第5章 10
10.
地上掃討作戦の決行日が決まり、にわかに地下大都市の中は騒然としてきた。
未成年である遠夜たち5人にも普段以上の業務が課せられて皆顔を合わせる暇もないほどだった。
「ぜってえ、隆一さんの差し金だろ…」
昼休みに恭香を除く4人はたまたま食堂で顔を合わせて、皆でため息をつく。
こちらの決行日がバレてるとかないよな…?
しかしもう明日に迫っている決行日を変えるわけにもいかない。
皆は緊張の面持ちで今晩の最後のミーティングを約束し解散した。
ところがそんな時に、頭脳のトップ、隆一の死が公表された。
地上掃討作戦の後に葬儀が行われるという。
遠夜は太一のところへ走った。
太一は当然というべきか、わざわざ遠夜に会ってくれることはなかった。
偉そうに「これからは俺がトップだ。来年も遠夜が成人することはない」とかいう伝言を寄越しただけだった。
けっ。成人なんてこっちからお断りだよ。
行政地区の扉をガンっと蹴って、遠夜は引き返した。
業務の隙間を縫って、啓司に連絡すると「こんな時に何いってるんだ殺すぞこの野郎」と凄い剣幕で怒られ、大神医師に会いに行くのはどうしようかと思っていると、貴彦から電話が来た。
『仕事中ごめん。今大丈夫?』
「うん。話しながら仕事する」
『ちょっとだけ時間あったんで、大神医師のところへ行ってきた。昨日の緊急オペはやっぱり隆一さんだったみたいだ』
貴彦は暗い声で言う。
やっぱりそうか。隆一さんそんなに具合悪かったんだ…
遠夜の頭の中で、何か引っかかるものがあったが、まさかな…と打ち消した。
宇航や恭香とは昨日から、こちらからは連絡が取れない。
向こうから不定期に連絡があるだけで、とにかくメインコンピュータの接続にかかりきりらしい。
仕事もこなしながら、凄い二人だ。
「太一さんがいい気になっちゃってて、嫌になるよ」と遠夜はブツブツ言った。
『まあ、隆一さんが優秀すぎたからなあ。太一さんでは太刀打ちできなかったんだろう。ずっとトップにいて長かったし』
「でも50歳前だろ。本当に短命なんだな俺たち」遠夜はため息をつく。
『うん…』貴彦も沈んだ声で言った。
『とにかく君は仕事に集中して。話は後で』
「判った。ありがとう」
通話が切れ、遠夜は仕事に集中した。
その夜、皆で集まった。
悠美は遅れてくると言い、宇航は来られないと言っていた。
5人は狭い遠夜の部屋の中で、明日の最終的な確認をする。
「地上都市 Xには明日の朝までに、えーっと2,078人集まる予定だ。
そのうちの184人が宇宙船に搭乗する。
都下大都市トウキョウからは宇宙船で156人が乗り込み、69人を地上都市 Xで降ろす。
…恭香は外してあるが、いいんだな?」
プリントアウトした紙面を見ながら、啓司が訊いた。
啓司が世界中からの連絡先の窓口になっているので、殺人的な忙しさだった。
何十人単位で始まったこの計画は、日が経つにつれて膨れ上がり、ここにきて地上掃討作戦に参加したくないという人の移住希望も相次いで、さすがの啓司も悲鳴を上げていた。
遠夜はできるだけ希望を受け入れたいと言っていたため、こんな数に上ってしまったことに驚いたが、あとは地上残留組のリーダーの真琴に託そうと思っていた。
真琴は啓司の上司だが、同じく頭脳属性の夫とともに地上都市で暮らしたいとの希望があって、啓司を通じてリーダーになってもらうよう頼んだ。
啓司の質問に、恭香はうんうんと頷いた。
「遠夜が宇宙船にならないなら、乗るわよ~当たり前でしょっ」
照れ隠しにツンとして見せる。
啓司は苦笑いした。
似たもの同士、似合いの夫婦になるよお前ら…
