43話「ゴールデンな神作」
長い夜が開け、待ちに待った二泊三日の宿泊レクリエーションが始まった!
とは言っても、今はまだ移動中のバスの中である。
「ふぁ〜〜」
「結城くん、だいぶ眠そうだね。大丈夫?」
「大丈夫、ちょっと夜更かししただけだから」
欠伸を連発しているせいか、委員長が心配して声を掛けてくれた。
俺の寝不足の原因はリンである。
昨晩はついて来たがるリンを宥めるのに時間がかかり、あまり眠れていないのだ。最後までリンは納得していない様子だったがクロとシロが面倒を見てくれると言ってくれたので、2匹に任せて家を飛び出してきたのである。
ちなみに、ニアとウルは連れていても目立たないため、一緒に宿泊レクリエーションへ連れてきている。
ニアはポケットの中で、ウルは霊体化して俺の周囲を漂っている。
「寝不足だからといって容赦はしないぜ!イレブンバック!」
「8切り、ハートの3で上がり」
「あ、私も上がりだ」
「俺もだ」
「私もー」
「なっ!?」
俺が出したハートの3を皮切りに、委員長、石田、相原さんの順で次々と上がっていき、滝川がまたもや大貧民となった。
「な、何故だぁぁぁ!」
トランプをぶちまけながら滝川は悔しがる。
ふっふっふ、大富豪は家で嫌という程やっているからな。キャリアが違うのだよキャリアが!
ちなみに、家ではニアの圧倒的勝利で毎回幕を閉じる。
「見て見て、もう高速降りるみたいだよ」
委員長の言葉で外を見ると『旭川鷹栖』と書かれた看板が見えてきた、どうやら目的地に着いたようだ。
「2時間弱か、長いようで短かったな」
「ずっとトランプやってたもんねー」
石田の言葉に相原さんが反応する。確かに長いようで短かった。
それから20分ほどしてバスは旭川博物館の駐車場へと到着し、中等部の子達と無事に合流を果たした。
「お姉ちゃん、先輩方、さっきぶりです」
「本日から二泊三日、宜しくお願いしますなのです」
中等部用のバスで来ていた潤奈ちゃんとアウルちゃんが合流し、ここからは中等部の生徒を含めた1班7〜8人で行動する事になる。
「メンバーも集まった事だし、それじゃあ行くとするか」
俺の声に反応し、みんなで博物館の中へと入って行く。
メンバーが揃った班から順に入っていき、中で公開されているアイヌに纏わる展示物を見て回るのが今日の午前中の予定となっているのだ。
「ん?こ、これは!?」
そんな中、展示会場の入場口で俺はひとり感動に打ち震えていた。
なんと、アイヌの少女と不死身の異名をもつ元軍人の主人公がゴールドを求めて奔走する『ゴールデンな神作』とのコラボコーナーが設置されているのである。
「何をしているんだ、早く入るぞ」
「あっ、でも、あ……」
しかし、そのコーナーを楽しむ余裕はない。見学内容に関してレポートを書かなければいけない上に、混乱を避けるため30分ほどで中を見て回らなければいけないのだ。
石田に急かされながら、渋々コラボコーナーを後にする。うぅっ……。
「ここの展示については持ち帰っていい資料が置いてあるから、それ貰って次に行こう」
「こっちの展示物は儀式の道具か。これが高位の儀式用らしいから、これだけスケッチしておけば問題ないだろう」
入場してからは、委員長と石田による適切なガイドによって圧倒的効率で展示を回ることができた。
2人は学年内でもトップ5に入るほどの優等生であり、頭の回転も速い。ちなみに、俺の成績は半分より少し上くらいだ。
「それにしても……」
見えるなぁ……うちの庭に負けず劣らず、たくさんいらっしゃるようだ。
「結城さん、どうかしたのです?」
「アウルちゃん、あれって見える?」
アイヌの住居を再現した建物を指差しながら、アウルちゃんに聞く。
「やっぱり結城さんにも見えるのですね。彼らはおそらく、アイヌに纏わる妖精達なのです」
「なるほど。ちなみに、それって何体くらい見える?」
「1、2……全部で4体いるのです」
「それで全部?」
「そうなのです。なにか気になるのです?」
「いや、何でもないよ」
なるほど、4体か。1、2、3……うん、全部で13体はいるな。
おそらく、アウルちゃんに見えているのは家の中央らへんにいるカラフルな4体の光の玉だろう。他の白い玉達は見えていないようだ。
「アウル、結城さん、何かあったんですか?」
俺とアウルちゃんの会話が気になったのか、潤奈ちゃんも駆け寄ってきた。
ついでに潤奈ちゃんにも聞いてみたが結果は同じだ。どうやら、2人は妖精が見えてもオーブ(白い光の玉)は見えないらしい。
