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第3章 それぞれの葛藤 1.啓司

1.啓司


 翌日俺たちは、表向き普段通りの生活を送っていた。

 皆の心には昨日の梁氏の話が重く澱んでいるように見えた。

 

 150万人もいるようには見えない地下大都市。

 使われていない広大なエリア。

 爆発的に増加する地上都市群の人口。

 形骸化した特殊能力の検査。

 

 そして、俺たち特殊能力者はどこから来たのか。


 解答が見いだせない命題を突き付けられ、俺たちはそれぞれに苦悩した。

 俺は、仕事に没頭することでとりあえず忘れようとした。

 地下大都市コウシュウで一番の技術者テクニシャンの梁氏が判らないことを俺が考えても仕方ない。


 そんな中、貴彦が仕事中に倒れ、俺たちが駆けつける間もなく面会謝絶になった。

 大神医師は深刻な顔して「超能力者サイキックが精神を病むなんて最悪だ。どうしたんだ、何があった!」と俺たちを詰問したが、もとより誰も答えられるはずもなく、歯を食いしばって俯くだけの俺たちを前に大きく嘆息した。


 貴彦はあの日以来、悠美さんに拒絶されていると言っていた。

 落ち込みようが尋常ではなかった。

 

 貴彦が悠美さんを好きなのは以前から判っていた。

 しかし悠美さんは恋人だった、すごく優秀な超能力者サイキックを事故で亡くしている。

 それを知っている俺は、貴彦の気持ちに気づかぬふりをするしかなかった。

 実らぬ恋だと判っているのに、何かを言えるわけもない。


 だけど、なんとかできなかったか。

 俺は苦い後悔を噛みしめた。

 貴彦があれほど苦しんでいるのを知っていながら、ただ見ていた俺は友人失格だ。

 人でなしと罵られるべき、最低の人間だ。


 遠夜と真人も笑わなくなった。

 何とかしなければ、そう思いながらも何をどうしていいのか、判らず日が過ぎていった。


 俺なりに調べられることを調べてみよう。

 そう考えて、上層部とコンタクトを取ってみた。

 上層部の悟という人物といつもやり取りしているのだが、直接会ったことはない。

 真人のことで相談があると持ちかけ、行政地区アドミニストレーションセクションに赴いて直接話したい旨を送信した。

 

 しかし、返答はNOだった。

 いつも通りメッセージのやり取りで充分との認識であると。

 それが嫌なら、真人のマネジメントから俺を外すと。


 ずいぶん強硬な言い草だ。

 俺は驚いた。悟とは何様なんだ。

 

 ではご一緒に食事でもいかがですかと、フレンドリーに誘ってみた。

 真人も同席させますので、仕事の話は抜きにして、と。


 またしてもNOだった。

 素っ気なく、お断りしますと一言。

 まあそうかなとは思っていたが、どうなんだこの態度。失礼な奴だ。


 俺は、上司であるαクラスの頭脳ブレインの真琴さんに、行政地区アドミニストレーションセクションに行ったことがあるか訊いてみた。

 真琴さんは「なぜそんなことを訊くの?」と不思議そうだったが「あたしは行ったことないわね。αクラスでもごく限られた人しか行かないんじゃないかしら」と答えてくれた。


 じゃあ、行政の人に直接会ったことはありますかと訊くと、真琴さんはしばらく考えて言った。

 「んー…そう言えばないわ。考えたこともなかったけど、言われてみたら不思議ね。

 毎日のようにやり取りしているのに、電子媒体を通してだけの関係なんてねぇ。

 成人式の時に中央の人が来たんだけど、その人はあたしたちと直接かかわる仕事はしていない人だったし。施設長の代理みたいな?肩書の人だったわ」


 IDも行政の人間は特別なもので、俺たちのように個人識別のためではない気がする。

 悟とは、行政の人間とは、本当に実在する人物なのか?

 俺の中で疑惑が膨れ上がっていった。


 そして、事件が起こった。

 真人と遠夜のやつが、それぞれとんでもないことをやってくれた。





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