105話「サンドバッグは木っ端微塵」
長らくお待たせしてしまい申し訳ございません!
第六章描き終わりましたので、しばらくは1日おきで投稿を再開させていただきます!
よろしくお願い致しますm(__)m
「しまった、思わず反撃してしまった……」
ボクサー男のジャブは軽めの『強化』を施せば無傷で受けられる威力だったため、3分間何もせずただ耐え続けるつもりだったのだが……最後の一撃には思わず反撃してしまった。
おそらく、文字通り渾身の一撃だったのだろう。食らったとしても無傷だったが、迫力に押されて無意識にカウンターを放ってしまったのである。
『ニア、ボクサー男は大丈夫そうか?』
『バイタル正常デス。問題アリマセン』
ニアの診断では問題ないようだ。良かった。
グローブをつけていたせいでいつもとは感覚が違ったが、綺麗に意識だけを刈り取ることができたらしい。
「にしても、ディエスとの訓練のおかげで危険な攻撃には無意識に反応するようになっちゃったみたいだな……気をつけよう」
ディエスとの素手スパーリングは目で追うと対処が間に合わないため、反射的に躱して反撃する必要があった。
そのせいで一定以上の危険度や危機感のある攻撃には無意識に反撃してしまう癖がついてしまったようだ。
「そんな、持田くんが……」
「う、うそだろ……!?」
そんなことを考えていると、狼狽える取り巻き達の声が聞こえてきた。
ボクサー男は彼らの精神的支柱だったようだな。
「それじゃあ約束通り全員出ていって……」
「大、そいつをつまみ出せ」
「う、うん」
リングから降りると同時に、矢財に命令された巨漢くんが掴みかかってきた。
にしても、近くで見ると本当に大きいな。背は俺より頭ひとつ分以上大きい上に、横幅は俺の3倍くらいある。何食べたらこんなに育つのだろう?
「ご、ごめんね。でも、矢財くんが言うから、出てってもらうね」
「謝るくらいならするなよ」
「えっ?……うわぁっ!」
両肩を掴んできた巨漢くんの腕を払い、逆に腰を掴み返して持ち上げた。
「よいしょっと」
「えっ……!?
「「「……!?」」」
そしてそのまま部室の外に運んであげた。
巨漢くんは何が起きたかわからないようで放心したまま立ち尽くしている。おそらく、持ち上げられた経験がなくて状況を理解できていないのだろう。
周りの取り巻きたちもあまりに予想外な光景にただ呆然としている。
「それじゃあ約束通り……」
「……ちょ、ちょっと待ちな!今の持田と幅田への暴力、動画で撮ったから!この動画ばら撒かれたくなかったら調子に乗んないでよ!」
「よ、よし、ナイスだルイ」
「……は?」
取り巻きの一人であるギャルが勝ち誇った表情でスマホを掲げているが、今の場面をばら撒かれたところで何の問題もない。
むしろボクサー男と巨漢くんの醜態を晒すだけな気がするのだが、冷静な判断ができていないのだろうか?
『コノママデモ問題アリマセンガ、念ノタメ動画ハ消シテオキマシタ。ツイデニ、カメラアプリモ消シテオキマシタ』
『おお、ナイスだニア』
ニアがカメラアプリまで消してくれたので、これで遠慮なく追い出せるな。
とりあえず、気絶しているボクサー男を片手で掴み上げて部室の外へ優しく放り投げた。
「ちょっ!やめなさいよ!本当に動画ばら撒くよ!?私のフォロワーが黙ってないんだからね!?」
「もう動画は消えてるよ。まぁ、ばら撒かれたところで問題はないけどね」
「……えっ?あれ?なんでっ!?ってか動画も撮れなくなってるんだけど!トゥイッターにあげる動画撮れないじゃん!」
パニックになっているギャルを横目に、怯えている取り巻き達を睨みつける。
「約束通りここから出て行け。そしてもう二度とここを溜まり場にするのはやめろ」
「ぐっ……そ、その言葉に従う義理はねぇだろ!」
矢財がそう叫んだが、義理はあるだろ。約束なんだし。
だが、矢財の意思を聞いた取り巻き達もこのまま出て行くつもりはないようだ。やはりリーダー的存在である矢財の意志を変える必要があるな……。
『不良漫画みたいにちょっと脅かせば良いんじゃない?ちょうど良い位置にサンドバッグあるし』
『たしかに、それいいかも』
ウルのアドバイスを聞いた直後。この場にいる全員が目で追えないほどの速度で矢財の目の前まで接近し、横にあったサンドバッグを強めに殴りつけた。
「ひいっ……!」
「う、うそだろ!?」
「ば、化け物だ……」
インパクトと同時に爆発音のような音を轟かせながら、サンドバッグは木っ端微塵に弾け飛んだ。
中に詰まっていた布切れが部室内を舞っている。完全に力加減を間違えた。
「あ、あぁぁ……」
サンドバッグが弾け飛ぶほどのストレートが真横を通過した矢財は、唖然とした表情のまま制服のズボンを濡らしていた。
