84話「ネーミングセンス」
「この子も連れてくー!」
「連れてくって、明らかに銃刀法違反だからダメだよ」
帰省の準備中、リンが例の刀を抱きしめてそんな我儘を言い出した。
この刀は結界に閉じ込めて居間に置いておいた筈なのだが、いつの間にかそこから脱出してリンと共に誘拐犯の確保に協力していたらしい。
「だいじょうぶって言ってるよー」
「えっ?」
リンがそう呟くと、抱きしめていた刀は家の鍵へと変化した。
キーホルダーやコーティングの剥がれ具合までしっかりと再現されている。芸が細かい。
「こんな能力があるのか。っていうか、この刀の言ってることが分かるのか?」
「なんとなくだけど、わかるよー」
サイリウムみたいに光った時から思っていたが、やはり意思を持っているのか。
意思を持った刀、ますますヤバそう。
「誘拐犯の確保時も家の鍵に化けてリンが連れていったようだな。化かすことと見破ることには自信があったのだが、不覚だ」
クロはクロで謎の対抗意識が芽生えている。
まぁそれは置いといて。刀からは悪意を感じないし、リンが気に入っているようなので連れていっても良いだろう。
「誘拐犯との戦いでもリンを助けてくれたみたいだし、ちゃんと意思もあるから、新たな家族として迎え入れるか」
「お主がそう決めるのなら異論はないぞ」
「カカーカ」
「僕モ問題ナイト思イマス」
「順番的に私の弟になるわけかー。もしかして妹?」
「やったー!家族ー!」
反対意見は無いようなので、刀が家族になりました。実家へ帰った時の説明も増えました。
「名前を決めてはどうだ?」
「名前か……」
ネーミングセンスに自信はないけど、クロ達の名前は全部俺が決めたため、みんなからの期待の眼差しが凄い。
気のせいか刀からも期待の籠った視線を送られている気がする。
「刀なのに、光るし変わる……」
みんなの名前も2文字だから、それに合わせて2文字が良いな。だとすると、特徴に共通した2文字だけ使うか。
「それじゃあ、お前は『カル』だ。光るし、変わるし、敵を狩るとか。そんな意味を込めてつけました」
俺の言葉を聞いた直後、家の鍵に変化している刀が七色に光出した。
これは、気に入ってくれたということなのだろうか?
「うれしいみたいだよ!」
「そうか、それは良かった」
リン曰く、カルは喜んでいるらしい。
「それじゃあ、明日に備えてそろそろ寝るか」
「カルも一緒にねるー!」
カルは抱き枕へと変化して寝る準備万端といった様子なのだが、ご機嫌なようでずっと七色に輝いている。
結局、寝る時間になっても一向に光がおさまらないため、カルを毛布でぐるぐる巻きにしてから寝た。
◇
「ふあぁぁぁぁぁ」
電車の車内では、委員長が両手にクロとシロを抱えて非常にご満悦だ。
委員長の仕事場所が俺の帰省先ということで、術師の職業体験をお願いしていた。
三連休の1日目は親への説明に費やし、2日目からは委員長のお仕事を手伝う予定だ。そのため、今は一緒に電車で滝川へと向かっている。
ちなみに、これから向かう先は滝川『たきかわ』市で、オカルト好きで俺の脛を蹴ってくるのは滝川『たきがわ』だ。ややこしいね。
「ふあぁぁぁ、最っ高」
委員長にシロ達を紹介した時はあまりにも特殊な面子に驚いていたが、クロとシロを抱きかかえた途端に考えるのをやめ、今はリラクゼーション中である。
本当に動物が好きなんだな。
「そういえば、水上さんはこれからフリーの術師さんに会って仕事を始めるの?」
「そうだよ。最初は滝川市の周辺の市町村を回って、2日目からは滝川市を中心に活動するかな。だから、結城くんとはその時に合流することになると思うの。もしかしたら案内とか頼むかも知れないけど、それでも大丈夫?」
「実家は滝川市の外れの方だけど、案内は大丈夫だと思う」
実家は滝川市の郊外にあるため、隣の家までは50メートル以上離れており、野良猫よりもキタキツネとの遭遇率が高いという場所だった。