オーブは人や動物の魂だとクロに聞いたことがある。どういう理屈かはわからないが、2人には精霊だけが見えるようだ。
「あ、みんな次の展示に行ってる。俺たちも行こう」
「そうですね」
「行くのです」
ゴールデン神作の特設コーナーを楽しめなかったのは悔しいが、新たな発見があったのでよしとしよう。
そう思っていると、さらなる発見が目の前に現れた。
「これはアイヌの人たちが実際に使っていた小刀らしいな。精巧な模様だ」
「アイヌマキリって言うみたいだね。綺麗な模様」
「かっけー!」
石田と相原さんと滝川が次々と感想を述べている。たしかに、3人の言う通り綺麗でかっこいい模様だと思う。
「微かに魔力を感じるのです」
「これって……」
「これはたぶん『魔具』だったのかもね。今はもう力を失っているけど、アイヌの人達の中に魔具を作れる術師が居たのかもしれないわね」
神様に強化してもらった聴覚が、無意識に術師3人組の声を拾う。
アウルちゃんと潤奈ちゃんと委員長の術師3人組は、周囲に聞こえない声量で別の感想を呟いていた。
『魔具』というワードは初めて聞いたが、名称的に特別な力をもつ道具と言う意味なのだろう。やはりこの小刀は普通の展示品ではないようだ。
「もう少しよく見てみるかな」
目を凝らし、小刀の模様に集中する。するとーーー
「名称『神の小刀』。主に動物の解体に使用されていた魔具。その効果は……」
ーーー目の前の小刀が保有していた効果と製法を習得できた。
それにしても、とんでもない魔具だ。使い方によっては一撃必殺にもなりうる効果である。
これの作り方は胸の内にしまっておこう。
「幸助なにしてんだ、行くぞー」
「ごめん、今行く」
『神の小刀』を観察している間にみんなは次の展示へと移動していたようだ。俺も後を追ってついて行く。
午前中の博物館見学は思わぬ収穫の宝庫だった。
◇
「ほれ、主人が置いていったお菓子があるぞ?」
「むー」
クロが差し出すポテトチップスを、リンは断固として受け取らない。
「カカーカ?」
「むー!」
『主人が作ってくれたジュースもあるぞ?』と伝えるよう、鳴きながらシロはリンゴジュースを渡すが、リンは断固として受け取らない。
「これは困ったな。主人が帰るまでリンは何も口にしないつもりなのかもしれん」
「カー……」
『それは不味いな……』とでも言うように、シロは一声鳴く。
「仕方がないか……リンよ、主人に一目でも会えれば機嫌を直してくれるか?」
「なおす!なおす!!」
「そうか。確か行き先は旭川で、2泊3日の予定だったか?」
「カー」
「うむ。それなら、旧友に会いがてら主人の様子を見に行くとするか」
「きゅうゆう?」
「古い友だ。旭川一帯を仕切る大妖怪でな、2泊くらいであれば面倒を見てくれるだろう」
「カー……」
『それだと、大人しく留守番してもらいたいという主人の本意から逸れてしまうのではないのか?』と言いかけてシロは黙る。
幸助からは「リンの面倒を見てやってくれ」という指示しか与えられておらず、「旭川に付いて来るな」と言われているわけではないためだ。
そして、シロ自身も幸助のそばに居たいという思いがあるため、その思いを優先したのである。
「カー!」
「シロも賛成か。それでは早速行くとしよう。リンよ、2日分の着替えを持ってこい。食事や寝床は旧友が面倒を見てくれるだろう」
「着替え、すぐに持ってくるー!」
幸助のリュックを勝手に引っ張り出し、リンはその中へ次々と服や下着を詰め込んでいく。
「それでは行くとするかの」
準備を終えたリンを見やりながら、クロは自らの姿を金獅子へと変える。
「遠慮せず背中に乗れ、ワシが連れて行こう」
「カー!」
「ん!」
「『擬似・霧幻結界』」
シロとリンが背に乗ったことを確認し、クロは結界を発動させる。人避けと隠蔽の効果を有する『霧幻結界』を真似たモノであり、その効力はオリジナルと遜色ないものとなっている。
「出発だ」
「カー!」
「しゅっぱーつ!」
霧を纏う金獅子は背に白いカラスと白髪の少女を乗せながら空へと飛び立つのだった。
第1巻の発売は10月26日です!
『幸助の持つ習得能力の発動条件』や『白い光の球(オーブ達)の行方』を描いた特別書き下ろしなどなどが入った一冊となっております。
よろしければ、お手にとっていただけるとありがたいです。
そして、更新が遅くて本当に申し訳ないです。