック・ゴーガンはゆっくりと落ちてくる蜘蛛の巣を、余裕を持った動きで避けたのだった。
「ジェネシック・ゴーガンニハ、飛行機能ハアリマセン」
そう、ジェネシック・ゴーガンに飛行機能はないのだ。背中の翼はただの飾りである。
加えていうなら、合体前の鷹型ゴーレムにも飛行機能はない。
合体時の一時的な飛行は、ゴーレムが飛び上がったタイミングに合わせてニアが無理矢理霊力糸で吊り上げているだけなのである。
「ガウッ!」
「きたわね。ドリルアーム!展開!」
体勢を崩した岩の妖を庇うように鬼の妖が接近戦を仕掛けてくるが、右手がドリルに変形したジェネシック・ゴーガンが、それを待ち構える。
「いっけぇー!ギガドリルパンチ!」
一切回転していないドリルが、鬼の拳と合わさる。
変形合体というロマン構造にイメージを費やしたため、ジェネシック・ゴーガンは回転という複雑な機構を備えていないのだ。
それでも、鉄製のドリルは硬く鋭い。そんなただ硬く鋭いだけのギガドリルパンチは鬼の拳を易々と砕き、その右腕ごと鬼を粉砕した。
「キシャァ!」
「甘いわよ!タイガーヘッドぉ!」
鬼の妖が倒されると同時に、硬度が高く鋭い槍のような糸の塊を蜘蛛の妖が射出した。
だが、ジェネシック・ゴーガンの胸部にある虎の頭部が高速で飛来する糸の槍を口でキャッチし、噛み砕く。
実際はニアの尋常ではない操作技術によって実現した神業によるものだが、防がれると思わなかった蜘蛛の妖に僅かな動揺と隙が生まれた。
「今だ!膝ドリル展開!ギガドリルキック!」
ジェネシック・ゴーガンの膝からドリルが出現し、回転しない膝ドリルのついた蹴りによって蜘蛛の妖は消滅した。
ちなみに、蹴りは最も勢いの強い爪先で放ったため、膝のドリルは一切使用していない。
「これでトドメだぁ!分離!」
合体した各パーツが分離し、ニアの霊力糸による強引な接続で鷹型と虎型と土竜型のゴーレムへ再変形。
そこへ黄金巨兵も加わり、総勢5体のゴーレムによる集団攻撃によって岩の妖も粉砕した。
「正義は、勝つ!」
ゴーレムの生成後は何もしていないウルがそう締めくくり、3体の妖とニアとウルの戦いは幕を閉じたのだった。
いじめの話題は繊細ですが、高校生が主人公の物語を描く上で必ず入れたいと思っておりました。
今後もこの話題に関するお話は描く予定ですが、なるべく爽快な終わりにしたいと思っておりますので、お付き合いいただけると幸いです。
そして、ジェネシック・ゴーガンは書籍化できるのか、コミカライズが追いついた際、航島先生は描いてくださるのか……乞うご期待です!
とりあえず、覇界王ガオ◯イガーのURL貼っておきますね。
https://hobbyjapan.co.jp/ggg/comic.php