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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第一章「陰陽術編」
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17話「もう一眠り」




 札幌駅のホームには、威圧感溢れるダンディな中年男性と、少しやつれた表情のグラマラスな美女が居た。


木庭(こば)、今回は……すまなかったな」

「ほんとにね」


 木庭(こば)家当主がやつれている理由は、つどーむ屋根の崩落にあった。

 陰陽術師の存在は、人の世に知れ渡ってはならない。ゆえに、会場に居合わせた術師総出でつどーむの屋根の修復が行われたのだ。

 その中で、最も活躍したのが木庭(こば)家当主の用いる『結び』の術である。術師達によって並び直された屋根の部品を、彼女は全て繋ぎ合わせ、崩落前と同じ姿へ戻してみせたのだ。

 ちなみに、つどーむの外には人払いの結界が貼られていたため、屋根の崩落を目撃した者は誰もいない。


「あの術は、長くは持たないわよ。わはもう帰るすけ、あとは自分たちで頑張ってね」

「ああ、後はこちらでなんとかするよ。それと木庭、少し訛ってきてるぞ?」

「なっ!と、とりあえず!そういう事だからぁ〜。もう帰るわねー!」


 グラマラスな美女は、慌てて函館行きの電車へと乗り込む。


「にしてもぉ。あんな陰陽術師が領域内にいるなんて、大変ねぇ〜水上〜」


 水上家当主である龍海(たつみ)をからかうように、木庭家当主は言葉を投げかけた。あんな陰陽術師とは、もちろん幸助の事である。


「別に大変ではないさ。彼は悪い人間ではないように感じる」

「試合会場の屋根は崩れ落ちたけどねー」

「……」


 バツの悪そうな表情を見せる龍海(たつみ)を、木庭家当主は笑った。


「ふふっ……ま、あの式神にも驚かされたけどぉ〜。それよりも、猫神様が、ねぇ……」

「それは……同感だ」


 困り果てる龍海(たつみ)を見ながら、木庭家当主は再度笑った。

 そして、彼女は東北への帰路につくのだった。













 庭に、祠が建ちました。


「とりあえず、お供えでもするかな。猫缶」

「祀られている儂が横にいるのだ。儂にくれ」


 蓋を開けて差し出すと、むしゃむしゃと猫まっしぐらな猫缶を食べ始めた。


 なぜ祠が建っているのかというと、クロが俺の従魔になり、ウチに住むことになったためだ。

 相手の事を気に入り、与えられた名を気に入ると、妖は従魔として仕えてくれるらしい。クロの場合、その事を気にして与えられた名に無関心を装おうとしたのだが、思った以上に気に入ってしまい、抗えずに従魔となってしまったのだそうだ。

 「家に居座ることになってすまない」と言っていたが、俺としては全然構わない。

 祠は、無いと落ち着かないらしく、もといた神社の境内から咥えて持ってきたらしい。


「ん?どした?」

「……」


 幼女がクイクイと裾を引っ張ってくる。なるほど、早く食べたいのか。


「クロ、こっちで食べてくれ。そろそろ打ち上げ始めるぞ」

「む、すまん。我慢できず、先に食べ始めてしまった」


 居間に戻ると、俺が買っておいたスーパーのお惣菜を、カラスが並べてくれていた。全員分のコップや皿に麦茶も注いでくれている。気がきくな。


「準備任せちゃって悪いな。それじゃあ、試合が無事に終わった事と、幼女がウチに来た事と、クロが従魔になった事に……乾杯!」

「乾杯!」

「カー!」

「……!」


 あれ?カラスって鳴けたのか。まぁいいか。

 幼女にオモチャにされるカラスを見ながら、クロと他愛もない会話を楽しみ、夜はあっという間に更けていった。















 それは、遠い記憶。


『なんじゃ、怪我をしておるのか?』

『……ナー』


 通りかかった老人が、怪我を負って倒れている1匹の猫を見つけた。


『どれ、治してやろう……これで大丈夫なはずじゃ』

『ニャッ』


 倒れていた猫はその老人へと擦り寄り、感謝を表す。


『ずいぶんと懐かれてしまったのぉ』

『ニャニャ』

『なに?儂と共に旅をしたいのか?』

『ニャッ』


 老人は少し困った表情を見せた後、すぐに猫へと向き直る。


『少しの間だけなら、良いじゃろう』

『ニャッ』

『名前か?しょうがないのぉ。そうじゃな……安直じゃが、『クロ』でどうじゃ?』

『ニャッ!………』













「………む?夢か」


 クロは目をこすりながら、身を起こす。

 夢の内容は思い出せないが、懐かしさと寂しさの入り混じった感情が、胸に溢れた。


「うっ……苦しい……」


 振り向くと、白髪の幼女と白いカラスの枕にされ、呻きながら眠る主人の姿があった。

 その姿が目に移ると同時に、溢れていた感情が、少しずつ晴れていく。


「もう一眠り、するかの」


 呻く主人を枕に、クロは再び眠りについた。





 



 第1章、終了です!

 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

 ここまでのキャラクター紹介を挟みつつ、第2章へいきたいと思います。


 それと、活動報告に書きました通り、連日投稿は本日で終了します。今後は週一を目標に投稿しつつ……2月は、壊滅的な投稿頻度になると思われます。申し訳ありません。


 ですが、物語はまだまだ続いていきますので、今後も『異世界転生…されてねぇ!』をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] イイハナシダナー(クロの件)
[良い点] 最近の流行り物、転生、転移、召還物と違った 蘇生と言う方向性に陰陽師、私的には面白かったです。 [気になる点] 今後、彼に平穏は訪れるのでしょうか? [一言] 今後の転回に期待してます。
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