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第2章 4

4.


 その日の夕方、それぞれに一日の仕事をこなして3人は啓司の部屋に集合した。

 啓司は判りやすいように紙媒体に結果をプリントアウトして準備していた。

 隆一と悠美は各々細かいコメントを付けている。

 それを見ながら、3人で話し合う。


 「…すごいな。頭脳ブレインのαクラスに食い込んだか。

 本当に今まで判らなかったのか?」貴彦が呟く。

 「本人の話では、真面目にやったことがなかったんだと。

 なんだか判らないけど嫌悪感があってってさ」

 啓司は面白くなさそうに言う。

 「赤ん坊のころからか?…」貴彦は納得しかねるというように疑問を呈する。


 遠夜も紙を見ながら不審に思った。

 遠夜には産道を通った記憶もあるし、初めて沐浴してくれた看護師の顔も覚えている。

 ただ、なぜか母親の顔の記憶がない。父親も。

 

 地上都市で誕生した子どもはすべて生まれてすぐに検査される。

 遠夜もなにか機械を当てられたような記憶がかすかにある。

 そんなころに嫌悪感があって真面目に受けなかったとでもいうのだろうか。


 「まあ、稀に時間が経って初めて判明するっていうこともないわけじゃない。

 時間が経ちすぎている感はあるが…」啓司は髪をかきあげながら言う。

 「でも結局『特殊な形のギフテッドチャイルド』というのも証明されなかったろう?

 なんだか嫌な感じだな…」

 貴彦はテーブルをコツコツと指で叩いた。


 「精神サイキックの能力はクラスがつかないほど低いみたいだ。

 精神感応テレパシーがあるかな。

 遠夜みたいにパワーのあるPKはないみたいだし、小会議室で大丈夫だったんだね。

 誰かのお陰でいつも嵐が巻き起こることを想定しなきゃならないからねえ」

 貴彦はため息をついて言う。


 「簡易精神鑑定の結果は…異常なしか。ま、そうだろうね。

 家庭環境にかなり問題があったみたいだし」

 悠美がつけたコメントには『極度の人間不信。自己肯定感が非常に低い。母親の影響の可能性大』とあった。


 「とりあえずは頭脳ブレインでの教育と、精神サイキックでの訓練だな。

 プログラムはそれぞれのセクションで考えて実行してくれるから、俺たちはまあ…

 『Operation Tomodachi』とでも命名するか」

 「『友達作戦』?」貴彦と遠夜が同時に言って、顔を見合わせる。

 昔どこかで聞いた?


 「真人と友達になるのは骨が折れそうだな~」遠夜が思わずつぶやくと「お前が言うな」と二人からにらまれた。

 ははは…すみません。遠夜は頬をかいた。


 「明日の朝食から一緒に食うか。真人のマネジメントも担当することになったから、遠夜はあんまり世話かけてくれるなよ」啓司が遠夜を見据えて言う。

 「ちゃんとやってるじゃん!」抗議すると「ああ。続けてくれたまえ」と偉そうに言う。

 あ、でもちゃんとやってるって認めてくれた。遠夜は目を丸くする。


 「真人のIDは…と」呟いて、啓司がウェアラブル端末に打ち込んでショートメッセージを送る。

 しばらくして返事が来た。

 『ありがとう、行きます』と文字が浮かび上がり、三人は驚きつつ思わず拍手した。

 「おお~悠美マジックさすが!」遠夜が言うと「目の前で見ちゃったな。凄いよな~」と啓司も頷く。

 

 貴彦は胸のあたりが熱くなるような気がした。

 ほんと、すごい人だ。俺のあこがれの人だ。


 その時、遠夜のウェアラブル端末にショートメッセージの着信を知らせるアラームが鳴った。

 展開すると恭香からで『ショートメッセージでは足りないので、電話番号教えてください』と文字が浮かび上がった。

 

 「あ、朝の件か。電話するならここ使っていいぞ。俺と貴彦は先に食堂に行ってるから」啓司は立ち上がってキーを遠夜の手の中に落とした。

 「あ、ありがとう」

 遠夜がどぎまぎしながら言うと

 「心配だからって、あんまり長電話するなよ」

 二人は笑って部屋を出て行った。


 遠夜は急いで電話番号を打ち込んで送信した。

 すぐにイヤーカフに電話の着信音が鳴り、遠夜はドキドキしながら通話をONにした。

 「はい、遠夜です」

 『恭香です。ごめんね、今忙しくない?』恭香の可愛らしい声がすぐ耳元から聞こえてくる。

 

