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第1章  地下大都市トウキョウ 

1.

 

 「ぐぁーっ 終わらねえ…」

 遠夜は目を抑えて呻くと、大きく伸びをした。

 

 「やってられるか、休憩休憩」

 と呟きバックアップを取ると、シャットダウンしてモニタを切る。


 環境プロジェクタ(今時3D!)のスイッチを入れ、コーヒーサーバーに出来上がっているコーヒーをカップにそそぐ。

 コーヒーの馥郁とした香りが広がり、遠夜は目を細めた。


 椅子を引き寄せて部屋の真ん中に陣取り、コーヒーを楽しんでいると、インタフォンが鳴った。

 

 遠夜が面倒そうに立ち上がってドアを開けると、端正な顔立ちの細身の青年が立っていた。

 「やあ、仕事終わった?一緒に夕食どうかなと思って」

 にっこり笑って言う。


 「貴彦…今日は早いんだな~」遠夜は青年を部屋に招き入れ、ソファを勧めてコーヒーを淹れた。

 「もうちょっと手こずる相手かと思ったんだけど…意外と素直だった」貴彦はそう言いながらも疲れたようにため息をついた。


 マグカップを渡すと「良い香りだね」と言って口に含む。

 「君こそ、早く終わったんだね。ドアの外から君の精神状態を窺ったら、ずいぶんリラックスしてたんでインタフォン押したんだけど」


 ホントかよ…遠夜は目を見張る。

 精神波を通さないように分厚くシールドしてあるこのドアを簡単に通す、こいつの能力って…


 首の後ろで緩く髪を束ねている貴彦の耳に着けられた、イヤーカフのような機械。

 強すぎる能力をコントロールするために、貴彦には必要なものだ。

 赤ん坊のころから着けている。


 俺の耳についているものは違う。遠夜は自分の右耳に触った。

 これはコントロールされるために無理矢理つけられたものだから。


 「…遠夜?」貴彦が訝し気に遠夜を見る。

 遠夜ははっとして「いや。まあ、お目付け役が煩いからな」と応じた。


 「まだ来てないんだ?」

 「食堂に行けばいるかも。爺さんみたいに夕食早いから」

 遠夜は肩をすくめて言う。


 「そうでもないよ。食堂で深夜に会うこともある」

 「あいつほどのワーカホリック、地下大都市広しといえども他にいないだろ。

 仕事するために生きてるような奴だし」

 

 「…ずいぶんこき下ろすね。何かあった?」

 「それはこっちが聞きたい。あいつこの頃機嫌悪くてさあ。俺にもめちゃくちゃ仕事押し付けてくんだぜ。まるで俺を部屋から出さないようにしてるみたいに」

 「…ふうん…」

 貴彦は考え込むように言った。


 遠夜は最近の鬱憤を晴らすように言葉を続ける。

 「大体、俺だけ隔離されて仕事させられてんのも気にくわない。

 こんな環境装置一つで、他の人より倍以上働かされるなんて過重労働もいいとこだ」

 

 「遠夜」貴彦が静かに言った。

 遠夜ははっとして貴彦を見る。

 貴彦は、色素の薄い瞳に深い悲しみの色をたたえて言う。

 

 「君は、ここにいる普通の人たちと一緒にオフィスで仕事できないだろ。

 今現在この地下大都市で一番能力が高いんだから人より仕事するのは当たり前だ。

 環境装置だって、君以外誰も支給されてないんだよ」

 

 一度俯いて、また顔を上げて言う。

 「君がそれ以上いうなら、俺はまた君を矯正しなきゃならなくなる。

 今度やったら俺も君もどうなるか…」

 

 「判った!判ってるよ。ちょっと愚痴言っただけ」

 遠夜は慌てて遮った。ホント、融通きかないなあ。


 「融通きかなくて悪かったね」

 「!!」こいつ…

 

 「さ、食堂行こうか。コーヒーご馳走様」

 マグカップを小型の食洗器に入れると、貴彦はにっこり笑って言った。


 貴彦と一緒に部屋を出て広い廊下を歩きながら、遠夜は気分が沈んでいくのを自覚した。

 やべ…まだ仕事終わってなかった。

 あいつにまた怒られるなぁ…

 


 

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