周囲
あの試合から1ヶ月近く経った。
中学の夏休みも終わり、平常授業が始まった。
やはり全国ベスト8ということで俺は学年問わず賞賛された。
隣のクラスにバッテリーの相方の寺戸もいるが多分同じ感じだろう。
でも おめでとう や すげぇな! とか言われる度にやはりあの最後の一球が思い出されていい思いはしなかった。
だから返事も適当にながして終わっていた。
学校が始まって1週間ほどした土曜日に京都五条河原ボーイズの卒団式があった。
3年生16人とコーチ陣と飯食って、どんちゃん騒ぎのオンパレード、まぁそりゃそうなるか。
その次の日の日曜日にある転機が訪れた。
ジリリリリリリリリ!!
「んあ?あぁいつもの朝練のアレで目覚ましかけちまってたのか……」
急いで目覚ましをとめる
「んーと…まだ7時やんけ。…昼まで寝るか昨日の騒ぎで疲れたし…」
そして二度寝についた…
ピンポーン!ピンポーン!
インターホンで俺は目を覚ました。
「んん?誰だ?てかいま何時…うぉ!4時半!?どんだけ寝てたんや」
ピンポーン!
「まぁオカンが出るやろ…」
ピンポーン
「そーいやオカン今日夕方からオトンと出かける言うてたな。チクショー俺が出んのかよ。」
階段を駆け降りて玄関の引き戸を開ける。
ガラガラガラガラガラガラ
「誰ですかっ…てお前かい」
そこに立っていたのは隣のクラスで俺とバッテリーを組んでいた相棒 寺戸銀太郎 だった (愛称は ギン)
ギン「うすシバ!」
俺「ギン何しにきてんお前。」
ギン「いやよぉ暇でさぁLINEしたのにお前返さんし来たったわ。」
俺「今まで寝ててんしゃーない。まぁとりあえず俺の部屋来いや」
ギン「オカンとかは?」
俺「出かけとる。オトンと」
ギン「なら下ネタ叫んでもええんやな。お邪魔しまぁす」
俺「叫んだら帰らすしな。」
ギン「うぃ」
そんなこといいながら俺の部屋へ入った。
そっからはプロスピしたりウイイレしたりして過ごした。
コイツが家に遊びに来るのはよくあること。
家も歩いて5分くらいのとこにあるし。
でも今日のコイツはただ遊びに来るだけのテンションじゃなかったのに俺は気づいていた。
一旦ゲームを終えて休憩していたところ。
ギンがいきなり喋り出した。
ギン「はぁ学校めんどくせぇなぁ 勉強なんてしたくねぇーつーの」
いつものコイツはこんなこと言わない。アホみたいなことしか言わないヤツだ。
不自然…でしかない…
俺「そーだなぁ」
怖いし適当に返しといた。
ギン「でもまぁ俺らは推薦あるしなそんな真剣にやらんくても大丈夫か。」
ん?何か言い出したぞ
ギン「お前どこの高校の推薦受けんの?お前やったら全国的に選択肢があるやろ?」
これが聞きたかったのか。俺がひた隠しにしていたこと。
進路のこと。
確かに昨日の卒団式の時に監督とも話をした。
まぁ俺も一応全国ベスト8のボーイズのエースだった男だ、北は青森 南は熊本まで色々な高校から推薦の申し出が来ているらしい。
でももちろん俺は断った。監督にもはっきり言った。
野球とは離れるって。
監督もコーチも反対した。そりゃそうだ自ら可能性を潰してしまうんだから、でも俺の野球への恐怖は消えなかった。
結局監督らも俺の意見を尊重するってことで反対しなくなった。
そしてこの話はギンはもちろんチームメイトは誰も知らない。
しかし今はもう言わなければならない時だ。
俺「いやーあんなー。」
ギン「ん?なんや?」
俺「俺もう野球せえへんつもりやねん。」
ギン「……はぁ!? 何言っとんねん!嘘やろ?」
俺「ガチやわすまんけど」
ギン「何でやねん!なんのあれ、メリットもないやんけ!」
俺「メリットとかやなくって普通にもうな、ええかなって思って。親にももう言うてるし。監督にもな」
ギン「おま…まさか……まだあの暴投のこと引きずってんちゃうやろな?」
俺「……ちゃうちゃう」
ギン「うそつけ、誤魔化せへんぞ! …なんや情けない奴やな。お前そんな奴やったか? いつも暴投とかしてもヘラヘラしとったやないか!」
俺「うっさいな!お前に何がわかんねんこら!!」
ギン「分からんわ!そんな弱虫のことなんてな!」
俺「なんやと!ギンてめぇ!」
ギン「おぉ?なんや!やんのか!?」
俺「ゴラァァ!!」
そっから10分は格闘しただろうか…
2人とも床に倒れこんだ。
ギン「ハァハァハァ もうええわお前。帰るわオレ」
俺「とっとと帰れや!くそ!」
ギン「死ね!!」ガチャリ バタバタバタバタ
ギンはそう言って帰っていった。
なんとも言えない虚しさと悲しさがこみ上げてきた。
そしてもう一人の訪問者が俺の運命を変える。




