10話「ぎゃああああああああああ!!」
「へ?試合?」
「うむ。近々、陰陽術師同士による大きな試合が行われるのだ。それに出てはくれんか?」
家に帰ると、黒猫が妙なことを言い出した。陰陽術師の、試合?
「出てくれって、おれ素人だぞ?陰陽術っていっても、あのカラス作ることくらいしかできないし」
音楽番組をノリノリで鑑賞する白いカラスを見やる。
「いや、あれ程の式神を作れるならば充分だ。だが、無理強いはせん。死にはしないが、怪我をすることはある。そのかわり、出てくれるのであれば出来る限りの礼はする」
陰陽術師って単語が出てくるということは、やっぱり黒猫は妖怪かなんかだったんだな。
にしても、試合かぁ。黒猫のお礼は別にいらないが、試合自体には興味がある。参加すれば色々な陰陽術が見られるはずだ。
目立ちたくはないが、他の陰陽術も使えるようになってみたい好奇心はある。
「本当に死んだりとかはしないんだな?」
「うむ、それは約束する。万が一危険があれば、儂が全力で止める」
頼りねぇ。でもまぁ、安全なら参加してもいいかもしれないな。ただしーーー
「ーーー匿名希望でも出られるのか?」
「問題ない」
よし、出ます!
◇
「お姉ちゃん、これくらいで十分なんじゃない?」
「いえ、まだよ。あの時見た白いカラスは、こんなレベルじゃなかったわ」
水上家の本家がある寺院。そこでは、2人の少女が術の修練に励んでいた。勝負着であろう巫女服はすでにボロボロであり、2人の特訓の激しさを物語っている。
「猫神様が、そのカラスの主を連れてきてくれるって言ってたじゃない。だから、お姉ちゃんがそんなに頑張らなくても大丈夫だよ」
「潤奈、なにを言ってるのよ。仮に大丈夫だとしても、私たちの家の問題を他人任せにしていいわけないわ。それに、試合は3対3のチーム戦なんだから、その人がどんなに強くても私たちが足を引っ張ったら負けるかもしれないでしょ?だからこそ、私たちで2人は倒す気概で挑まなきゃダメよ」
「……お姉ちゃんがそう言うなら、わかったわよ」
お姉ちゃんと呼ばれる女性は、幸助のクラス委員長を務める才女、水上潤叶である。そして、彼女と同じ面影を持ちながらも、少しだけ幼い顔立ちの少女の名は、水上潤奈。潤叶の実の妹だ。
潤叶と潤奈は、水上家に仕える術師達の中でもトップクラスの実力を持つ。そのため、代表として今回の試合に出場することとなっていた。
「さぁ、まだまだやるわよ!」
「はーい」
静かな筈の寺院の庭先では、2人の術師による激しい訓練の音が響き渡るのだった。
◇
あれから2日が経った。試合は今晩なのだが、いま俺は非常に焦っている。
「そんな大事な試合なら、先に言っといてくれよ!」
「す、すまん。誘うことばかり考えていて、試合の理由を伝え忘れていた」
この猫、本当に忘れていたらしい。
俺のような素人が参加できるという話なので、気軽に参加できる陰陽術師のアマチュア大会みたいなものだと思っていたが……全然違った。
陰陽術に携わる2つの大派閥が、それぞれの威信を懸けて争う重要な一戦らしい。
「で、何でおれが片方の派閥の代表にさせられてるんだ!?」
それぞれの派閥から3名の術師が選ばれて戦うチーム戦らしく、そのうちの1人にさせられていたのだ。
「う、うむ。今回お主が代表を務める水上家とは、深い縁があってな。このままでは試合に負けてしまう故、優秀な陰陽術師を知らないか?と言われて、お主を思い出したのだ」
いやいや、意味がわからん。
全然優秀な術師じゃないし、カラスしか作れないし。そもそも、陰陽術の存在自体1週間前に知ったばかりだし。
「伝え忘れていたのは、本当にすまなかった。だが、代表だからといって気負うことはないぞ。無理して参戦してもらうのだ。たとえ負けたとしても、誰にも文句は言わせん」
とは言ってもなぁ……まぁ、詳しく聞かずに了承した俺も悪かったし。気負わなくていいって言ってくれるなら、気楽にやってみるかな。
水上家の皆様には申し訳ないが、負けても他人事だしな。
「そろそろ時間だな。準備は大丈夫か?」
「ああ、たぶん大丈夫」
動きやすさを重視し、必要そうな荷物はウエストポーチに入れた。そして、黒猫えもんからもらった面をつける。眠そうな表情をした能面だ。
認識を阻害?してくれる特殊な道具らしく、背丈や声色などの個性を気にならなくさせるらしい。そのため、この面をつけた相手をいくら観察しても、性別くらいしか印象に残らないのだそうだ。さらに、内側から見ると透明なので、視界が阻害されない。
匿名希望にはぴったりの道具だな。
「儂が会場まで連れて行こう。乗ってくれ」
そう言うと、黒猫が闇を纏いながら膨張し、大型車ほどもある金色の獅子となった。
「びっくりした、それが本来の姿なのか?」
「うむ、そうだ。それにしても、あまり驚かないのだな」
「ああ、もっと不思議な体験をした事があるからな」
神様に蘇生させてもらったとかね。
おっと、なんかデジャヴだ。そういえば、黒猫と最初に会ったときも、こんなやり取りをしたな。
「ふはははは!それでは行くとするか!」
「背中に乗ればいいのか?毛掴んで大丈夫か?」
「うむ、問題ない」
よっこいしょっと。ん?ここからどうやって行くのだろう。走って行くのかな?住宅街をこんなでかい猫が走るとか、小回り効かなくて逆に遅そうな気がする。
「飛ぶぞ」
「へ?」
その直後、金色の獅子は空を駆けた。
「ぎゃあああああああああああ!!」
そして、夜の住宅街に俺の絶叫が響き渡った。
ぎゃあああああああああああ!!
皆様の応援のおかげで、デ、デイリーランキング1位になることが出来ました!
本当にありがとうございます!!
この作品に引っ張られて今は伸びてはいますが、投稿している他の作品達は、10万字以上書いても総合評価100以下が当たり前。ブックマークは10いけば絶好調。というのが常識だったので、ここまでの評価をいただい時は「サイトがバグった!?」のかと疑うほどでした(今も疑っています)。
これからもマイペースに書いていこうと思いますので、暇つぶし程度に読んでいただけると幸いです。
今後の『異世界転生…されてねぇ!』も、応援よろしくお願いします!