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第6章 5

5.


 宇宙船は高度を上げて、地上都市 エックスを目指し飛行する。

 「地上都市群には、領空侵犯にならないように事前に通告してあるから大丈夫と思うけど…見るからに異様な飛行体だからなあ…」遠夜がコクピット・ウィンドウから下を覗きながら言った。

 真人も遠夜の隣でうんうんと頷いている。

 俺だったら撃ち落としたくなるね。

 

 今、宇宙船内の広間では、宇宙船に残る人たちと地上都市で降りる人たちのディスカッションが、啓司の司会で行われている。

 ディベートに近いんじゃね?結論出るわけ?と遠夜は言ったが、それぞれ思ってること考えていることを述べ合って、その結果考えが変われば残ってもいいし降りてもいいということにしたと啓司は言った。

 なにしろ、宇宙へ行っちゃったらまず戻ってくることはあり得ないし、逆にこの機会を逃したらもう宇宙に行けることはないだろう。

 慎重になるのも無理はないさと。

 

 啓司ってこういうとこ本当に親切っていうか、わざと白黒つけないでどちらの意見も汲むっていう芸当が上手いんだよな。

 遠夜は地下大都市では映像でしか見たことのない、大きくて広い青空を飽くことなく眺めながらひとりごちた。


 『ははは、遠夜にはできない芸当だな』サイボーグとなった隆一が陽気に笑う。

 「ちっ。うるさいんだよ隆一さんは。何でこんな機能つけやがった」遠夜は舌打ちする。

 

 実際、サイボーグ隆一はコクピットに遠夜がいると饒舌だった。

 恭香は目を丸くして聞いている。

 他の人のときには、いっそ不愛想と言えるほど黙っているのに。

 

 「宇航がいないからよく判らないんだけど…、大神医師せんせいから渡された設計図にあったみたいで。サイボーグになる脳の部分と、感情を表したり会話をしたりする感覚センサーの機械はワンセットで設計されていたみたい」

 恭香が考えながら言った。

 

 宇航は、隆一の脳を宇宙船に接続して起動設定を全部やり、地上までの飛行計画を立てる作業を連徹でこなして、更に今朝からの行動にも加わり、成功して今やっと眠っている。


 貴彦は先ほどようやく気が付いて、悠美に支えられてコクピットに来た。

 人工子宮の部屋での、悠美の応急処置が適切だったようで心配していたより軽傷だった。

 サイボーグ隆一と会話して、非常に驚いていたが、やがて微笑んで「良かった。これから俺たちとずっと一緒に旅ができますね」と言った。

 今、コクピット・ウィンドウから悠美と一緒に外を眺めて楽しそうに話している。

 

 「隆一さん。訊いてもいいかしら」恭香が言う。

 『どうぞ』隆一は優しく答えた。

 

 「この船の最初の設計は、80年位前にされたのよね。

 遠夜がホストコンピュータに侵入して得た、この船の設計図は80年前のもののままで、私たちはその図面と実際のコクピットが違うことに気づいて調べたら、一度改造された跡があった。

 でもその設計図は紙媒体にしか存在せず秘密裏に隠されていて、今回急に大神医師せんせいから宇航に渡された。

 これって、どういうことなの?」


 遠夜は立ち上がって恭香の隣に行った。

 自分もそれは疑問だった。

 

 「あと、なんで隆一さんがサイボーグなんかなってんだよ。

 俺と真人、思い切り喧嘩したし。

 そもそも隆一さんの立場って、俺たちが脱出企ててんの、阻止する敵なんじゃなかったのかよ」


 俺ら、誰と戦って大変な思いしてここにいるんだ?