「まずは警備の隙を縫ってメインコンピュータのコンピュータルームに侵入する。
貴彦と悠美が先導してくれる。カメラを壊しながら進む。
必要とあれば警備を失神させるって言ってるけど…
最近はロボット使ってるから、どうかな。
狙撃があると思うから、絶対に防弾スーツを着用。
皆、着てみたな?」
遠夜が訊いて、皆は頷く。
「図にも書いたけど、警備ロボットの動力源はここ。
撃つときはここを狙うのが一番効率的だ。コンピュータの部分は頑丈に守られてて無理そう。
防弾スーツは右腕にレイ・ガンがついてて、照準器がアイシールドの部分に出る。
知覚感知型だから、どちらも頭の中で考えれば自動で起動する。
多少のタイムラグはあるが、あちこち操作するよりは断然早い。
あと、左腕にシールドが仕込んである。
かざせば起動して、膝をついた態勢なら全身をカバーできる」
防弾スーツを恭香とともに作った真人が説明し、皆は真剣な表情できいた。
そこでインタフォンが鳴り、悠美が「遅れてごめんね」と入ってきた。
貴彦の隣に座り、簡単に今までの説明を受ける。
悠美が納得すると、遠夜が言葉を続ける。
「コンピュータルームの手前まで侵入できたら、そこで二手に分かれる。
俺遠夜と悠美、宇航、啓司がコンピュータルームに。
真人、恭香、貴彦は人工子宮のある部屋へ、裏口から潜入してもらう。
そっちの方がダイレクトに部屋へ入れるから。
ただ、以前に真人が入り込んだことから、警備が強化されてる可能性がある。
充分に気を付けて」
3人は頷いた。
「連絡は、これで取り合うことにしてね」と恭香が小さなイヤーカフを人数分出した。
「傍受されないように、7人だけの周波数に合わせてあるの。短波だからそう遠くは無理だけど、この地下大都市くらいならカバーするから。
マイクを内蔵してるからそのまま話せば大丈夫」
皆は一つずつ取って耳にセットした。話してみるとかなり明瞭に聞こえる。
「凄いね~恭香」悠美が感心したように言った。
「どうしても、の時は強く思ってくれれば、あたしか貴彦が感応するからね。
声が出せない状況とか、あるかもしれないし」
「精神感応には敵わないわね、悠美と貴彦がいてくれて心強い」恭香が笑う。
皆も頬を緩めた。
「恭香、これオーカミ医師にもひとつ渡しといて。
宇宙船の入り口にいて、乗り込む人たちの誘導を頼んである」
遠夜が言った。
恭香は「判ったわ、今日中に」と頷いた。
ここでコクピットにいる宇航と連絡を取った。
格納庫には悠美が言った通り、電磁波のようなシールドが張り巡らされていて電波が通りにくいため、裕太がなんと有線で遠夜の部屋まで電話回線をつないでくれていた。
ケーブルは天井の中に埋め込んだというから、遠夜は驚きつつ感謝した。
数回のコールの後、宇航の声が部屋のスピーカーから聞こえてきた。
『はい、宇航』
「おおすっげえ!」皆は歓声を上げた。
『なに?皆いるの?』宇航の驚いた声がする。
「さっき恭香が持っていった、スパコンの図面見られる?」遠夜が訊くと、ガサガサと音がして『OK大丈夫』と宇航が言った。
この作戦に利用する図面や資料はすべて紙媒体でやり取りすることに決めてあった。
電子のやり取りだと、どこから傍受されて流出するか判らないからだ。
太古の昔のやり方で面倒だけど、確実だよな~と遠夜が笑った。
作戦実行の4人と3人に別れて、さらに細かい打合せを重ね、深更になってやっと解散になった。
「遠夜、明日は寝坊するなよ」啓司が心配そうに「起こすか?」と訊いた。
「いいよ!大丈夫だって!」遠夜は顔を赤くして本気で怒り、皆は笑って各々の部屋に戻った。
いよいよ、決行は明日。




