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異世界転生…されてねぇ!  作者: タンサン
第五章「実家帰省編」
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100話「先生」




 水上家の本家地下に存在する『封印の間』。

 そこでは、複数の結界術で拘束された猪笹王が龍海の質問に答えている。


「貫通系の能力を持つ妖や棒のような形状の妖を莫大な霊力と特殊な術式で強化すれば、『果ての二十日』を破壊するに足りえる『楔』という存在になるということかい?」

「その考え方で間違いないっす。ちなみに、並みの結界や封印術なら1本で充分ですけど、『果ての二十日』クラスの封印術には12本は必要になるっす」


 自身を拘束する結界に僅かな鬱陶しさを感じながらも、猪笹王は知っている情報を正直に話していた。

 罪を犯した妖に対する法律はないため、妖の処罰は基本的に各五大陰陽一族の当主の裁量に委ねられている。

 今回の場合。猪笹王は知り得ている千年将棋の情報提供と引き換えに減刑と自身の保護を要求し、龍海はこれを了承した。

 そのため、現在は千年将棋からの報復防止と監視を兼ねて、この封印の間に捕らえられていたのである。


「それで、今回の楔で『果ての二十日』を内側から破るために必要な本数は集まる予定だったんすけど、儀式が終わる直前に中断されたので最後の一本は未完成っす」

「つまり、封印を解くにはまだ時間がかかるということかい?」

「そういうことっす。具体的にどれくらいかかるかはわからないですけど、すぐに復活することはないと思うっす」

「そうか……とりあえず今聞きたい話はここまでだ。今日の質疑はこれで終わりにしよう」


 そう言いながら封印の間を後にした龍海は、千年将棋がすぐに封印を破れないという事実に心の中で安堵した。


(潤叶たちに感謝しなければな)


 もしも潤叶たちのチームが千年将棋の駒を見つけていなければ、今頃は取り返しのつかない事態に陥っていた可能性すらある。

 それこそ、封印を破った千年将棋によって国家規模の大混乱が起きていた可能性すらあるのだ。


(おそらく、結城くんの活躍も大きかったのだろう……だが、このままにしておくのは危険かもしれないな)


 そう考えた龍海は、この短期間で成し遂げた結城幸助の数々の偉業を思い出し、真剣な表情で思案を続ける。


(すでに彼は世界中から狙われてもおかしくないほどの偉業を成し遂げている。邪神の心臓の功績は『先生(・・)』の力によって守られている潤叶に肩代わりさせたが……やはり、今後のことを考えれば、結城くんのことも先生にお願いしておくべきだろうな)


 その結論に至った龍海は、自身の仕事部屋へ入るなり手紙を書き始めた。

 彼が『先生』と呼ぶ存在へ、幸助の安全が確保されるよう依頼を行うためだ。


「龍海様。先程、国の調査隊から『果ての二十日』に関する報告書が届きました。入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」

「失礼します。こちらが調査結果の報告書です」

「ありがとう。仕事に戻っていいよ」

「はっ!失礼します」


 部屋を出て行く部下を見届け、龍海は早速報告書に目を通した。そして、僅かな安堵と共に龍海は覚悟を決めた表情となる。


「『果ての二十日』には亀裂等の損傷は見られないが、強度の低下が確認された。推測では保って2ヶ月。早ければ1ヶ月程度で封印が破られる可能性がある……か」


 その報告書には、千年将棋との決戦が目前まで迫ってきている事実が記されていた。


「青森ねぶた、秋田竿燈(かんとう)、仙台七夕……来月は東北の各地で『祭り』が重なる時期だったな。時間はないが、悪くないタイミングではある」


 『祭り』とは本来、神様への感謝示す行事である。

 そのため、祭りが開催される期間は神聖な霊力が高まり、術式の効力に良い影響が出やすいという効果があるのだ。


「この時期を逃す手はないな。封印が破られるのを待つのではなく、祭りの時期に合わせて封印を解くほうが勝率は高いだろう」


 そう考えた龍海は、先生への手紙を書き終え、他の五大陰陽一族を説得するための資料の作成に取り掛かかる。

 幸助のことを気にかけながらも、自身の復讐を果たすために龍海は手を休めることなく仕事を続けるのであった。

 

 







