85話「好奇心大爆発」
『異世界転生……されてねぇ!』はまだまだ続きます!
「きゃーっ!写真は送ってもらってたけど、実物はさらに可愛いじゃない!やだー、精霊ちゃんも超可愛いわ!私娘が欲しかったのよね〜。まさかこんな形で夢が叶うなんて思わなかったわ〜」
「喋る猫、意思疎通のできるカラスか。動物と会話できる人にはあったことがあるけど、誰とでも意思疎通できる動物とは初めて会ったよ。そしてロボットに意志を持った刀、いやいや凄いな。夜中に動く人形や怪しげな雰囲気の武器は見たことあるけど、そんなものとは比べ物にならないぞ」
クロたちを紹介した途端、予想通り両親の好奇心は大爆発した。
そして、クロたちは両親にこれ以上ないほど揉みくちゃにされている。
「ぐおぉ……」
「カアァ……」
「ううぅ……」
「うぐぅ……」
クロとシロとリンとウルは、すでに疲弊しているようだ……隠し芸を披露するとか言っていたが、そんな余裕は無さそうだな。
「にしても、予想通りだったなぁ……」
好奇心大爆発中の両親を見ながら、そんな感想を漏らす。
うちの父さんは理性的なインテリ眼鏡で、母さんは穏やかな優しい雰囲気だが、とんだ見た目詐欺だ。
父さんは秘境の部族に会いに行くレベルの冒険好きで、母さんは8000m級の山に挑戦するレベルの登山好きというパワフルな趣味を持っている。そのため、並大抵のことでは驚かない。というより、驚けないらしい。
未知の出来事を前にすると好奇心が勝ってしまうそうだ。
「おっと、そういえば僕らの自己紹介がまだだったね。僕は幸助の父の『結城直助』です。よろしく」
「幸助の母の、『結城美奈』です。よろしくね」
「よ、よろしくお願い致します……」
「カ、カー……」
「よろしくー……」
「よ、よろ……」
「ヨロシクオネガイ致シマス」
「……」
ニアとカル以外はもう限界のようだ。
だが、そのお陰でようやく両親も落ち着いた。みんな、本当にお疲れ様。
「さてと、自己紹介も終わったことだし、幸助!」
「は、はい!」
父さんが眉を吊り上げ、怒りをあらわにしながら俺を睨んでいる。
父さんの怒りはもっともだ。俺がもっと早く事情を説明していれば、母さんとの離婚話になんて発展しなかったはずだ。ここは真摯に謝ろう。
「今聞いた話が本当なら、なんでそんな不思議体験に父さんを誘ってくれなかったんだ!陰陽術師の試合?異能組織のビルを倒壊?魔術師との戦い?どうして、どうして私も呼んでくれなかったんだぁぁあああ!……ごふっ!」
「お父さん、まずはこうくんの無事を喜ぶべきでしょ?まったく、すぐ好奇心に負けて我を忘れるんだから」
父さんの怒りは予想と全然違う内容だった。そして、母さんが父さんの脇腹に美しいジャブを決めて静かにさせた。
母さんの方が好奇心に負けると大変なことになるのだが、今はリンとウルを可愛がったおかげで理性を取り戻しているようだ。
「そういえば、離婚の話になったことは気にしなくていいからね。私がお父さんの話をちゃんと聞かなかったのも悪かったの。もっと理性的に話し合えばよかったと反省しているわ」
「ふっ、僕は昔から母さん一筋だよ。君の理性が怒りや好奇心でどれだけ吹き飛ぼうと、その事実だけは変わらない」
「あなた……」
どちらかの理性が吹き飛んでいる時は大抵どちらかが理性的なため、ちゃんとその場を収めてくれる。ある意味ベストカップルなのかもしれない。
とりあえず、本当に離婚にならなくてよかった。
「あらごめんなさい、話を戻すわね。メールで今回の内容を聞いた時からお父さんと話し合っていたの。こうちゃんがどれだけ危ない目に遭っていたのか。そして新しい家族と、こうちゃんのこれからについてね」
母さんが真剣な表情でそう切り出した。そして、父さんも同じく真剣な表情で語りかけてくる。
「流石に今の幸助には負けるが、僕たちも若い時はやんちゃをして親にたくさん心配をかけたものだ。知らない土地で身包み剥がされたり、猛獣に襲われたり、部族間の抗争に巻き込まれたりな」
「私も凍傷で指が取れかけたり、悪天候で食料が尽きるほどの足止めにあったり、クレバスに落ちて死にかけたりもしたわね」
人のことは言えないが、父さんも母さんも負けず劣らずのやんちゃエピソードな気がする。クロたちも少し引いている。
