62話「バイトでも探すかな……」
あの後、刀に触れても害はないことがわかったためさらに詳しく調べたのだが、わかったことは刀を鞘から抜けるのは俺とリンだけだという事だけだった。
俺とリンだけが刀に認められているという事なのだろうか?結局、どんな力を秘めているのか、誰に作られたのかも全く分からなかった。
ちなみに、謎の刀は居間に飾っておく事になった。目の届かない所にしまって何かあっても困るので、みんなで監視できるところに置いておく事にしたのだ。
「よし。予想外のことがあったけど、とりあえずこれで掃除終了だな」
とりあえず刀の事は置いておいて、もっと重要な話し合いをするとしよう。
「緊急家族かーいぎ!」
「む、久しぶりだな」
「カカーカ」
「かぞくかーいぎ!」
久々の緊急家族会議だ。今日は真面目に話したい議題がある。
「キンキュウカゾクカイギ?」
「何それ!楽しいこと?」
ニアとウルが首を傾げている。そういえば、前回の家族会議の時に2人は居なかったもんな。
「緊急家族会議は、その名の通りただの家族会議だ。あと、楽しくはないぞ。今日は真面目なお話し合いをします」
「あ、私用事があったんだー。ちょっと出かけてくるね!」
「『玩具』発動。ウルを捕獲しろ」
座布団に『玩具』の異能を発動。作り出したモコモコ座布団人形がウルを羽交い締めにした。
「ぎゃー!モコモコで痛くはないけど背中だけあったかいー!羽の付け根蒸れるー!」
「それでは気を取り直して、緊急家族会議を開催します。今回の議題は、お金です」
ウルの悲鳴を無視し、話を進める。
「金欠なのか?」
「正確には金欠気味かな。まだ深刻な状況じゃないけど、このままだと親の仕送りだけじゃ確実に足りなくなると思う」
趣味のお金を削りつつできる範囲の節約で切り詰めていたのだが、それでも現状はギリギリ赤字だ。
クロたち全員分となると人1人分より少し多いくらいの食費がかかるため、俺と合わせてほぼ2人分の食費になる。
さらに、ガス光熱費も俺1人の時より確実に多くなるし、俺が学校へ行っている間もクロたちがネットやテレビを見ているので電気代もかさむ。
そして、異能組織(玩具の異能者)との戦いで制服一式25,000円と鞄5000円の買い直しというまさかの出費。これも大きかった。
「というわけで、なるべく節制を心掛けましょう。みんなで意識して切り詰めればギリギリ黒字にはなると思う」
「儂らは食事の必要がない。食費なら簡単に切り詰められるぞ」
「「えっ!!?」」
クロの言葉でリンとウルが真っ青になっている。たしかに、クロ達は空気中の霊力があれば問題ないらしいが……リンとウルは食事を楽しんでいるので可哀想だ。それに、みんなの前で俺1人だけ食事をするのもなんか気がひける。
「俺1人だけで食事するのは寂しいから、それはしないよ。食費は削らないつもりだ」
「ご主人様さいこー!」
「ご主人様!愛してるー!」
リンとウルがここぞとばかりに持ち上げてくる。よほど嬉しかったのだろう。凄い食い意地だ。
「というわけなので、食費以外でなるべく節制を頑張る方向でいこう」
「うむ、了解した」
「カー!」
「せっせいするー!」
「電気料金ノ管理ハオマカセクダサイ」
「おやつちょっと減らすかなー」
みんな快く了承してくれたけど、いずれ限界は来るだろう。リンの洋服もおさがりだけじゃなくてちゃんと買ってあげたいし、予期せぬ出費はどこかしらで発生するはずだ。冬が近づけば暖房代も大変な事になる。
「体は丈夫だし、バイトでも探すかな……」
そんな事を呟きながら、夜は静かにふけていった。
◇
「こ、ここが潤叶ちゃんの実家?」
「おっきー!」
「デケェ。家というより寺じゃねぇか」
幸助が家の片付けを行なっていた日。雫とアカリとソージの3人は潤叶の実家へと招待されていた。
旭川の術師から3人が『異能』を用いて戦っていたという報告を聞いた潤叶の父親、龍海が直に話をしたいと家に招いたためである。
異能の情報を提供する代わりに潤叶達の用いていた『術』に関する情報も教えてもらえると聞き、僅かな警戒心を抱きながらも雫達は水上家の本家に訪れていた。
「急に呼び出す形になってごめんね。話したくないことがあったら言わなくても良いから。お父さんが強引に聞こうとしてきたら私たちが全力で止めるし、安心してね」
「そうです。もとは私たちだけの情報交換会だったのに、お父さんが後から無理やり混ざってきたんですもん。何かあれば全力で守ります」
「私も手伝うのです。先輩方に何かあれば全力で守るのです!」
邪神の心臓が埋め込まれたイオとの戦闘以降、6人の間には共に死線を越えて戦った者同士の仲間意識が生まれていた。
そのため、潤叶と潤奈とアウルの3人は龍海の意思に反することになったとしても、雫達を守るつもりでいたのである。
「守ってくれるのはありがてぇけど、そこまで心配してくれなくても大丈夫だぜ。俺らだってそれなりに戦えるからな」
「そうだよ!いざとなったらソージに『付与』かけて抱えて逃げてもらうから、大丈夫」
「俺の負担!」
潤叶達に感謝を伝えつつ、ソージとアカリは僅かに警戒心を緩めながら敷地内を歩いて行く。
そんな中、雫が感じていた疑問を何気なく口にした。
「そういえば、結城くんはどうして呼ばなかったの?」
「それはお父さんが……」
「私が彼を呼ばないように潤叶達へ伝えたからだよ。彼についての話を君達としてみたかったからね」
「「「!?」」」
どこからともなく聞こえてくる声にソージとアカリと雫の3人は辺りを見回すと、一羽の青い梟が彼らの目の前に降り立った。
「驚かせてすまない。居ても立っても居られなくて式神を飛ばしてしまった。異能者と話せる機会なんてそうそう無いからね。ちゃんとした挨拶は改めてするけど、私が水上龍海。水上家の当主で潤叶と潤奈の父親だよ」
「お、俺は葛西蒼司です」
「私は月野アカリです」
「月野雫です」
流暢に話す梟の存在に戸惑いながらも、ソージ達は青い梟と挨拶を交わした。
「そう警戒しなくても、元から強引に話を聞くつもりは無いから安心してほしい。言いたくない事は言わなくても全然構わないからね。それじゃあまずはこちらから話すとしようか」
「お父さん、せめて家に入ってからにしようよ……」
潤叶の言葉でまだ外であることに気付いた龍海は、ソージ達を屋敷の中へと招待するのだった。