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第5章 6

6.


 その日から宇航は文字通り寝食を忘れて宇宙船の改造にかかった。

 皆も仕事と、最低限の生命維持のための活動を除いては、プロジェクトの進行に心血をそそいで、ほとんどすべての計画が終了してあとは決行を待つばかりになった。


 遠夜は、頭脳ブレインの太一を計画に抱きこもうと画策していた。

 太一は隆一に次いで頭脳ブレインの中ではNO.2の人物である。

 ところが、これが手強かった。


 太一が言うには、隆一は今酷く体調を崩していて、実質的には太一が頭脳ブレインのNO.1であるとのことだった。

 「え…隆一さんが?どこが悪いの?」遠夜は心配になって言った。

 そういえば、あの日コンピュータルームから逃げ出して以来、隆一には会っていない。


 「うーん。よく判らないんだ。でも、もう年齢も年齢だし。

 どこか悪いところがあってもおかしくはないよな。

 遠夜のことはものすごく怒ってて、洗脳が完全になるまで絶対に成人させない、って息巻いてたけど」


 うーむ。こういうことを本人にペラっとしゃべっちゃうところが、太一さんの欠点だよなあ。

 たしか30歳くらいだったよな…大丈夫か?

 計画に抱きこむのは止めた方が良いか…隆一さんにも何でも言っちゃいそうだ。


 「俺も、隆一と同じ考え。

 地下大都市トウキョウをぶっ潰せ!みたいな料簡の奴を、成人させて頭脳ブレインとこの地下大都市トウキョウのトップに据えるなんて恐ろしいことできないよ。

 俺がNO.1代行で、地上掃討作戦も進めていくから。

 隆一の指示でもう結構進んでるんだよ、遠夜の思い通りにはさせない」


 嫌な感じに笑って遠夜の肩をポンポンと叩くと太一は行政地区アドミニストレーションセクションに戻っていった。


 決行日を早めないとならないか…遠夜は唇を噛んだ。

 どうする?まだ宇宙船にメインコンピュータは取り付けられていない。

 そこが解決しないと…俺としては計画を実行に移したくない。


 遠夜はその他の上層部の人間にコンタクトを取ったが、ことごとく不調に終わった。

 隆一が怖いから…という理由を上げる人ばかりだった。

 ちくしょう、隆一さんマジか。本気で俺を封じようとしてるな。

 『隆一って結構、苛烈な性格してるよ』悠美の声が蘇る。

 

 悠美と貴彦からは、誰かを精神的にコントロールしてこちらの指示に従わせる方法もあると言われたが、気が進まなかった。

 それではこの地下大都市のやり方と同じだ。

 俺は俺の意思で動きたい。だから、自分の意思でこちらの計画に乗ってくれる人でないとだめだ。


 宇航と恭香と裕太の大活躍により、宇宙船はどんどん改良されていった。

 裕太は計画そのものには興味がないらしく、技術者テクニシャンとして宇宙船の改造を心から楽しんでいるようだった。

 メインコンピュータの設計についても、宇航と協力して目覚ましいスピードで開発していった。


 世界中の仲間からも、続々とアイデアが集まった。

 しかし、80年も前に建造された宇宙船で果たして宇宙へ行けるのか、という疑問も当然あった。

 宇宙への渡航は希望しないという人も出始めた。

 そもそも、宇宙に行くなんて…と難色を示す人もいる。


 それは仕方ない、と遠夜は思った。

 仮に宇航の作ったメインコンピュータが搭載できたとしても、試運転はどうせできない。イチかバチかで出航するしかない。


 じりじりと日が過ぎていき、皆に焦りが出始めた。

 あとはメインコンピュータだ。

 地上掃討作戦の話も、地下大都市トウキョウのあちこちで公然と囁かれ始めた。

 悠美も宇航も参加するように、内々に命令が下ったらしい。

 ふたりとも暗い顔をしていた。


 宇航と裕太の必死の努力も空しく、やはりメインコンピュータは搭載できなかった。

 「機械で動かすには、ほぼ全部の配線を変える必要がある。

 サイボーグだったとしても、結局は電気信号で動くはずなんだが…何故だか判らない。

 電気信号を変換する装置が作れないか、今試作している」

 宇航は目の下にクマを色濃く作り、憔悴した顔で言った。

 

 遠夜が他の6人を集めた。

 「一週間後に決行する。

 当日の皆の動きを、啓司に表にしてもらった。

 各自頭に叩き込んで、絶対に間違えないようにして」


 「海外からこの作戦に参加する人は、200人前後になる。

 皆、地上都市 エックスに集まってもらう。

 この地下大都市トウキョウからも、悠美と貴彦の呼びかけに応じてくれている人が何十人かいる。

 意外と少ないのは、このトウキョウの精神サイキックが優秀で、洗脳が完璧だからだと思う」


 少し笑って、遠夜は宇航に向き直った。


 「宇航、こんな無茶な頼みを聴いてくれて本当にありがとう。

 ギリギリまで試作を進めて。

 それでもダメだったら、俺の脳を搭載する」


 えっ!と皆が驚く。

 何言ってんだ遠夜。

 

