126話「縁の切れ目が金の切れ目」
旅館の会議室には、今回の作戦の主要メンバーが集められていた。
作戦の代表を務める龍海、叶恵、アウルの3名に加えて、気炎や三鶴城、プルトが率いるイギリスからの派遣部隊のメンバーなど、総勢68名の術師や妖が自分の席に座っている。
もちろん、その中には潤叶や潤奈だけでなく、偽幸助やクロ達の姿もある。
「それじゃあ今から、千年将棋討伐作戦の詳細を説明するで」
壇上に上がった叶恵の言葉を聞き、会議室にいたメンバーからどよめきが起こった。
「まずは……」
「あの、すみません」
気にせず説明を始めようとする叶恵に、トウリが待ったをかけた。
「詳細説明って、本当にいいんですか?内通者がいる可能性があるって言ってませんでしたっけ?」
誰もが聞きたいと思っていた疑問を投げかけたトウリに、多数の術師が「よくぞ聞いてくれた」という視線を飛ばす。
「確かにそう言ってたで。でも、ここにいるメンバーは大丈夫や。もう確認済みやからな」
「えっ、確認済み……?」
叶恵の言葉の意味を知っている龍海やアウルといった一部のメンバー以外は、トウリと同じような疑問を頭に浮かべた。
「金森家の血縁者だけが使える秘術に、『縁の切れ目が金の切れ目』っちゅう術式があってな。それを使って、この場にいる術師と妖に千年将棋と変な繋がりがないかこっそり調べさせてもろたんや。まぁ、本来は金銭と霊力を対価にして関係をぶった切るっちゅう凶悪な術式やから、応用して使った感じなんやけどな」
「応用、ですか……?」
トウリと同じ疑問を抱いているメンバーに説明するため、叶恵は言葉を続ける。
「まず、この術式は切りたい縁が強ければ強いほど莫大な金銭が必要になるんや」
「友人関係を切るよりも、親友関係を切るほうがお金がかかる。みたいな感じですか?」
「そんな感じや。ちなみにやけど、友人関係どころか知人関係切るのですら億単位の金銭が必要やから、まともに使ったことは一度もあらへんけどな」
『縁の切れ目が金の切れ目』の発動に必要な金額を聞き、もし習得していても絶対に使いたくない術式だとこの場にいた誰もが思った。
「重要な点はそこやなくて、この術式は切りたい縁を指定した瞬間に必要な金銭がなんとなくわかるっちゅう点なんや」
「縁を指定した瞬間に必要な金銭がわかる……?」
「たとえば、『トウリと千年将棋の間にある利害関係や友好関係をぶった切る』ってな感じで術式を発動しようとすると、それに必要な金銭がどれくらいなのか感覚的にわかるんや」
「っ……!なるほど、その金額が多かった場合は千年将棋との間に強い関係を持っていることになるので、内通者である可能性が高いということですね?」
「そういうことや。術式が発動する前段階の副次効果を利用した裏技やな。もちろん、金額がわかった時点で術式の発動はキャンセルしとるから、かかる費用は0円やで」
術式発動前の副次効果を利用するという説明を聞いたメンバーは、納得すると同時に強い関心を示した。
一部の術師は、自分の習得している術式にも特殊な応用方法がないかと考えを巡らせている。
「まぁ、途中でキャンセルしとる言うても相当な霊力を消費する術式やから、1日に使える回数は限られとってな。今日までかけてこれだけの人数しか確認できひんかったんや」
叶恵の霊力量は並の術師よりも遥かに多い。それでも、今回の作戦のために集められた300名を超える術師や妖の全員を調べることはできなかった。
「せやけど、戦闘の主軸になりそうなメンバーは全員調べられたから、今になって詳細説明をすることにした感じやな。こっそり探ってたんは悪かったけど、状況が状況やから堪忍してな」
この場にいる全員が事情を理解しているため、叶恵の謝罪に文句を言う者は誰一人としていない。
しかし、その術式の運用に疑問を感じる者はいた。
「すみません。1つ質問してもよろしいでしょうか?」
「潤叶はんやん。どうぞどうぞ、遠慮なくなんでも聞いてくれてええで」
叶恵の許可を受けた潤叶はその場に立ち上がり、疑問を口にする。
「『縁の切れ目が金の切れ目』を土御門家の方々に使用することはできなかったのですか?」
「それは当然の疑問やな。ごめんな、説明不足やったわ」
潤叶と同じ疑問を抱いた者は多かったようで、多くの術師が叶恵の言葉を待っていた。
「その考えは当然あってな。『常世結界』を実際に習得しとる土御門家の現当主、『土御門駿吾』に向けて『縁の切れ目が金の切れ目』をすでに試したんや」
叶恵は青森に来る前に九州へと立ち寄り、土御門駿吾に直接会って『縁の切れ目が金の切れ目』を発動していたのである。
「その結果なんやけど……全然何も分からんかったわ。恥ずかしい話やけど、これに関しては完全にうちの力不足やな」
「それは……土御門家の当主に術式が効かなかったということですか?」
自信をなくした表情で語る叶恵に、別の術師がさらなる疑問を投げかけた。
「その通りや。流石に土御門の婆さんほどやないけど、婆さんの唯一の弟子である土御門駿吾も相当なバケモンでな。あのおっさんにはどんな術も物理攻撃も全部効かへんのや」
驚く潤叶達の顔を見ながら、叶恵は説明を続ける。
「本人曰く、婆さんとの修行で致命的な攻撃を何度も受けているうちに、たとえ防ぐ気がなくても術や攻撃を察知したら無意識に防御してしまう体質になってしまったらしいで。意識を失ってても自動防御は健在やから、色々試してみたんやけど全然あかんかったわ」
そんなことが本当にできるのかとほとんどの者達が驚く中で、土御門駿吾と共に仕事をしたことのある一部の妖とベテラン術師達は納得の表情を示した。
無意識下での自動防御という常識外の神業も、彼ならば可能だろうと考えたのである。
「他に質問は……なさそうやな。それじゃあ作戦を発表するで!」
スクリーンに映し出された千年将棋討伐作戦の概要。
それを見た会場の誰もが、驚愕に目を見開いた。
「ほ、本当にこの作戦でいくのです?」
アウルが驚愕の表情で叶恵のほうを見る。
「無謀に見えるかも知れんけどこの作戦でほぼ決定や。うまくいくかは分からんけど、うちと犬井はんと地崎の3人で千年将棋の駒のほとんどを受け持つ予定やで」
あまりにも無謀な作戦に皆が沈黙する中、この作戦の参加メンバーである犬井芽依は手のひらに展開した『補霊結界』で静かに霊力を集め続けていた。
本日、『異世界転生……されてねぇ!』の漫画8巻が発売されました!
特典に関しては活動報告に書いておりますので、ご一読いただけますと幸いです。
また、更新が遅すぎて誠に申し訳ございません!もう何度目の謝罪と再開報告かはわかりませんが、更新再開させていただきます。