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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第四章「一般編」
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79話「凶悪なエネルギーの塊」



「あー、日本語わかるっすか?」

「カー」


 ディエスの問い掛けにシロは首を縦に振りながら答える。


「えっと、結城幸助に君らと協力するよう言われてるんすけど、その話って聞いてるっすか?」

「カカーカ」


 部下のカラスから状況は聞いている。と伝えるようシロは鳴き、首を縦に振った。


「カカー、カカーカ、カーカ」

「……へ?何て言ってるんすか?」

 

 衝撃波によってアジト内のカメラを数台停止させ、牢屋の中にいるリンへ霊力糸を通して指示を出し、すでに人質は出口付近で待機させている。とシロは伝えようとしたが、洞察力に長けたディエスでもシロの言葉は分からなかった。

 家族としての繋がりがある幸助はシロがどんなに複雑な文章を発したとしても完璧に読み取れるまでに至っているが、出会って間もないディエスへ言葉を伝えることは流石に無理だったのである。


「何て言ってるかは分からないんで、こっちからの質問に首を振って答えてもらっても良いっすか?」

「カー」


 了解した。と伝えるように、シロは首を縦に振った。

 そしてディエスの質問に答えていく中で、すでに人質は出口付近へ誘導している事。敵のボスと思わしき人物とリンの戦闘が始まる寸前である事を伝えた。


「ということは、自分達は他の連中制圧しながらリサさんを救出すれば良いんすね?」

「カー」


 そうだ。と伝えるように、シロは首を縦に振る。


「それじゃあ、左側の装甲車とその周辺の連中は自分が潰すっす。右側から増援来そうっすけど、そっちはまとめてお願いしてもいいっすか?」

「カーカ」


 まかせろ。と伝えるようにシロは鳴くと、周辺のカラスが一斉に鳴き始めた。


「うわっ、何すか!?」


 驚くディエスを他所に、カラスの鳴き声は徐々に大きくなり……瞬間、静寂が訪れた。


「……!?」


 カラスの声だけでなく、木のざわめきや人の足音、あらゆる音が消えた世界。ディエスは突然の静寂に驚き、声を出そうとするが、その音が発せられることはなかった。


「カー……」


 静寂の中、シロの鳴き声だけが静かに響く。

 そして、真剣な表情で集中するシロの頭上の空間が歪んでいき、球体の形へと変化していった。


「……」


 すげぇ……。と呟いたディエスの言葉は、静寂に掻き消され誰にも届かない。


「カー……」


 シロは少し前から強い劣等感に苛まれていた。

 人の域を超えた身体能力を持ち、一目見ただけで対象の技能、能力、特殊な武具の生成方法すらも習得できる主人。

 世界を騙す幻術によってあらゆる能力や現象を再現し、能力を使用せずとも高い戦闘力を誇る伝説の妖。

 情報戦に長け、分析能力も高く、ゴーレムや人形の操作は誰にも負けず、数々の優秀なサポート能力を備えたスマートフォン。

 大気中の魔力を支配し、単体でも強力な魔術が行使でき、側にいることで主人の魔術も強化することができる精霊。

 そして、同じく式神として生まれながら、純粋な正面戦闘では最強クラスの戦闘力を持つ妹。


 そんな周囲の存在から、シロは自身の在り方を模索し続けていたのである。

 魔術をウルから習ってはいるが、未だに何の成果も得られてはいない。索敵や情報収集に関してはニアに遥かに劣る。幸助、クロ、リンに匹敵する戦闘力は一朝一夕の努力で得られる範疇を超えている。


「カカー……」


 そうして悩んだ末に到達したのが、振動を操る自身の特性の追求であった。認識した波であれば音波すらも支配できるその能力を使い、足りない火力は周囲から集め、精密な操作によって威力を調整する。

 その果てに生まれたのがこの技、「(なぎ)」であった。


「カー!!」


 空間が歪むほど集められたエネルギーの一部を、シロは敵へ向けて放つ。


「音が戻っ……うああっ!」

「見えない何かが、ぐおっ!!」

「い、一体どこからっぐわあああ!!」


 放たれたエネルギーは衝撃波へと変換され、武装した集団を次々に撃ち抜いていく。軽装備の兵士は顎や鳩尾を的確に撃ち抜かれ、重装備の兵士は背後の壁ごと吹き飛ばされて意識を失っていった。