「……えっと、もう帰ったほうがいいんじゃないか?」
「あ……あぁ……」
茫然自失とした矢財は取り巻きたちに肩を担がれながら部室を出ていったのだった。
◇
「うん。やりすぎだね」
「やりすぎですね」
「すみません……」
ボクシング部の問題を片付けた俺は、そのままの足取りで理事長と校長先生に報告を行っていた。
そしてお2人からお叱りの言葉をいただき、今に至る。
「ひとまず、持田くんと矢財くんの頭が弾け飛ばなくて本当に良かったよ……でも、絶対に人に向けてそんなパンチ繰り出しちゃダメだからね?フリじゃないからね?」
「もちろんです。反省してます……」
人に向けて繰り出すつもりはカケラもないが、今回は本当にやり過ぎてしまった。あのパンチが万が一ズレて矢財の顔に当たっていたら、想像もしたくないような事態になっていただろう。
力の使い方は今まで以上に気をつけようと心の中で誓った。
「サンドバッグはもともと古かったから新しいのを注文しておくよ。ボクシング部のみんなには古くなっていたから弾けたんだと説明しておこう」
「すみません。ありがとうございます」
ちなみに、部室は『玩具』で作った掃除用具人形でピッカピカに掃除してある。
せめてもの償いとして部室は塵一つないほど綺麗にさせていただきました。
「矢財くんが黒歴史を残すことになってしまったのは可哀想だけど、これで少しは大人になってくれるといいね」
「そうですね。やり過ぎましたけど、少しでも懲りてくれたらありがたいです」
「お2人とも考えが甘いですね。人間を辞めると考えが甘くなるのでしょうか?それと、歳だけ無駄に取った大人もどきが大人を語らないほうがいいと思いますよ」
「ちょっと僕に辛辣すぎない!?」
楽観的な意見を交わしていた理事長と俺を諌めるように、校長先生がそう話した。
というか、人間を辞めたつもりは全然ない。
「力のない者やお2人ほど強大な力がある者は別ですが、中途半端に力のある者は簡単には諦めません。策を練って再び向かってくるものです。矢財くんのようにプライドが高く、よろしくない人脈もある子は特にその傾向が強いでしょうね」
中途半端に力のある者は再び向かってくるか……校長先生自身何かしらの経験があるのか、とても説得力のある言葉に聞こえた。
「相手の弱点はどこなのか。相手が何をされると嫌なのか。それを考え、実行してくるはずです」
「なるほど……」
弱点か。もしもクロ達が狙われたら……ちょっと心配だな。相手が無事では済まない。
そしてクロ達とは別に、狙われたら困る点は確かにある。やっぱり矢財達は監視しておく必要があるかもしれないな。
「本来であれば理事長を無休で貸し出すのですが、近頃は無駄に忙しくてあまり協力できず申し訳ございません」
「いや、本当に僕の扱い雑すぎない?」
理事長と校長先生は何やら忙しいらしい。
当然か、この学校で一番偉い人達だもんな。
「それでも、何かあれば遠慮なく言ってください。少し時間がかかるかも知れませんが、校長権限で対応致します」
「あ、はい。何かあればよろしくお願いします」
もともと自分でなんとかしようと思っていたので、力を借りることは多分ないだろう。
そもそも、異能組織や術師ですらない相手なら余程のことがない限り大丈夫だと思う。むしろやり過ぎないように注意しなければならない。
「それじゃあ失礼します」
「うん、わざわざ報告してくれてありがとね」
「あまり気負わずにがんばってください」
理事長と校長先生にそう労われながら退室する。
とりあえず、今週が終われば待ちに待った夏休みが始まる。それまでは何事もないことを願いつつ、俺はいつもより少し遅い帰路に着いたのだった。
『幸助が理事長の能力でこの学校に引き寄せられたとしたら、もともと何かしらの能力を持っていたんじゃないか?』
といった考察をしてくださっている方がいらっしゃったので、この場を借りて軽いネタバレをさせていただきます。
答えはみなさんの考察通り、『神様と出会う以前から能力を持っていた』です。
投稿開始当初のコメント返信で近いことを話したことがあるのですが、作者が思う『最強の能力』を幸助は初めから持っています。
それに理事長の能力が影響したわけですね。
もちろん、石田や滝川のように地方からわざわざ通う事を決めた一般人も大勢います。というかほとんどがそうです。
ちなみに、幸助のデフォルト能力は作中で何度も何度も発動しておりますが、明確な効果が分かりづらいため誰も気がついておりません。
というわけで、ネタバレはここまでとなります!
更新遅くて大変申し訳ございませんが、能力の正体についてはいずれ本編にて語らせていただきます。
今後とも今作を何卒よろしくお願いいたしますm(__)m