そんなど田舎郊外住まいだったため、小さい頃から遊び場を求めて滝川の市街地まで自転車を走らせていたので、地理にはそこそこ詳しい。
「そういえばこの前聞きそびれたんだけど、フリーの術師って何か資格とかいるの?」
これからもフリーの術師と名乗る機会はあると思うが、「それじゃあ資格を見せてください」とか言われると困ってしまう。
「資格はないよ。拠点にしている土地を担当してる五大陰陽一族の許可があれば、それだけでフリーの術師って名乗って大丈夫。ちなみに、結城くんの活動はとっくにお父さんが許可してるからフリーの術師って名乗って何も問題ないよ」
「えっ、許可だけでいいの?試験とか資格の発行とかもないの?」
「術師の存在自体が秘密だから、資格の発行とかはしてないんだよね」
術師のスカウト、育成、各地の超常現象への対応などなど。術に関する事柄への権限は基本的に五大陰陽一族が持っているらしい。
そのため、その土地の五大陰陽一族に認められればフリーの術師と名乗って活動できるそうだ。
「術を使った仕事の範囲も各地の五大陰陽一族が決めて良いから、隠密特化の式神とか使って意図的に心霊現象を引き起こす仕事をしている人もいるよ」
「心霊現象……あっ!」
以前、そんな心霊番組を見たことがあるのを思い出した。有名なタレントさんが廃墟を探索して心霊現象を撮影できるかという企画の番組コーナーで、高度な隠蔽術式の施された招き猫型の式神が、扉をゆっくり開け閉めしたり床を叩いたりして擬似的な心霊現象を起こしていたのだ。
うわぁ、絶対あれじゃん。
「そんなことしても国のお偉いさんに怒られたりしないんだね」
「普通の人には見えないし、隠密特化の式神は並の術師でも見えないから……何が起きてるかわからないんだよね」
なるほど、術の存在を知っていても、術を監視する力はないのか。
だからこそ、五大陰陽一族がそういう権限を握っているんだな。
「もちろん、権限を逸脱した行為がないように五大陰陽一族同士で互いに監視しあってるから、好き勝手に術を行使する人は滅多にいないけどね。今のところは、このシステムで問題なく回ってる感じだよ」
つまり、心霊番組で意図的に心霊現象を起こすことは見逃されているのか。まぁ、心霊現象といえば心霊現象だもんな。でも意図的だから、グレーゾーンな気がする……。
陰陽一族同士の監視って結構大変そうだな。
「あ、それと今更すぎるんだけど、親にクロたちのことを話してもいいの?」
クロたちを紹介するために帰省することは、学校の屋上で話した際にも伝えていた。その時に委員長には止められなかったので、大丈夫だとは思うのだが……。
「それは全然いいよ。もちろん、親御さん以外に話を広めないようにして欲しいけど、仮に広められたとしても到底信じてもらえるようなことじゃないから……」
「たしかに、実際に術を見せてもマジックと思われそう……」
情報の規制って、意外と緩いんだな。
「むしろ説明がんばってね。水上家に所属してくれている術師の人たちにも家族へ事情を話している人が居るんだけど、みんな説明は大変だったって言ってたから……もしも説明が長引く様なら2日目以降の仕事のお手伝いもキャンセルしていいし、呼んでくれれば私も説明手伝いに行くよ」
「ありがとう水上さん。でも、手伝いは必ず行くよ。たぶん両親への説明は大丈夫だと思うから」
クロたちの説明に関しては、実は何も問題ないと思っている。なぜなら、うちの両親も色々と変わっているためだ。
「もう着いたか、それじゃあここで一旦お別れだね」
「うん、それじゃあまた明日ねっ」
気付けば駅へと到着していたため、委員長とは一旦分かれてバスに乗り換え、実家へと向かった。
さてと、説明に関しては問題ない。本当の問題は、説明後の両親だ。
俺たちの戦いは、これからだ!
招き猫による心霊現象は、コミカライズ2巻収録の書き下ろし小説『心霊番組』の内容となっております。
概要は、本編の通りです。
招き猫で金稼ぎしている術師は別の章でしっかりと登場させる予定です!