73話「ガ◯ダムハ◯ート」
「ロボットと妖精か……」
やよいの経営するバーへ向かう途中、ソージはスーツの胸ポケットにすっぽりと収まりながら周囲を見回すニアとウルを見やり、そう呟いた。
『うわー、大人の街って感じー!ニア、見て見て!変な看板ある!』
『マスタート共ニモウ10日間モ通ッテイルノデスヨ。ソレト、アノ看板ハ見テハイケマセン』
(見た目はめちゃくちゃファンタジーだけど、意外と庶民的な会話してんだな……)
ソージは心の中でそんな感想を漏らす。ちなみに、霊力糸を通してニアとウルが話す内容はソージにも聞こえているが、周囲の護衛の人達には聞こえておらずウルの姿も見えていない。
『そういえば、ニアさんとウルさんは何ができるんすか?能力の発動条件とかあるならそれに合わせて戦いますけど』
『僕ハ電子機器ヘノハッキング、敵ノ操ルゴーレムヤ式神ノ操作ガ可能デス』
『私はなんか色んな術使える感じかなー。ご主人様の側ならすっごい強いのも使えるんだけど、私だけだとそこそこのしか使えない感じ』
『ハッキングと色んな術ですか。あ、俺は"寒熱"っていう異能が使えて、凍らせたり熱したりできます』
『何それカッコ良!なんか見せてー!』
『いやいや無理っすよ。周りにいる護衛の人たち一般人ですし、人通りもありますし』
霊力糸を通してそんな談笑をしながら、ニアとウルとソージは『グレート・アルティメット・ヤヨイ』の所有する雑居ビルへ到着した。
「きゃー!ソージちゃーん!!」
「ひいっ!」
扉が開くと同時に抱きつくよう飛びかかってきたヤヨイの腕を掴み、その巨体から繰り出される衝撃を絶妙なタイミングで受け流しながらソージはヤヨイの愛のハグを紙一重で躱した。
「これを躱すなんて……強くなったわね、ソージちゃん」
「実力を試したみたいな雰囲気出してんじゃねぇよ!抱きつきたくて本気のタックルかましてきただろ今!」
『うわぁ。ニア、私この種族知ってる。オーガだ!』
『人間デスヨ』
膝をついた状態から立ち上がったヤヨイはソージとその脇に控える紅の部下を見やり、その表情を真面目なものへと変えた。
「紅ちゃんから連絡は来てるから、状況は理解してるわ。リサちゃんが捕まったそうね」
「状況理解した上でタックルかましてきたのかよ」
「ふふふっ、こういう状況だからこそユーモアも大切なのよソージちゃん。さてと、本来なら私は安全な所に隠れるのが良いのでしょうけど、今回は紅ちゃんのサポートも兼ねて相手の戦力を削る事にするわ」
「迎撃って事ですか」
「そうよ。出来るだけ早めに片付けて、ここの戦力も紅ちゃんのところへ合流出来るのがベストね。既に戦えない従業員は安全なところに避難させているわ。この雑居ビルはウチの武闘派連中とあなた達以外は誰も居ないから、存分に暴れて大丈夫よ。それじゃあ、ちゃっちゃと作戦会議しちゃいましょうか」
ヤヨイと紅の部下もその言葉に頷き、雑居ビル内の各階層へ配置される事となった。
5階建ての雑居ビル。護衛対象であるヤヨイは部下の中でも実力の最もある2人とソージと共に逃走経路が確保されている3階で待機する事になり、他の部下は一階の正面口と裏口を固め、紅から援軍として送られてきた護衛の10名は2階以降の各階と屋上で待機する事になった。
「あの、ヤヨイさん。念のために裏口付近の見回りしてきても良いっすか?」
「いいわよ。襲撃がいつ起こるかも分からないから、すぐ戻ってきてね」
「了解です」
そんな中、ソージはニアとウルを連れて裏口横のひと気の無い路地裏にある廃材置き場へと移動した。
『ここが廃材置き場っす。今なら周辺に誰も居ないですし、ここの資材は処分する予定なんで勝手に使っても大丈夫な筈です』
『アリガトウゴザイマス。素材ハ少ナイデスガ、一体ハ作レマスネ』
『なんでここに来たかったんですか?』
『僕トウルサンモ戦ウ体ガ必要ナノデ、作ロウト思イマシテ。胸ポケットニ居ルトソージサンノ戦イノ邪魔ニモナッテシマイマスシ』
『え、作るって?体をですか?』
『そうだよー。まぁ見てて見ててっ、まずは“製鉄工場”!』
ウルがそう叫ぶと廃材置場の看板や鉄パイプが集まり、人の骨格のようなものが完成する。
『すげぇ……』
『まだまだー。続けてー“黄金巨兵”!』
鉄の骨格に廃材や配線が集まり、全長180㎝ほどのオレンジ色のゴーレムが出来上がる。
