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第2章 7

7.

 

 梁は頷いて、胸ポケットから小さなイヤホン型のヘッドセットを取り出して耳に装着した。

 恭香が「同時通訳にしてもらった方が良いと思います。イヤーカフ着けていない方はこれどうぞ」と言ってワイヤレスイヤホンをいくつか差し出した。


 啓司が準備良いなあ…と感心していると「梁さんが来てから、持ち歩いてるの」と微笑む。

 皆がブルートゥースのネットワークで繋がって広東語に設定すると、梁は話し出した。


 「最初に申し上げておきますが、これはまだ確証のある話ではありません。

 ですから、話半分で聴いて頂いても構いません。

 ただ、先ほど申し上げましたように、他言無用です。

 私は既にコウシュウでは危険思想でブラックリストに載っていますので」

 苦く笑う。


 「私は、地上都市上海で生まれ地下大都市コウシュウに送られて、技術テクニックのαクラスの教育を受けて成人して今に至ります。

 私はもともと建築物に大変興味があり、地下大都市や地上都市群の建造物について研究をしていました。

 ここまでは先日の講演会でも話したのですが、実は先があります。

 時代を追って建造物の研究をしていくうちに、妙なことに気づいたのです」


 ここで一度言葉を切り、タブレット端末を取り出して「誰か端末を持っていますか?」と言う。

 啓司が「あ、俺が…」取り出そうとすると悠美が制した。

 「あたしが皆の脳に直接画像を送る。あまり他の人に見られてはいけないだろうし」と言って梁の隣に移動し、なんだかやけに楽しそうにタブレットを覗き込む。


 皆の頭の中に突然画像が浮かび、図面のようなものが頭の中に広がる。

 貴彦以外の人間が驚いた表情をしていると、『みんな、表情が硬すぎる。なんの密談をしてるかと思われるから。もっと楽しそうに。雑談している感じで』と悠美の声が直接響いてきて、皆慌ててわざとらしい笑顔を作った。


 「これが、地下大都市5都市の基本的な構造です。

 環状に居住地区レジデンスセクション業務地区オフィスセクション医療地区メディカルセクションがあり、それぞれをつなぐ回廊と、真ん中に行政地区アドミニストレーションセクションがあります。

 アリの巣のような上下的な段差はあまりありません。階層はせいぜいが3階で平面に近いですね」

 

 「能力別にランク分けされた人たちは主に居住地区レジデンスセクション業務地区オフィスセクション医療地区メディカルセクションを行き来し、仕事と生活をします。

 行政地区アドミニストレーションセクションには行ったことがない人も多いと思います。

 中央にいる所謂上層部とは大抵は電子メールなどの文字でやり取りするからです」

 

 真人以外の未成年4人はうんうんと頷いている。

 上層部と割と頻繁にやり取りしている啓司でも、行政地区アドミニストレーションセクション

には行ったことがないようだ。

 

 梁はタブレット端末を操作し、別の画像を呼び出す。

 皆の頭の中の画像も切り替わった。

 悠美さんて本当に凄い…皆は思う。


 「続いて、これが地上都市の構造。

 地上都市は現在、世界中に52箇所あります。今建設中、建築計画のあるものを合わせると68箇所になります。

 いまここで見ているのは、初期型それも殆ど黎明期と言っていい東京のものです。

 最初はとても人が少なかったし、使用できる放射能のない安全な土地も少なかったので、敷地の面積が非常にタイトです」


 「人口が増えるにつれ、どんどん高層化していきました。ですが、それもそろそろ限界に近づいているので移住計画が持ち上がっています。

 地上に第3次世界大戦時にまき散らされた放射能はもうほとんどないので、もっと広い敷地にしようということですね。

 ただ、地下大都市トウキョウの食料等も大部分は地上都市東京が賄っているので、地下大都市側が難色を示しているという噂です」


 遠夜は気になって真人をちらっと見た。

 地上都市東京から来た真人は、この話をどう思うだろう。

 移住になったら、両親と離れてしまうことになるかもしれない。

 だが、真人は無表情だった。頭の中の図に集中しているらしい。


 「以上がイントロダクションです。

 ここからが本題」梁は一呼吸おいて、また話し出した。


 「現在、地下大都市で暮らしている人間は150万人とされています。

 ですが、地下大都市の建物の使われ方を見ると、そんなに人間がいるようにはどうも思えない。

 居住地区レジデンスセクションもそうだし、業務地区オフィスセクションも表向き使われていない部分がかなりあるのです」


 先ほどの、地下大都市トウキョウの図面を再び表示させる。

 操作すると、図面のところどころが赤く表示された。

 居住地区レジデンスセクション業務地区オフィスセクションにかなりたくさんある。

 全体の3分の1ほどか。


 「しかも、そこはすべて『立ち入り禁止』となっています。シールドのようなものが張ってあって、容易に立ち入ることはできません。

 しかし調べてみると、その立ち入り禁止区域の中には、使われている形跡のある場所もある。

 いったい何に使われているのか?

 恐らく中央の上層部しか知らないのではないかと思います」

 

 「地下大都市コウシュウには特殊能力のクラスは、λ(ラムダ)までありますが、実際に機能しているのはどうもせいぜいγ(ガンマ)δ(デルタ)くらいまでのようです。

 αクラスでも、その中で細かくランク分けされますから総数は判りにくいとは思うのですが、確かに150万人もの特殊能力者がいれば、λ(ラムダ)くらいまで必要かなとは思います」


 「皆さんにお訊きしたいのですが。

 ここトウキョウではいかがですか?乳幼児を含めてもそんなにたくさんの人が働いていると思いますか?」


 皆は顔を見合わせた。

 正直、考えたこともなかった。

 でも言われてみればΘ(シータ)クラスとかι(イオタ)クラスの人には会ったことがない気がする。

 

 梁の話が建造物から離れていくことに、皆は少し不安を覚え始めた。

 この話はどこへ行く?


 梁は淡々と話し続ける。

 

 

 

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