「おはよう結城」

「石田、滝川、おはよう」

「ん?おお、幸助、おはよう」


 朝学校へ行くと、滝川が真剣な表情でスマホの画面を見続けていた。

 そのせいで俺が教室に入ってきたことにも気づかなかったようだ。


「何見てるんだ?」

「これか?なんか三連休の間に道内でオカルト事件があったらしくてな。ちょっと調べてたんだ」


 滝川が見せてくれた画面を見ると、そこには北海道のとある市の山中に山菜を採りに行った女性の話が書かれていた。

 山奥で山菜を探していると人影が見えたため、気になってそこへ向かうと、人と同じ大きさのたくさんの土人形が土木作業をしていたらしい。

 あまりの出来事に気絶した女性が目を覚ますと、そこは森の入り口だったそうだ。


「夢かと思ったけど、採った山菜はしっかりと持っていたんだってさ」

「へ、へぇ〜……」

「面白い話ではあるけど、ちょっとできすぎてるよな」

「そ、そうだね……」


 土木作業をしているたくさんの土人形……そんな状況に見覚えある気はするが、きっと気のせいだろう。


「あと、巨大ロボットが現れたって記事もあったな」

「きょ、巨大ロボット……!?」

「ほら、この記事」


 その記事には早朝に地震のような揺れで目を覚まし、気になって外に出てみると、近くの公園に建っている塔が巨大なロボットに変形していたと書かれていた。

 だが、投稿者が目を離した隙に巨大ロボットはもとの塔の形に戻っていたらしい。


「早朝だったから他に目撃者もいなくて、咄嗟だったから映像も写真もないんだってさ。突拍子もなさすぎて逆に面白いけど、さすがにって感じの話だよなぁ」

「そ、そうだな……」


 そういえば、『笑い地蔵』の結界が切れていたことにしばらく気付かなかった。まさか、その間に見られていたのか……!?

 だが……記事には百年記念塔と言及されてはいなかった。うん、きっと気のせいだ。偶然、投稿者の人がそんな夢を見ただけだろう。


「俺のオカルトセンサーには何も反応がなかったからな、とんだガセ情報だったぜ」

「そうだな。滝川の優秀なオカルトセンサーに反応がないのなら、きっとガセ情報だろう」


 滝川のオカルトセンサーが優秀で本当によかった。


「ってか、成行は朝から勉強かよ。真面目だなぁ〜」

「当たり前だろう。来週は期末テストなんだぞ?」

「「えっ……!?」」


 石田の言葉で気がついた。そういえば、もう7月!期末テストの時期だ!


「色々ありすぎてすっかり忘れてた……」


 滝川も忘れていたらしく、これでもかというほどあたふたしている。


「い、石田さん!勉強教えてください!」

「成行さん!お願いします!」

「今回の試験範囲は苦手な部分が多くてな……申し訳ないが、余裕がない」

「そ、そんなっ、成行様!そこをどうにかっ!」

「石田先生、学年一位のそのお知恵をお貸しください!」

「俺は夢のために、成績を落とすわけにはいかないんだ!」


 俺たちの強い願いは、石田の夢の前に儚く散った。

 というか、石田の夢って何だろう?この時期から明確な夢を持ってるって凄いな。


「ぐぬぬ、成行がダメなら一体どうすれば……」


 滝川が必死に戦略を立てている。

 にしても、まさかこんな危機が迫っていたとは思わなかった。というか気付かなかった……。

 バイトに明け暮れていたせいで、今回のテスト範囲は本当に自信がない。

 そして習得能力は興味がある分野でしか発揮されないため、勉強に関してはあまり効果がない。

 さらに、学年1位の石田が苦手とするほどの範囲。この時期から一人で闇雲に頑張っても、結果は見えているだろう……。


「そうだ!」


 不動の学年1位は石田だが、我がクラスには学年2位もいる。

 そう、潤叶さんだ!


「でも勉強の邪魔は出来ないから、余裕があったら教えてもらうことにしよう……」


 潤叶さんは委員長の業務や術師の仕事もある中で勉強しているのだ。そんな人の足は絶対に引っ張れない。


「というか、そう考えると俺って惨めだな。もっとちゃんと勉強しておけばよかった……」


 そんな後悔を抱きながら、鞄から教科書とノートを取り出す。

 捕らえた猪笹王と槍使いのその後や千年将棋の件などなど、気になることはたくさんあるが、今は期末試験が最優先だ。

 そう考えながら、朝のホームルームが始まるまで自習に励むのだった。









 最後にフラグを撒き散らしながらも、これで『実家帰省編』は終了となります!

 超久々のキャラクター紹介を挟みつつ、新章突入の予定です。

 新章は妖怪大戦争の予定でしたが……勝手に龍海がフラグを撒き散らしたので、急遽学園生活の章を挟むことになりました。


 今後とも「異世界転生……されてねぇ!」をよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
彼女と同じ学校に現役合格しなきゃ?
[一言] 記念すべき第百話と、五章完結お疲れ様! 前回意味ありげに語られた、潤叶の力を必要とする事態の真相には笑った。まあ学生にとっては切羽つまった事態だけど。 作中時間は七月だったんですね。入学…
[一言] これは記憶の異能がほしいところ というかこういう勉強をそういうものと捉えたら学習チート働かないのかしら?
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