「カッカ」


 頭上で空間を歪ませているエネルギーの塊を見ながらシロは静かに考えた。

 今の攻撃で消費したエネルギーは集めたうちの数パーセント程度。これをまとめて放てば一撃必殺の破壊力となり、精密な操作を行えば大人数を制圧する不殺の技ともなる。

 この技の将来性を感じたシロは、静かに笑みを浮かべた。


「これは、負けてられないっすね」


 そんなシロの姿を見やりながらディエスは自身の脚力を強化し、瞬きほどの時間で装甲車までの距離を詰め、デコピンを構えた。


「なっ!?いつの間に!!」

「逃げられると面倒なんで、この車片付けさせてもらうっすね」


 そう呟きながら放ったデコピンは、装甲車の側面を大きく陥没させながらその車体を背後の壁ごと吹き飛ばす。

 装備と搭乗者含めて重量は5トン近くある装甲車であったが、異能をフルに発動したディエスにとっては空のペットボトルを倒す程度の労力しか感じない相手であったのだ。


「ディエス!」

「……!?リサさん!」


 崩壊した壁から建物内へ侵入したディエスの元へ、すぐ近くに居たリサが駆け寄ってきた。


「助けに来たっすよ。遅くなって申し訳ないです」

「ううん、いいの。ありがとうディエス」


 安堵の表情でディエスに抱きつくリサ。


「感動の再会、ええ光景やなぁ」


 抱き合う2人の姿を見ながら、大量のカラスに包囲された蛭害は静かにそう呟く。


「カカー……」


 そして、シロはそんな光景を目にしながら、頭上で解放の時を待つ凶悪なエネルギーの塊をどう処理しようかと内心焦っていたのだった。







「ふはははは!最高だ!」


 重力を操る少年を目撃して以降、トウジョウはあらゆる場面において超常の力を想定しながら行動するようになっていた。

 その一環として、対応できる範囲のあらゆる脅威に対抗するため、アジト内には銃器以外の罠が各所に設置されていたのである。しかしーーー


「うるさーい、ちょっとビリビリするー」

「がはははは!音波も電撃も効かないとは!いや、身体へ影響が及ぶ前に音波は斬り裂き、電撃は刀身で受け流しているのか。素晴らしいな!」


ーーーリンの常軌を逸した身体能力と音波すらも斬り裂く斬撃によって、トウジョウが仕掛けた罠は次々と攻略されていた。


「催涙ガスも毒ガスも、謎の衝撃波によって効果なしか。どうやら、能力は斬撃だけでは無いようだな!」

「うん、そうだよー!」


 リンに殺意はないどころか、できる限り怪我もさせないよう慎重に立ち回っている事実に気付いたトウジョウは、数多くの罠と自らの命を人質とするような立ち回りでアジト内を逃げ続けていた。

 1人の戦士として恥も外聞も捨てた行為ではあったが、自身が追い求めていた超常の力を前にしたトウジョウにとってはどうでもいい事だった。


(このままでは不味いな……いくら手加減されているとはいえ、こちらの手数はもうほとんど無い。まだこの状況を楽しみたくはあるが、ここら辺が潮時か)


 残りの罠と弾薬数を考え、トウジョウは撤退を決意した。

 普段の彼からすれば遅すぎる判断ではあるが、僅かに残っていた理性がそれを決断させたのである。

 

(格納庫へ逃げ込んだ直後、煙幕と同時にこの区画を倒壊させれば、少しくらいは時間が稼げるだろう。その隙に格納庫内の逃走車両で脱出するとしよう)


 そう考えながらトウジョウは格納庫へ突入すると、目を疑うような光景を目の当たりにした。


「車両が、銃器まで!丸められている……のか?」


 格納庫内の逃走用車両だけでなく、各種銃器がその収納ケースごと、まるで紙屑のように丸められて散乱していたのである。


「これは、一体何が……!!?」


 バキバキと金属が放つ悲鳴のような音の方を向いたトウジョウは、またしても自身の目を疑うような光景を目の当たりにした。

 容易には破壊できず、通常車両とは比較にならないほどの重量がある装甲車が宙に浮き、今まさに紙屑のように丸められていたのである。

 そして、何もない空中に留まり、その現象を起こしているであろう白いカラスの視線がトウジョウを捉えた。


「……ふっ、流石に仲間の可能性までは考慮していなかった」

「やっと追いついたー!」


 為す術のない絶望感と人外の能力者の存在を知ることが出来た喜びを感じながら、追いついてきたリンの手刀に身を委ね、トウジョウは意識を失ったのだった。






 本日はなんと、記念すべきワンピースの第100巻が発売!……と同時に、『異世界転生……されてねぇ!』の第4巻も発売となっております!

 

 異能編のクライマックスと魔術編の冒頭が収録されております。特典SSでは、幸助と滝川と石田とニアがフォート◯イト的なゲームをプレイしております。ワンピース100巻は、ビッグマムの仁義の回が好きです。


 是非とも書店で見かけた際はお手に取っていただけるとありがたいです。

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[一言] ワンピースのネタバレはあかん…
[気になる点] ワンピース関係ねーwww [一言] 関係無いのにプッシュしている様に作者の嗜好が感じられるw しかし、まさかトウジョウも単に仲間がバックアップしているのではなく、なんとなく自分の能…
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] えw ワンピース最新刊のネタバレされたんだけどw
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