70話「神様か……」
「結城さん!このバリア解いてください!はやくこいつ倒さないと!」
「だから何度も言ってるじゃないっすか。もう組織は抜けたんで捕まえたりはしないですよ」
「そんな言葉信じられるか!」
案の定、ソージとディエスが顔を合わせた途端争いが勃発した。そのため今はウルブーストのかかった四重結界で2人を別々に閉じ込めている。
ちなみに他の職員さん達は別室でクロ達とお戯れ中だ。この部屋には俺とソージとディエスの3人しかいない。
「なんで俺までバリア張られてるんすか?」
「念のためだ。俺もお前を信じていない」
「酷い!」
そりゃそうだろ。ソージ達を危ない目に遭わせた組織の一員だし。
「ソージ、こいつがバイト先にいる事を黙っていたのは申し訳ないと思ってる。でも、今だけは争うのをやめてくれないか?こいつとのバイト期間が終わって必要な情報を得られたらボコボコにしていいから」
「酷い!」
バイトの期間は休戦する代わりにディエスには戦闘術と組織の情報を教えてもらっている事もソージに説明した。
「なるほど、そういう理由があったんですね」
「既に組織の情報はいくつか貰っているんだ。普段どういう活動をしているのかとか異能者がどれくらいいるのかとか」
異能組織ディヴァインは各国から異能者を集め、医療や軍事を中心とした技術開発を主に進めているらしい。普段日常で目にしている技術にもディヴァインで生み出されたものがあるそうだ。
そして所属している異能者の正確な数はディエスも把握していなかったが、ディエスと同じランクAと呼ばれる最高レベルの異能者は10名おり、2名が亡くなってディエスも抜けたので現在は7名となっているらしい。
「……わかりました。結城さんに免じて今は休戦とします」
「ありがとう」
「いえ。そのかわり、俺もバイトに参加するので戦い方と組織の情報は教えてもらいたいです。それと、そいつが不審な行動を取ったら俺は容赦なく攻撃します」
「ディエスもそれでいいか?」
「いいっすよ。今任されている仕事を果たせるのなら戦闘術でも前の職場事情でもなんでも教えるっす」
空気はすこしピリついているが、話はまとまったのでよしとしよう。
「結界解除」
『かいじょ〜』
とりあえず結界を解除した。それにしても、ウルは今日も元気がないみたいだな。あとでリンゴでも買ってあげるか。
「それじゃあ早速、今日の組織情報を教えますか」
「俺も組織の本部に長く住んでいたからある程度の情報は知っている。俺の知っている情報は結城さんに教えられるからな」
「わかってるっすよ。2人が知らなそうな情報を提供すればいいんすよね。そしたら今日は、ディヴァインの目的について教えるっす」
「目的?新技術の開発が目的じゃないのか?」
ソージの方を見るが同じことを思っていたらしい。
「新技術は目的の過程で生じた副産物っす。ディヴァインの本当の目的は神を創り出す事っすよ」
「神を創り出す?」
「そうっすよ。人をベースにして人工的に神を創り出す事。それが組織の目的っす」
ディエス曰く、世界中から神の力を宿しているであろう遺物や道具を集め、そこから抽出した『神力』を人に融合させることで神を創りだそうとしているらしい。
しかし、神を創り出すほどの力を融合するともなれば特殊な訓練を受けた人間であっても耐え切れる保証はなく、そもそも『神力』という存在すら曖昧なエネルギーと人を融合させる事など普通に考えれば不可能だ。
それを無理矢理にでも実現させるため、ベースとなる人間を『付与』によって強化し、人と神の力を『結合』によって融合。そこまでの過程を補助する機器類を法則を超えた出力で運用するため『寒熱』による温度調節を行う計画らしい。
「それが組織の設立に至ったそもそもの目的らしいっす」
組織設立の根底にある目的。それを実現するためにも、異能組織は雫さんの『結合』、アカリさんの『付与』、ソージの『寒熱』をなんとしても手に入れたかったのだろう。
