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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第七章「東北編」
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116話「…………は?」



 館内にある広めの宴会場では、ローテーブルを挟んで向かい合うような形で座る俺とリンとプルトさんがいた。

 取り巻きらしき10名の術師はプルトさんの背後に整列したまま立っている。異様な光景すぎて少し居心地が悪い。


「すまないね。空いている部屋がここしかなかったんだ。広くて居心地が悪いだろう?」

「いえ、大丈夫です」


 居心地が悪い理由はそこじゃないと思いながらリンのほうを見ると、すでに用意されていたお茶菓子に心を奪われていた。ちなみに、クロとシロはまだぬいぐるみモードのままである。


「まずは礼を言おう。我々の組織が起こした問題を水上家の次期当主が解決した際、君も協力してくれていたと聞いた」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 邪神の心臓の一件は潤叶さんが解決したことになっているが、潤奈ちゃんやアウルちゃんなどの一部の人達は俺の功績を知っている。しかし、プルトさんは口ぶり的に知らないようだな。


「さて、本題に入る前に少し聞いておきたいのだが、その一件の際に君の元へ妖精種(フェアリアルシード)が渡り、それを使用して精霊を生み出してしまった。という話は本当かね?」

「はい。本当です」


 俺の返答で取り巻きの人達がざわついているが、プルトさんは気にせず話を続ける。


「使用者の適性に合った妖精を生み出せる妖精種は、我々の秘宝とも呼べる存在だった。それを使用して生み出したその精霊の所有権について、君はどう考えているのかね?」

「所有権といいますか……黄昏と夜明け団へ定期的に状況を報告することで、ウルを俺のそばに置いて良いという許可はもらっていたはずです」


 報告と言ってもメッセージアプリでアウルちゃんと雑談するだけなのだが、それで構わないとも言われている。

 というか、今のプルトさんの言葉でなんとなく察した。この人達、いや、こいつらはウルをどうにかして連れていこうとしているのだろう。


「そもそも、所有権とかいう以前にウルはもううちの家族なので、誰かに渡すつもりは一切ありません。本人が強く望まない限り、ずっとそばにいてもらうつもりです」

『ご主人様……』


 プルトさん達だけの意見か黄昏と夜明け団の総意なのかは分からないが、誰が相手でもウルを渡すつもりは一切ない。

 うるさい精霊が増えて大変だと思ったこともあったが、今はもう大切な家族なのだ。


「我々としても精霊を正当に(・・・)扱っている分には問題とするつもりはなかったのだよ。正当に扱っている分には、な」

「不当な扱いを行った覚えは一切ありません」


 家事を手伝わないのでデザートを減らしたことはあるが、それは正当な扱いだと思う。むしろ、夜中に好きなVライバーの動画を見て興奮したウルに無理矢理叩き起こされるという不当な扱いを受けたことはある。


「ふむ、それなら……」

「さっきから勝手なことばかり言って!あんたが何と言おうと、ご主人様のそばから離れたりは絶対にしないんだから!」

「ウル!」


 感情の昂ったウルがプルトさんの言葉を遮るようにして登場した。そして、それを見たプルトさん達の目の色が明らかに変わった。


「おおっ!あなたが妖精種から生まれた精霊、ウル様ですか!お会いできて光栄です!」


 そう叫びながらプルトさんが頭を下げると、取り巻きの人達も一斉に頭を下げだした。怖っ。

 クロ達は相手の出方を伺っており、警戒心を高めている。リンもさすがにお菓子を頬張るのをやめ、いつでも臨戦態勢へと移行できるように備えている。


「も、もう一度言っておくけど、私はご主人様から離れるつもりはないんだから!不当な扱いなんてぜーんぜん受けてないもん。ご主人様を夜中に叩き起こしたりして不当に扱ったことはあるけどね!」


 プルトさん達の異様な行動に戸惑いながらも、ウルは強い口調でそう言い放った。あと、俺を不当に扱った自覚はあるのね。


「……可哀想に、なんらかの術で縛られ、言動の自由を奪われているのでしょうね」


 プルトさんはわざとらしく悲しみに暮れたような動作をしながら、勝手なことを言っている。


「証拠もなく勝手なことばかり言って……」

「証拠ならばある。おい」

「はっ!」


 取り巻きの男性がタブレット端末の画面をこちらに向けて見せると、動画を再生しはじめた。これは、初めてウルが投稿した踊ってみた動画じゃないか。


「えっ、何で今それを?」


 勝ち誇った笑みを向けながら動画を再生しているが、今それを見せてくる意味がわからない。


「この動画こそが、君がその精霊を不当に扱っている証拠だからだとも」

「いや、それが証拠である意味がわからないんですけど……」

「ふむ、最近はネット上に動画をあげることで注目を集めるのが流行っているそうだね?」

「まぁ、流行ってるみたいですね」


 学校でも有名な大手動画サイトに動画投稿を行っている生徒の噂を聞いたことがある。俺はやっていないが、流行っているのは事実だろう。


「ネット上で注目を得るために精霊を踊らせ、動画を公開した。それこそが精霊を不当に扱っている証拠だと言っておるのだ」

「いや、はい?」


 あまりにも酷すぎる言い掛かりに唖然としている中、さらに言葉は続く。


「ですが精霊様、ご安心ください。その動画は全て私が消させました。それだけでなく、新たにその男が動画をアップロードできないよう手も打ってあります」

「…………は?」


 ウルから精霊とは思えないほどドスの効いた声が聞こえた。周囲の空気が少し重くなった気がする。


「さぁ、不当な扱いを行うその男から今すぐに……」

「ねぇおじさん。おじさんが私の動画を消して、動画をアップロードできないようにしていたって、ほんと?」

「そ、そうですとも!私が政府に働きかけ、各運営会社に……なっ!?」


 プルトさんが言葉を言い終わる前に、ウルを中心として莫大な霊力の嵐が吹き荒れ始めた。窓ガラスや襖が激しく揺れている。


「おじさんが消した動画は、シロっちが夜遅くまで曲を探してくれて、私が納得いくまで何度も撮り直して、ニアっちが何日もかけて編集してくれて……そうやってみんなでがんばって作り上げた動画だったんだよ。それを、消すなんて……」


