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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第一章「陰陽術編」
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1話「異世界転生…されてねぇ!」




 俺は今日、高校生になる。


 初めて出会う同級生、見慣れない教室、中学とは違う学校行事。

 様々な不安と期待を胸に、通学路を歩く。


 曲がり角で食パンを咥えたヒロインとぶつかり、ちょっとした口論になり、偶然にも同じクラスでちょっと気まずくなり、色々なトラブルに見舞われながらも愛を育んでいく。


 そんな幻想を抱く俺に訪れた最初のイベントは、電車との衝突事故だった。















「ここは……」


 目を覚ますと、真っ白な部屋にいた。


「さっき、電車に撥ねられて……あれ?」


 体を見ると、無傷だ。

 激しい衝撃の後、視界が真っ赤に染まるほど血を流していた気がするのだが……傷どころか痛みもない。


「それは、ここが現実ではないからじゃよ」


 突然、誰かに話しかけられた。振り向くと、そこには見覚えのあるお爺さんが立っている。


「ほっほっほ、そんなに警戒せんでもええよ。わしゃ神じゃ」


 神?……あ、思い出した!踏切で転んでたお爺さんだ!この人を助けようとして、俺は電車に撥ねられたんだった。


「その節は、すまなかったのぉ。人の体を作って下界まで遊びに行ってたんじゃが、どうにも慣れなくてのぉ。踏切でバナナの皮を踏んで、膝を痛めてしまったんじゃ。そこへ電車がきて、危うく死ぬところじゃった」


 バナナの皮で死にかけるって、どんだけドジなんだよ。


「ほっほっほ、よく言われるわい」


 というか、神なら死んでも大丈夫なんじゃね?あと、さっきから俺の心読んでるのか?


「うむ、さっきから君の心を読んでおるぞ。それくらい簡単じゃ。なにせ、神なのじゃからな」


 おぉ、本当に神様なんだ。


「それと、死んでも平気じゃ。わしにとって肉体は入れ物でしかない」


 マジか……そしたら、助けたのは余計なお世話だったって事か。


「いやいやいや、違うぞ?わしゃお主に心から感謝しとる」


 なんで?


「こう見えても、わしは結構偉い神でのぅ。そんなわしが現世でバナナの皮を踏んで死んだとなれば、ゴシップ好きの神々がうるさいのじゃよ」


 ゴシップって、神様の世界にもそんなのあるんだな。


「週刊誌もあるぞ?おっと、話が逸れたわい。ゴシップ好きの神以外にも、わしの地位を狙う神なんかもいてのぉ。現世でそんな死に方をしたとなれば、何を言われるかたまったもんではない」


 うわぁ、政治家みたい。神様も大変なんすね。


「大変じゃよ、そこら辺は人間と変わらんかもしれんな。それで、じゃ。残念なことに、お主は死んでしまった」


 あ、やっぱり死んだのか。


「うむ、本当にすまなかった。お主のような心優しい人間を死なせてしまうとは、一生の不覚じゃ」


 その事について糾弾されたりはしないんですか?


「わしの地位を狙う不届きな神共は、人の命をなんとも思っておらん。わしがお主を死に至らしめてしまった事よりも、わしがバナナの皮を踏んだ事の方がネタになっとるわい」


 うわぁ、最悪ですね。そして、バナナの皮に負けたのかよ俺……。


「真に受けてはならん。その神共がおかしいのじゃ。お主の行いは正しく、お主の命は尊い」


 うおぉ……。

 思わず、涙が溢れそうになった。俺を気遣う一言が、とんでもなく心に響く。ほんとうにこのお爺さん、神様なんだな。


「そこでじゃ。お主、もう一度人生をやり直してみたくはないか?」


 人生を、やり直す?


「そうじゃ。申し訳ないとは思ったが、お主の鞄を少し見させてもらった。最近はこういうのが流行っておるのかのう?」


 神様の手には、俺が鞄に入れていた読みかけの小説があった。


「この小説に書かれているような世界を、わしは知っておる。あらゆる種族が暮らし、剣と魔法が支配する世界じゃ。そこへ、行ってみたくはないかの?」


 それって……。


「異世界転生、というやつじゃな」


 うおおおおおお!ちょっと怖いけど、行ってみたいです!


「ほっほっほ、いいじゃろう。もちろん、『ちーと』とやらも授けておこう」


 え、いいんですか!?


「もちろんじゃ。今までの記憶と体のままで、身体能力は強化しておく。技能の習得能力も上げておこう。そうすれば、どんな魔術でも武術でも一目見るだけで習得出来るはずじゃ」


 うおお!


「おまけに、わしの能力をほんの少しだけ授けよう。使い方はおいおい分かるはずじゃ」


 うおおおお!ありがとうございます!


「よいよい。わしのドジで転生させてしまうのじゃ、それくらいのサービスはせんと申し訳ないからのぅ」


 それでも、ありがとうございます。もう一度やり直せるうえに、チート能力までもらえるなんて。


「ほっほっほ、もう少し話していたいが、そろそろ時間じゃ。転生先は安全な森の中にしてある。風の来る方へ少し歩けば、街があるはずじゃ」


 わかりました!


「達者でな」


 はい。神様も、もうドジらないように気をつけてくださいね。


「ほっほっほっほ!そうじゃな、気をつけるとするわい。それではのぉ」



 神様の言葉と同時に、ものすごい眠気が襲ってきた。

 あぁ、本当に転生できるんだな。











 目が覚めると、真っ暗だ。しかも寒い。


「どこだここ?神様は森の中だって言ってた気がするけど……絶対森じゃないよな」


 素っ裸で、なぜか袋の中に閉じ込められている。

 思い切って袋を破ると、まだ真っ暗だ。どうやら、狭い箱の中に閉じ込められているらしい。


「よいしょっと!」


 足元に出入り口があるようだ。思いっきり蹴ると、ドアが取れた。


「ふぅ、なんとか出られた」


 狭い箱の中から這い出てあたりを見回すと、俺が蹴破ったのと同じ、銀の扉が無数に設置された部屋だった。

 ドラマや映画で見たことがある。ここ、遺体安置所だ。



「異世界転生…されてねぇ!」






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