「神って……そんな実在するかも分からないもののために俺たちは追われてたってことかよ」
「そういうことっすね。自分はもう組織を抜けましたけど偉い人たちは本気で神様とか信じてるっぽいんで、これからも組織の人間がつきまとってくる可能性は高いっすよ」
ディエスの組織情報もひと段落し、2人が神の存在の有無について話しはじめた。
「神様か……」
そんな2人の話を聞きながら俺は1人考える。
異世界へ転生するはずが蘇生する事になったあの日以来、神様とは一度も会っていない。
あの日の出来事は夢だったのではないかと思う時もあるが、この身体に宿っている能力やクロたちの存在が実際に起こった出来事だったのだと証明してくれる。
「どう考えてもあれは夢じゃなかった……」
自分を蘇生させ、辻褄があうよう現実を書き換え、特別な能力を授けてくれた存在。
少なくとも、俺だけは知っている。
この世界に、神様は実在するのだ。
◇
札幌市内のとある廃ホテル。そこの一室では蛭害の部下であるジャスパ、ニケラ、トウジョウの3人が紙の資料を片手にとある計画について話し合っていた。
「さすがは人気アイドル、護衛も優秀みたいですね」
「優秀か、殺さないよう制圧するのが面倒なだけだな。実力はアフガンの少年兵にも劣る」
「兵士と比較するのは酷ですよ。それよりも手順は覚えていますか?そろそろ動かなければ本当の雇い主から契約を打ち切られる可能性があります」
ニケラの言葉に、ジャスパとトウジョウの2人は静かに頷き肯定の意を示した。
「わかっている。俺が花園紅の娘を拉致し、事が終わるまで奴と一緒に見張っておけばいいんだな」
「僕はお2人が動きやすいよう花園紅や主力の注意を引きつつ時間を稼ぐ」
「私はその間に花園紅の同盟者であるグレート・アルティメット・ヤヨイ側の戦力の制圧もしくは殲滅ですか。その後は状況に応じてトウジョウかジャスパと合流し、随時各地点を制圧していく」
互いの目的を確認しあった3人は、各々の任務を達成すべく立ち上がる。
「決行は1週間後。それまでに必要な機材や部下は各自で準備しておいてください」
ニケラはそう伝えると、僅かに悩むそぶりをしながら言葉を続けた。
「それにしても、真の雇い主の目的が未だに理解できませんね。初めは蛭害をサポートして徐々に札幌の裏社会を支配していくはずが、突然このような強行策を命じてくるなんて」
「しかもなるべく死人を出さないようにとの条件つきだしな。だが、理由なんざどうだっていい。パキスタンで見た重力を操る少年……理解を超えたあの力の秘密を知れるのなら、拉致でも暗殺でもなんでもしてやるさ」
「僕も同じですよ。イギリスの森で見たタネも仕掛けもない本当の魔術……この程度の任務であの神秘の情報が得られるのなら安いものです」
トウジョウとジャスパの言葉に、ニケラも僅かに微笑みながら答える。
「そうですね。100%の任務達成率を誇っていた私が唯一失敗した暗殺任務……あの死なない要人の秘密が分かるのなら、いくらでもこの手を汚しましょう」
ジャスパ、ニケラ、トウジョウ。常人であれば生涯知ることの無い超常の力に魅せられた3人は、真の雇い主から報酬としてその情報を得るため行動を開始するのだった。
お、お待たせいたしました!
忘れている方も多いと思うのでキャラ説明を少々……。
◯グレート・アルティメット・ヤヨイ
見た目はゴリマッチョの大男で心は女性。花園紅と同じくすすきのでキャバクラや飲み屋などなど、複数の店を経営する凄腕実業家。花園紅と共にすすきのの夜を守る役割も担っている。
◯ニケラ
現時点では蛭害の部下。短髪黒髪、印象の薄い容姿の女性。凄腕の暗殺者。
◯トウジョウ
現時点では蛭害の部下。強面の初老男。凄腕の傭兵。
◯ジャスパ
現時点では蛭害の部下。細めの男性。裏世界の一流マジシャン。