 契約している影響なのか、ウルの怒りがひしひしと伝わってくる。本来なら止めるべきなのだろうが、実際にウル達の努力も見ているので止めるつもりはない。


「……許さないっ」


 ウルがそう呟いた瞬間。水の中に落とされたのかと思うほどの息苦しさに見舞われた。

 取り巻きの術師達が苦しそうな表情で膝をついている。俺以上の息苦しさに見舞われているようだ。


「そ、ソジウム!あの精霊を取り押さえろ!」

「了解だゼ。フレン!」

「任せなっ!」


 ソジウムと呼ばれた男性術師の横にウルと同じくらいの大きさの赤髪の精霊が現れた。髪は短かく口調も男勝りだが、顔立ちや服装的に女性の精霊のようだ。


「ウル、大丈夫か?」

「大丈夫だよご主人様。まぁ見ててっ」


 ウルが怖い笑みでそう口にした直後、周囲の空気がさらに重くなるのを感じた。







 気まぐれな性格の多い精霊達は、諍いの多い種族でもある。だが、その際に互いを傷つけず勝敗を決める方法を彼女達は本能的に理解していた。


「この地は火山の魔力で満ち溢れてる。あんたには残念だけど、この場所じゃ火の精霊であるあたしに分があるね!」


 妖精や精霊の争いは周囲に存在する魔力(霊力)の支配量で勝敗が決まる。

 莫大な魔力を支配できる妖精や精霊ほど格が高いとされ、精霊術師だけでなく気まぐれな精霊達からも敬われる存在となるのだ。


「ほら、力比べといこうじゃないか!」


 フレンがそう叫びながら両腕を広げると、大気中の魔力が彼女の元へ集まり、周囲の魔力濃度が徐々に上昇していった。


「あははっ、凄い精霊に会えるって期待してたんだけど、大したことなかったみたいだね!」


 ウルの支配量を遥かに超える魔力を支配し、勝ち誇った表情でそう告げたフレン。

 その光景を見たプルトや取り巻きの術師達は勝敗が決したと考え、安堵の表情を浮かべる。


「これで私の勝ちだよ。頭を下げて謝るなら許してやっても……」

「ふぅ、手間が省けて良かったー」

「……は?」


 フレンが支配していた魔力の流れが変わり、ウルが集めていた魔力に合流する形で次々と取り込まれていく。その光景を目にしたフレンは、思わず間抜けな声を出してしまった。


「な、なんでよ!?私の支配した魔力がどうして……」

「途中で魔力集めるの面倒になっちゃったから、あなたの集めた魔力を貰うことにしたの」

「はぁ!?」


 フレンだけでなく、ウルの言葉を聞いたプルトや周囲の術師達は驚愕に目を見開いた。

 他者が支配している魔力の略奪。それをウルは簡単なことのように言っているが、一度支配下に置かれた魔力を奪うことは通常であれば不可能な芸当である。それこそ、広大な森を支配下に置く大精霊に匹敵するほどの力がなければ困難な荒技なのだ。


「よ、妖精を召喚して援護するんだ!はやくしろ!」

「ヒート、行きなさい!」

「ウォルタ、行くんだ!」


 取り巻きの精霊術師達も契約している妖精をフランの援護に向かわせたが、妖精達が新たにかき集めた魔力も次々と支配権を奪われていく。


「そういえばさっき、頭を下げて謝ればどうとか言ってたよね……?」


 ウルは怯えるフレンを睨みつけながら、精霊達から奪いとった莫大な魔力を頭上に集め始めた。

 桁外れな魔力密度によって光の進路は歪められ、空間が歪んでいるような情景を作りだしている。


「早くあの精霊をなんとかするのだ!」

「む、無理ですゼ!あんな桁外れな精霊、止められるわけないですゼ!」


 プルトとソジウムが焦る中、ウルの頭上の魔力密度はどんどん増していく。フレンや術師達はその光景に絶望的な表情を浮かべ、天を仰ぐ者もいた。


「ウル、もう良いんじゃないか?」

「むぅ……ご主人様がそう言うなら」


 ウルがそう呟くと、集まっていた魔力は徐々に霧散し……てはいかず。圧縮されていた魔力が一気に解放され、荒れ狂う魔力の奔流が旅館の宴会場を駆け巡った。


「ウル!?」

「こ、こんなにたくさんの魔力扱うの初めてでっ、ごめんなさいっ!」


 ウルの謝罪と同時に、宴会場は吹き飛んだのだった。






 更新が遅すぎて漫画の内容が書籍版の小説をもうすぐ超えるという事態に……でも漫画が続くのは嬉しい。

 更新頑張りますっm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] どうやってウルを奪う気なのかと思ったら、特に策はなく、脅迫手段か。81話を見返す限り、不当な扱い云々は、言いがかりでなく、本気でそう思ってたんだな。 しかし動画削除の件は、魔術組織の総意か…
[一言] 漫画化するとライトノベルを抜くのが早いけど アニメ化するともっとヤバい事になるんですよ 漫画を追い越して完全オリジナルにしないと 続かなくなってしまう現象が何作品もある 特にジャンプ系
[一言] ウルは相手から魔力回収して解放しただけだし…(震え声)
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