「でもね、私たちはこうくんが無事ならそれでいいの。自分が平穏な人生を送ってこなかったから、こうちゃんに言えた義理ではないんだけど……本当は無茶はして欲しくないし、危ないことなんて絶対にして欲しくない。こうちゃんに死ぬようなことがあったら、私は後を追うと思うわ」
「もちろん僕も同じ気持ちだ。幸助、お前は僕たち夫婦の生き甲斐なんだ。生き甲斐だった趣味を捨ててでも守りたいと思った、大切な存在なんだよ」
「母さん、父さん……」
昔、父さんと母さんが使っていたパスポートを見せてもらったことがある。色々な国の出入国スタンプが押されていたパスポートの中身は圧巻だった。
でも、その中で一番新しいスタンプの日付は、俺が生まれるすぐ前だった。つまり、父さんと母さんは俺が生まれてから一度も危ない旅には出ていないのだ。
2人は趣味を捨てて、俺を育ててくれたのである。
「でもな、特殊な力を持つ人間にはそれに見合った行動や責任が求められるようになってくる。僕の力を借りたい人たちから仕事の依頼が来て、それに伴って危ない目にもあったし、大きな責任を背負ったこともある」
「もちろん、どうするかの決定は自分自身がするものよ。でもこうちゃんは優しいから、どうせ自分の安全とか顧みないで人助けとかしてるんでしょ?」
「うっ……」
母さんはやはり鋭い。いや、父さんも気付いているみたいだな。
異能組織や魔術師との戦いを説明した時はソージたちや学校のみんなを助けるために戦ったということまでは言わなかったのだが、すでに2人とも察しているようだ。
「そこは本当にお父さん似ね。私が知らない部族に絡まれている時、変なお面を付けて助けに来てくれたお父さんの勇姿を思い出すわぁ」
「はっはっは、何を言っているんだよ。母さんだって、僕を騙そうとした現地ガイドに制裁を加えてくれたじゃないか。現地ガイドの顎を撃ち抜いた美しいアッパーカットは今でも鮮明に覚えているよ」
変なお面にアッパーカットか。あまり自覚はなかったが、俺はこの2人の血を色濃く受け継いでいるようだ。
「少し話がそれちゃったわね。こうちゃん、あなたには無事でいてほしい。できれば、人助けなんかしないで自分の無事だけ考えて、平穏に生きてほしいと思ってる。でも、きっとそれは無理なのでしょうね。私たちの子供だもの」
「だからこそ、人生の先輩である父さんと母さんからのアドバイスだ。困った時は周りに頼れ。僕が助けた母さんが僕を助けてくれたように、お前が助けた人たちは必ずお前を助けてくれる。それに、頼もしい家族もできたみたいだしな」
そう言いながら、父さんと母さんはクロたちのほうを向いて頭を下げた。
「どうか、息子のことをよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「儂らは家族だ。お願いなどされずとも、主人のことは必ず守る」
「カカーカ!」
「リンも守る!」
「モチロン、僕モ同ジ気持チデス」
「私もおんなじ気持ちだよ!」
クロたちは父さんと母さんの言葉に、自信に満ち溢れた表情でそう返した。きっと、2人を不安にさせないようにという配慮もあるのだろう。
あと、カルも同意だという意思表示をしてくれてるのか、強く光り輝いている。
「父さん、母さん、ありがとう。クロ、シロ、リン、ニア、ウル。そしてカルも、本当にありがとうな」
自慢の家族が多すぎて困る。
「もちろん、困ったことがあれば僕たちにも遠慮なく頼ってくれ。幸助の家族ということは、僕たちの家族でもあるからな」
「言っておくけど、こうちゃんもみんなをちゃんと守ってあげるのよ。家族なんだから」
「言われなくても分かってるよ」
クロたちのことも本当の家族だと思っている。もしもそんなクロたちに何か起こるようなら、全力で助けるのは当然だ。
そして、それを聞いていたクロたちもどことなく嬉しそうだ。
「さてと、それじゃあ歓迎会といきましょうか!」
「今日はいい寿司をとってあるからな。贅沢に過ごすとしよう」
「すしー?」
「寿司だよ寿司!ほら、スーパーで半額の時にご主人様が買ってきてくれるやつ!」
ウルにさりげなくうちの経済状況をバラされながらも、その夜はスーパーで半額のやつとは比べ物にならないレベルの寿司を堪能した。
余談だが、明らかに見た目の体積を超える量を食べられるウルの異次元胃袋を見て、両親の好奇心が再度爆発していた。