 「俺の分担は、真人に頼む。

 これから一週間で、メインフレームのダウンの仕方を覚えてもらう。

 人工子宮も停止する。

 今、人工子宮内で育ってる子供だけでも助けたい気持ちはあるけど…

 キリがないという啓司の意見ももっともだと思う。

 受精卵まで助けなきゃいけなくなってくるから」


 「ちょ、ちょっと待って遠夜!」恭香がたまりかねたように叫ぶ。

 「遠夜の脳を搭載するってどういう意味なの?!」

 

 遠夜は「言葉通りの意味だよ」と微笑んで、愛しそうに恭香の髪を撫でる。

 「俺がサイボーグになって、皆を宇宙に連れていく。

 皆が穏やかに最期を迎えられる星を、安住の地を探す」

 

 恭香は「嫌よそんなの…絶対いや!」声を上げて泣き出す。

 遠夜は恭香を抱きしめる。


 「他の方法を探すわけにはいかないのか」啓司も焦ったように言う。

 「遠夜、考え直して、そんな案は受け入れられない」貴彦も青ざめて言い、悠美も頷く。

 「多少時間がかかっても、配線をし直すから。急いでやるから」宇航も必死に言う。


 「待てよ、遠夜。遠夜がいなくなったら、俺たちは動けない。

 当日に何かイレギュラーな事態がおこったらどうするんだ。誰が指示を下す?

 遠夜はそのままで大丈夫だよ」

 遠夜が驚いて真人を見ると、真人は下を向いて少し笑った。

 

 「俺が、サイボーグになる。

 大神医師とも相談してきた。

 遠夜も大神医師にオペを頼んだだろう」


 「何を…真人…お前…」遠夜は言葉にならない。


 「脳外科の専門でもないのに、5時間でやれって言われたって、大神医師が苦り切ってたよ。

 今、遠夜から渡されたオペレーションのプログラムを、医療ロボットに入力しているらしい。

 それを俺に転化してくれればいいって言ってきた」


 「俺なら、決行日の前日か、その前からでもオペを受けられる。

 少しでも時間を長くとって、宇宙船の操作を覚えられた方が良いと思う。

 大神医師も宇宙船脱出組だから、ずっと面倒見てもらえるし。

 それに何より、俺にはほら」とまた薄く笑う。


 「ただひとりの大事な人、ってのがいないからさ。

 遠夜よりずいぶん身軽でしょ。

 地上掃討作戦が決行されれば、俺の両親も殲滅されてしまう。

 それを避けられるだけで、俺はこの計画に参加する意味があったと思う」


 「生まれてからずっと大嫌いな両親だったけど。

 ここに来て、大切な友人がたくさんできて、その人たちの為なら死んでもいいと思えるくらい気持ちが充実してる。

 そんなことを思えるのも、両親が俺を産み曲がりなりにも17歳まで育んでくれたお陰だなと」


 「ダメだ、ダメだ!」遠夜は叫ぶ。

 「真人にそんなことさせられるか!真人には恭香を託す。

 恭香を幸せにしてほしい、そう思ってるから」と言って涙を振り零す。


 「なぁに言ってんだ。とんちんかんなヤツだなあ。

 遠夜以外の男と、恭香が幸せになれるわけないでしょ」真人は笑いだした。


 他のメンバーは呆然として二人のやり取りをただ見ている。

 何かを言わなければ、と思うのだが言葉が出てこない。


 「とにかく、この計画は俺が言い出したんだ。

 あの宇宙船にバカみたいに拘ってるのも俺だ。

 俺がサイボーグになるのが当然だろ」

 遠夜が言い張り、真人も真顔になった。

 

 「そういう言い方はやめてくれ。

 もう遠夜だけの夢じゃない。俺たち皆の希望の船だ。

 俺だってその一員なんだよ。

 一人で全部背負ってヒーローぶるのはやめろ」

 

 「なんだと…」遠夜がぎりっと歯ぎしりする。

 真人に向き直り、歩を進めようとする。

 貴彦がぱっと動いて二人の間に入り込んだ。


 「ここで二人が争って何になる?

 ギリギリまで宇航が努力するって言ってるんだよ。

 まだ結果も出ていないのに喧嘩するなんて最低の行為だと思わないか」


 「真人も言いたいことは解るけど、遠夜を挑発しないで。

 大神先生にも皆で話を聞きに行こう。ね?」

 なだめるように言ってその場を何とか収めた。


 一週間後の決行日までに各々の分担を確認し、他のメンバーとの連携を密にすることで解散となった。

 

 

 


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