『すげぇ、妖精ってこんな事できるんすね』
『ご主人様が近くに居たらもっと綺麗で金ピカの巨大なやつ作れるんだけどね。それでも、今回はちゃんと見えない所にもこだわっているんだよ!コックピットオープン!』
『うわっ、胸が開いた』
ウルの声でゴーレムの胸元が開き、中にはニアとウルが座れる小さな席と妙に作り込まれたレバーやスイッチ、ディスプレイが備え付けられている。
『マジで凄いっす。術って一瞬でこんな凄いロボット作れるんすね』
『正確ニハロボットデハナクゴーレムデスネ。チナミニ、コノスイッチヤレバーハ全テ飾リデス』
『え、そうなんすか?』
『そうだよー!形さえ整ってれば霊力糸でニアが動かしてくれるから、コックピットの中身は全部飾り!雰囲気重視!』
『あ、そうなんすね』
それでも充分凄いなと改めて思うソージを横目に、ウルがニアを抱えてパタパタと飛びゴーレムのコックピットへと移動した。
『内装はとあるガ◯ダムを参考にしています!』
『ガ◯ダムハ◯ートデスネ、素晴ラシイ再現度デス』
『おお、さすがニアっち、わかってるねぇ〜』
『先進的ナデザインノ2人乗リ機体ハ限ラレマスカラネ。ドウセナラ、ディスプレイニ外ノ映像ガ映ルヨウニシテミマスカ。ソノ方ガ本格的デス』
『えっそんな事できるの!?ガラスの破片とかだよそれ』
『霊力糸ヲ通シテ感ジトレル視覚情報ヲ映像ニ変換スレバ良イノデス。多少複雑ナ演算ハ必要デスガ、可能デス』
『何言ってるかよく分かんないけど、ニアっち、天才!』
(何言ってるかよく分かんねぇけど、この妖精とロボット、雫と気が合いそうだな)
そんな事を考えながら、ソージはある事に気が付く。
『あの……その姿結構目立つ気がするんすけど』
『あっ』
『アッ』
全長180㎝でゴツめなデザインのオレンジ色のゴーレム。下手すれば即通報レベルの存在だ。
『丁度イイ布ハ……無イデスカ。ウルサン、操作ハ僕ガスルノデ、製鉄工場ヲ使ッテモラッテモイイデスカ?』
『あ、なるほど。いいよー!“製鉄工場”!』
雑居ビルの周辺に散らばる砂鉄がゴーレムに集まっていき、皮膚のように体を覆い始める。それとは別に、砂鉄の一部は薄い布のような形状へ変化していき、黒いローブへと形を変えた。
『ローブモ体表モ純鉄製ナノデ、至近距離ノ銃撃ニモ耐エラレマス』
『黒づくめの鋼鉄ゴーレム、カッコ良いね!』
『街中じゃ黒いローブも目立つ気がしますけど、さっきよりはマシですか』
その後、ニアとウル共同作の黒づくめゴーレムはどう頑張っても目立つため、隣のビルの屋上で待機することに決まった。
『ソウ言エバ、葛西サンハ演技ニ自信ハアリマスカ?』
『演技ですか?すみません。めちゃくちゃ下手です』
ソージはまだ中等部だった頃に学園祭の演劇で披露した大根役者っぷりを思い出しながらそう答えた。
『ワカリマシタ……ソレデハ注意事項ダケ伝エテオキマス。マズ、バーヘ戻ッタラ敵ガ侵入シテクルマデ絶対ニバーカウンターノアル部屋カラ動カナイデクダサイ。外デ物音ガ聞コエテモ通信ガ途絶エテモ、必ズバーカウンターノアル部屋カラ移動シテハイケマセン』
『え、はい、わかりました』
『次ニ、ヤヨイサンヤ専属護衛ノ方々ニハ、バーカウンターノアル部屋デハナク奥ノ休憩室ヤキッチンノホウデ待機シテモラッテクダサイ』
『わ、わかりました。何かの作戦ですか?』
『ソウデス。葛西サンハバーへ敵ガ侵入シテキタ際ニ出来ル限リ時間ヲ稼グヨウ動イテモラエルト助カリマス』
『了解です。やってみます』
演技に自信はあるかという質問からの作戦指示。演技力の無い自分が内容を知ると支障が出る作戦だと察したソージは、ニアに内容を聞くことはしなかった。
『襲撃者ハ5分前ニ人混ミヘ紛レタタメ見失ッテシマイマシタガ、間モ無ク襲撃ガ始マル筈デス。気ヲツケテクダサイ』
『それじゃ、また後でね〜!』
『そっちも気をつけて』
ローブ状の砂鉄の形状をワイヤーへと変化させ、隣のビルの屋上へ吊り上げられるようにして登っていくゴーレム。
(すげぇ、結城さんの仲間ってなんでもありだな……)
そんな感想を抱きながら。屋上へ登っていくゴーレムを見送った後にソージもヤヨイの待機するバーへと戻っていったのだった。
申し訳ございません、作者は無事です!健康です!