101話「番長の座とか興味ない?」
大変お待たせ致しましたm(__)m
第六章「番長編」スタートです。
「終わったー!」
期末試験最終日。
なんとか期末試験は乗り越えることができた。手応えもそれなりにある。
少なくとも赤点は回避できているだろう。
「この1週間、辛かった……」
学校では潤叶さんの手が空いている時に勉強を見てもらい、家ではニアによるプロ家庭教師顔負けの講義を深夜まで受け続け、平均睡眠時間3時間以下の中で勉強を続けたのである。
このチートボディがなければ絶対に体調を崩していただろう。神様にも感謝だな。
「無事に終わったな」
「お、終わった……」
石田は今回も大丈夫そうだ。満足そうな表情から察するに、今回も学年1位を取りそうだな。
滝川は、別の意味で終わったらしい。とりあえず冥福を祈っておこう。
「さてと、今日はもう帰って爆睡……」
『1年E組の結城幸助くん。至急、理事長室へ来てください。繰り返します。1年E組の結城幸助くん。至急、理事長室へ来てください』
帰りのホームルームが終わったので早く帰って爆睡しようと思っていたところ、そんな校内放送が流れた。
周囲からは「一体何をやらかしたんだ!?」という視線を向けられている。
とんだ公開処刑だ。
「テストの手応えは絶望的だけど、幸助の不幸が見れたから補講頑張れる気がする」
「この野郎、補講の課題は手伝ってやらん」
「すみませんでしたぁ!手伝ってくださいぃ!」
滝川とそんな雑談を交わしたあと、重い足取りで理事長室へと向かう。
「にしても、一体何の用で呼ばれたんだろう……?」
テスト期間中は何も悪いことなどしていない。
「もしかして、今までの出来事に何か問題があったのか……?」
『学校ニバレテイル可能性ノアル出来事トシテハ、入学当初ノ葛西サントノ揉メゴトデショウカ?』
『すすきのでのバイトも問題じゃない?』
ニアとウルが霊力糸を通してそう補足してくれた。
うん、どちらも問題だな。特に夜の街でのバイトは結構な問題な気がする。呼び出される可能性は充分にある。
「あ、もう着いたか……」
そんなことを考えていると、いつの間にか理事長室の前に到着していた。もうここまできたら覚悟を決めるしかないだろう。
「失礼します……」
「どうぞ〜」
そんなことを考えながら緊張の面持ちで理事長室に入ると、来客用ソファーにはキリッとした表情の中年女性と優しそうな表情の中年男性が座っていた。
女性のほうは知っている。この学校の校長である『高移朝子』先生だ。
となると、隣に座っている男性はーーー
「はじめまして。僕がこの学校の理事長、〜〜〜〜だよ」
ーーー理事長だった!
「はじめまして、結城幸助です」
「うん、急に呼び出してごめんね。どうぞどうぞ座って。あ、何か飲みたいものある?」
「それではメロンソーダで」
「いやいやちょっと待って高移くん。僕は結城くんに聞いたんだよ?っていうかなんで理事長の僕に飲み物持って来させようとしてるの?この学校では立場的に僕が上じゃない?」
「コーラでも構いません」
「全然聞いてない!っていうかこういう場面って普通コーヒーとかじゃない!?まぁ持ってくるけども!えっと、結城くんもコーラでいいかい?」
「あ、はい。お願いします」
どんな人達なのかと緊張していたが、校長先生はマイペースで理事長は結構フレンドリーそうな人らしい。
そして、本当に理事長がコーラを持ってきてくれた。
「さてと、先に言っておくけど、別に君を怒るために呼んだわけじゃないんだ。ちょっと頼み事をしたくてね」
「頼み事、ですか?」
「うん。結城くんって、この学校の番長の座とか興味ない?」
「……えっ?」
理事長から出た言葉があまりに予想外だったため、一瞬理解できなかった。
番長?番長って、その学校の不良とかを束ねている存在……だよな?