 納得いかない思いが、遠夜の中で渦巻いている。


 『あはは、それもそうだな。そう思うのも無理はない。

 じゃあ、話すか。ちょっと長くなるけどな』

 サイボーグ隆一は言った。


 貴彦と悠美も興味をひかれたように、大脳の方を向いた。

 真人も窓際でこちらに向き直っている。

 5人で聴く体制になる。


 『話はお前たちが生まれる前に遡る。

 25年前、24歳の時に俺は頭脳ブレインのトップになった。

 それまでトップだった人はすごい頑固爺いで正義の人だった。

 俺ら皆、規則でガチガチにされていたんだ。

 だから俺はもっと自由な地下大都市トウキョウにしようと意気込んでいた』


 『知ってのとおり、俺たち特殊能力者は厳格にランク付けされているから、俺だっていつトップから降りることになるか判らない。

 幸か不幸か、遠夜が生まれるまでそういうことはなかったんだが。

 だから、俺は矢継ぎ早に改革を推し進めていった。

 結構人気あったんだよ、俺はこれでも』


 うん。皆頷いた。

 隆一さんはあまり細かいこと言わない案外やりやすいって、成人になった人たちは言ってた。

 子供の自分たちから見ても、トウキョウは誰かひとりの意思と言うより全体で動いてる感じがあった。


 『俺には、頭脳ブレインのトップになってすぐに結婚した同い年の妻がいた。

 名前は美奈といって、当時、精神サイキックのトップだった』

 

 「美奈さん…知ってる」悠美が息を飲んだ。

 「ものすごい超能力者サイキックだったって、殆ど伝説の人」

 

 『ははは。悠美も伝説の精神サイキックになれるさ。

 ブラックなイメージだけどな』隆一が笑って、皆も苦笑する。

 「確かに…」と悠美も笑った。「この計画の最年長だもんね」


 『それから技術テクニックのトップの翔馬とは幼いころからの親友だった。

 俺ら3人でこの地下大都市トウキョウをより良くしていこうって、夢を語り合ってたんだ』


 若いころの3人が楽しそうに夢を語る姿が目に浮かぶようだった。

 俺と恭香と貴彦…そんな感じかな?

 遠夜が思って2人を見ると、2人も遠夜を見て微笑んだ。


 『俺は、ホストコンピュータの文献もいろいろと見た。遠夜と違って自分のIDで堂々とな。

 そして遠夜と同じように、この地下大都市トウキョウは誰の意思でどこへ行こうとしているのか疑問に思った。

 人工子宮計画や、その先のミュータント計画にも衝撃を受けた』

 

 ミュータント計画は、人工子宮計画のファイルの中に一緒に入ってたんだな。

 遠夜は唇を噛む。

 だから俺知らなかったんだ。人工子宮計画のパスワード破るのが面倒で、中を見なかったから。


 『ただ俺は遠夜と違って、このシステムは間違ってるだからこのシステムを破壊して、地下大都市をすべてぶっ壊してやれとは思わなかった。

 遠夜の発想にはホント参ったよ。若さなのかな。立場の違いなのかな』

 

 『妻の美奈は、俺たち特殊能力者に子供ができないのをとても悲しんでいた。

 地上都市で生まれた子供を引き取って育てようかという話もしたんだが(人工子宮のことはまだ話してなかった)、それは昔にいろんなトラブルが起きて禁止になっていたし、美奈の希望は俺と美奈の子供を授かることだった』


 解るわ…と恭香が呟いて、遠夜は驚いた。

 以前話したときは子供は授からないものと最初から思っていると言ってたけど、納得して受け入れてるわけじゃなかったんだ。

 悠美も俯いて、貴彦の胸に顔を埋める。貴彦は悠美の背に腕を回した。


 『質問の意図から外れていると思うかもしれないけど、後に繋がってくるから辛抱して聞いてくれ。

 美奈の気持ちを重く受け止めた俺は、なんとか美奈の希望を叶えてやりたかった。

 そこで、翔馬にも相談して、禁忌に手を出した』


 えっ、と皆は思わず声を上げる。まさか。


 『俺と美奈の染色体から子供を作ろうとしたんだ』

 

 

 

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