 「うん、大丈夫。どうだった?」遠夜は一日中心配していた。

 『コーディネータに今までのこととか全部話したら、チームの責任者も呼んでくれて、3人で話してしばらく私は裕太と同じチームには入らないことになったの』

 「あ、そうなんだ良かった」遠夜は心から安堵した。

 

 『実はチーム内でも私のことを心配する声が上がってたんだって。ここ最近の裕太はおかしいって』

 「曖昧な態度が良くなかったのかな…あ、もちろん、考えがあってのことだったわけだけど」

 『…そうよね。コーディネータさんにも言われたわ。人によってはすごく良い方にばかり考えて、現実とのギャップに苦しむんだって』

 「なるほどね…」

 

 『裕太にも悪いことしたと思って。さっき、裕太がコーディネータに呼ばれて、責任者と一緒に話をしてくれて。その後私も同席させてもらって、裕太のこと曖昧にしててごめんなさいって謝った』

 「えーっ勇気あるなあ」猪突猛進型か。

 『だって、遠夜さんに何か危害を加えるようなことがあったら絶対にダメだと思ったの。私が遠夜さんの名前を迂闊に裕太に教えてしまったから。ごめんなさい、不快だったでしょ」

 「いや、そんなことは…」俺、どさくさに紛れて恭香さんのこと呼び捨てにしちゃったし。

 後で思い出して超赤面した。


 『裕太は泣き出しちゃって、遠夜さんにも謝っておいてくれって。危害を加えるようなことは絶対にしないって約束したから』

 「え、それって裕太の気持ちに応えるってこと?」文脈からいくとそうならない?

 遠夜の心臓が嫌な感じにドキドキしだした。

 『まさか!それはない!私にはあこがれの人がいるし』恭香の声が急に甘やかになった。

 「え、誰?」思わず訊く。貴彦か?


 『梁さん。彼、本当に凄いのよ~!技術者テクニシャンとしてすごく尊敬できる人!セッティングするから、ぜひ会ってね。梁さんも遠夜さんに興味持ったみたいで会って話してみたいって言ってたから』嬉しそうに言う。

 「あ、ああそう…」貴彦は?とか訊くのももう面倒くさいや。


 『あら…もしかして嫌だった?ごめんなさい、私の悪い癖で、自分の好きな人はみんなが好きだと思い込んじゃうの』

 うん、そんな感じはする。遠夜は心の中で思い切り首肯した。

 「嫌ではないけど…良く知らないし。正直、なんで俺?って思う」

 遠夜は疑問に思ったことを言ってみた。一瞬、恭香は言い淀む。


 『あ…それは、逆パターンで。私が遠夜さんと一緒に参加したβクラスの会議で、遠夜さんが鮮やかに解決して見せて、偉そうに訳わかんない議論してる人たちに一泡吹かせた話を梁さんにしたの。

 だってあの時、遠夜さんすごくカッコ良かったから。梁さんにも是非知ってもらいたくて』

 えっ…俺、がカッコいい?マジで?


 再び心臓がバクバクしだす。ああ、俺って単純…

 「そ、そういうことなら、梁さんに会ってもいいかな…」遠夜が言いかけると『ホント?!ありがとう!じゃあまた連絡するね!』と言って『じゃあ、おやすみなさい』と切れた。


 イヤーカフを操作して通話をオフにすると、遠夜はぐったりと椅子に寄りかかった。

 気持ちが上がったり下がったりで疲れた…


 食堂に行くと貴彦と啓司が「ずいぶん遅かったなぁ。話が盛り上がっちゃったか?」とからかうように言ってきた。

 遠夜が会話の内容を包み隠さず話すと、ふたりは顔を見合わせた。

 「そりゃあ…天然で男の気を引くタイプだね…本人悪気ないんだろうけど」

 「裕太が勘違いするのも無理ないな。俺裕太にちょっと同情するわ」


 「遠夜もあんまり深入りしないほうが良いかもね」貴彦が気の毒そうに言う。

 「ああ、いいように振り回されそうな気がするな」啓司も重ねて言った。

 遠夜は椅子に深く座って頷いた。

 俺の手に負える女の子じゃないや…

 

 

 



 

 

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