『ニア』
『番長トハ、ソノ学校ノ不良トカヲ束ネテイル存在デスネ』
霊力糸を通してニアに確認してみると合ってた。
番長とはその学校の不良とかを束ねている存在らしい。
「はははっ、急にこんな話をされたら驚くよね。実は、最近高等部で良くない噂を聞くようになったんだ。なんでも、あるグループのリーダーが番長になりたがってるみたいでね」
理事長の話を聞くと、高等部の1年生である『矢財剛』という生徒が支配欲高めな性格をしており、この学校の番長の座を狙っているらしい。
それだけならいいのだが、彼のグループや彼自身にも黒い噂が絶えないため、彼が番長になると何かしらの問題が起こるかも知れないと理事長は警戒しているそうだ。
「もともとは葛西くんがこの学校の番長と呼ばれていたという話は知っているかい?」
「一応、知ってます」
「その話の始まりは中等部の頃に、矢財くん達が月野アカリさんと雫さんに手を出そうとしたことが始まりだったんだ」
雫さんとアカリさんの美貌は入学時から群を抜いていたそうで、その2人を狙っている生徒も多かったらしい。
そんな中、素行の悪いグループを率いていた矢財が2人に手を出そうと近づき、ソージがそれをボコボコにし、さらに矢財にいじめられていた生徒達も全員解放。その噂はすぐに広まり、ソージはまだ1年の時点で中等部の番長として君臨したそうだ。
ちなみに、ソージの現在の取り巻き達はその当時矢財にいじめられていた生徒で構成されているらしい。
あの剃り込み不良くんとか昔いじめられていたんだな……全然想像つかない。
「矢財くんのお父さんは大企業の社長さんでちょっと問題になりかけたんだけど、そこは僕が色々と手を回してね。葛西くんが番長として君臨できるようにしたのさ」
「教育者としては恥ずかしい話ですから、そのように自慢気に話せる内容ではないですけどね」
「うぐっ」
校長先生がそう補足しつつも、理事長の説明は続いた。
「葛西くんが番長になった後はずっと平和だったんだけど、高等部になった直後にまさかの出来事があってね」
「まさかの出来事ですか?」
「葛西くんが、実は弱いんじゃないかっていう噂が流れたんだ」
「ソージが弱い?」
入学当初に胸ぐらを掴まれたまま持ち上げられた記憶が蘇る。
ソージは身長が高いので細身に見えるが、実は相当鍛えている。異能ややよいさんから教わった戦闘技術を抜きにしても、同年代で勝てる相手はほぼいないだろう。
それなのに何故そんな噂が……あ。
「もしかして、俺が関わってます?」
「そうだね、結城くんが関わっているよ」
やはりそうか。おそらく、ソージが俺の舎弟だという噂が原因なのだろう。
「もう予想はついてそうだけど説明させてもらうね。葛西くん自身が結城くんの舎弟だという噂を流したせいで、生徒達の共通認識として君がこの学校の番長ということになっているんだ」
「うわぁ、最悪です」
やってくれたなソージ。
「そしてここ最近、矢財くんの取り巻きが結城くんを監視していたみたいでね。その結果として、下克上が狙えるのではと考えたみたいだよ。気を悪くしたら申し訳ないけど、結城くんは葛西くんほど強そうには見えないからね」
「自覚はあります」
ソージはヤンキー漫画のボスみたいな見た目だが、それと比較すると俺は学園漫画もののモブキャラのようなオーラしか放っていない。
そして、理事長の話を聞いて監視されていた事実を初めて知った。
普段から嫉妬や殺意の入り混じった視線を受け続けていたため、全く気が付かなかった。
「ならいっそのこと、力があって素行の良い結城くんに番長を務めてもらって、矢財くんも含めた素行の悪いグループも抑えてもらえたらと思ったんだよ」
「そんなことを堂々と頼むなんて、凄いこと考えますね」
俺はチート満載人間なので全く問題ないが、生徒にこんなことを頼むのは大問題だと思う。
多少腕っ節に自信がある生徒でも、番長として学校中の不良を抑えるなんて難しい話だろう。
「はははっ、流石に普通の生徒にこんなことは頼まないよ」
「まぁ、ですよね」
術や異能のことを理事長が知っているはずはないので、入学当初に武器を持った暴漢を捕まえたという逸話を見込んで頼もうとしているのだろう。
「結城くんは術も異能もたくさん使えるし、頼もしい家族もいるから大丈夫だと思ったんだ。もちろん、葛西くんを番長にした時も、万が一の事態でも異能があるから大丈夫だと思ったからだよ」
「……えっ?」
……全部バレてる?