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第十四話 ホントの気持ち

渡瀬視点です。

短いです。


「そんなに私って魅力ないのかな? 幻宗さ~ん。」


 だいぶ暖かくなった三月某日の昼休み。

 私は誰もいない県庁屋上に幻宗さんを呼びだしていた(お借りしまーすって)。古谷課長には聞かせたくないことだってあるもの。


 普通の守護霊だったら、こんなことはできないそうだけど、幻宗さんは古谷課長のそばからある程度自由に動くこともできるらしい。生きていた頃、なにやらすごい修行してたからって聞いてるわ。


 幽霊だから座らなくてもいいんだろうけど並んでベンチに腰かけて、私がこぼした愚痴をひととおり聞いてくれていたのよね。


 私の泣きに、おもむろに幻宗さんは脇に置いた(正しくは空中に浮いた)長刀をスラッと抜き、その切先を天に向けて目を細める。


『いつの世も変わらぬ美しさ、というものはある。』


「その刀のように?」


『そうじゃッ! わかってきたのう、渡瀬殿ッ!!』


 嬉しそうにまた鞘に納めたけど、見せびらかせたいだけなんじゃないの? 

 ほんとにもう!


『だが女子おなごの見た目の美しさとやらは時代とともに変わっておろう?

 儂らの世ではふっくらとした顔を好んだが、今の女子おなごは貧相に見える。

 なにが美しいとされておるのかよくわからん。』


 答えになってないですよぉ。鼻から思い切り吐息噴出。


『だがそもそも色香で男を操ろうなどとは、渡瀬殿の本意ではあるまい?』


「そりゃそうなんですけどねッ!」


 正直、雨守クンをからかっただけなんだけど、彼ったらまるで全然無反応だったんだもの。

 縁ちゃんの手前、欲情を抑えてたって感じでもなく、むしろ一緒になってセクハラだッ、なーんて叫んで私を追い出したりして。


 アレ、どう考えたって隣で今にも泡吹きそうになってた縁ちゃんのこと、心配しての反応よね。

 もう!

 死んだ人のことばかり気遣っちゃって、ほんとに!

 ……家でも『先生』してるんだから。


「私はただ彼に、自分だって生きている人間なんだって、

 自覚して欲しいだけなんですけどねッ!」


『少々、やり方が露骨だったがのう。』


 と言いながらまた笑う~ッ。


「う~ん、そこは反省してるし、

 二度も思いっきり滑ったから自信なくして落ち込んでいるんですってばッ!」


 だってさっき、どのように攻めたのじゃ? なんて聞かれたから、つい雨守クンにしたのと同じ仕草して見せちゃったのよね。そしたら幻宗さん、大爆笑するんだもん。


「でもですね、幻宗さん。

 あの……弟さんの悪口に聞こえたら、申し訳ないんですが……。」


『気にせずとも良いぞ。』


 ほんとに優しい笑顔でそう言ってくれる幻宗さん。普段の怖い顔とのギャップに、親しみを感じてつい甘えてしまう。


「古谷課長は、

 雨守クンの力で腐敗した現場が浄化されることを有難いと感じてますけど。

 彼に仕事を引き受けてもらうことを『お願い』とか言ってますけど。

 そんなの聞こえは良くても、結局雨守クンを利用してるだけじゃないですか?」


『これは厳しいのう。

 あやつは大局を見て己も犠牲にしてきておる。

 だが、渡瀬殿の言わんとすることも、わかる。』


「腐った現場が良くなるのはいいですよ?

 でも私にはなんだか、彼が霊に呼ばれて新しい学校に行くっていうのが、

 本当にあの世に呼ばれてるんじゃないかなって感じちゃって。

 ……とても怖くなるんですよッ!」


 すると幻宗さんは、腕を組んでしばらく目を閉じた。

 そして顔を上げると、遠くを見つめるように目を細めた。


『渡瀬殿は芯が強いだけではのうて、優しき女子おなごよ。

 ……確かに雨守という男は、むしろ儂らに近いようだ。

 生きてはおるから、死人しびとと言えようか。』


「し、しびと?」


 しにん、じゃないわよね?

 聞き慣れない言葉に顔をしかめた私に、少し淋しそうな目を向けて幻宗さんはさらに続ける。


『死を恐れぬ者、命を捨てて生きる者のことよ。

 戦乱の世には、そういう男が大勢おったわ。

 いくさがあるからまだ生きてもいられる。』


いくさがなければ?」


『生きる意味はない。』


「そんな!

 平穏に暮らしたっていいじゃないですかッ? 人間らしく!」


『それができぬのが死人よ。

 むしろ常に死に場所を求めているとも言えよう。』


「そんなの私、絶対認めません! 

 生きることだって戦いじゃないですか!!」


 段々感情が高まって、気がついたら立ち上がって幻宗さんに向かって叫んでた。幻宗さんは微動だにもせず、私を見つめてる。


『……一度死んで、その意味も骨身に染みてわかったわ。』

 

 ふっと軽く笑うと、いきなり私の前に立ち上がった。そしてぎょろりとした大きな瞳で私を見下ろす。


『渡瀬殿の危惧するところは外れてはおらぬ。

 霊と接することが多くなればなるほど、全てを飲み込む【闇】も近づく。

 雨守という男が、それに飲み込まれぬようにせねばのう。』


 ちょっと何を言い出してるのかよくわからないけど、私の言ったことを受け止めてはくれたのね、幻宗さん!


『渡瀬殿は疎まれようとも、雨守という男を見放す気はないのであろう?』


「勿論です! わかっていただけますかッ?」


『おう! 

 わしは渡瀬殿が好きだからのうッ!!

 その渡瀬殿が惚れた男なれば、なおのことじゃッ!!』


「さっ、叫ばないで下さいよ~ッ!!」


 真っ赤になって止めるけど、私、幻宗さんには否定できないのよね、ホントの気持ちを。

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