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奔るホあン官   作者: イタチコーポレーション
1/3

1、暇な日常

男は、溜息交じりに、緑茶(南丸)を、啜っていた

背後では、エリート候補生と言われていたという

めったにしゃべることのない、気難しそうな顔をした

先輩青目高アオメダカが、軽快に、キーボードを、打ち込む作業に、熱中している

「先輩、巡回行ってきます」

毎度のことながら、先輩は、顔を上げることなく

無作法に、革靴を、鳴り響かせて、挨拶をした

それが、この自称エリートの意思の疎通のようなものであるが、とても、溜息の想像する警察官のイメージとは、かけ離れている


旧割箸(現白川)派出所の巡回ルートは、主に、白川に隔ただれた、場所を、壁に、反対側は、工業団地が、最果てであり、後は、挟むように、御舟町と空上町の境を、廻るのだ

もう、五年ばかり、このルートを、派出所の白い自転車で、廻っているが、実にのどかなものであり

反対側の御舟町のように、暴力団の事務所が、構えているわけでもないし空上町の宗教的なのかただの神秘的な事件なのかは、定かではないが、神隠しが頻発することもない

実に至って平穏そのものである

それこそ、ここにきて、事件らしい事件など一度もなく

悩みは、先輩の態度の悪さと部長のヘビースモーカーぐらいであり

至って、何処にでもある平穏であった

それこそ、恐ろしいほどに


いつもの巡回経路を、溜息は、何事もなく、漕いで進むが

不意に、異変に気が付いた

それは、あまりに平和ボケした溜息には、始めこそ、それがどうして違和感なのか分からなかったが

その違和感の原因が、道路に、しみ込んだ、赤い液だと気が付いたとき

その違和感が、嫌な予感だと、分かる

(なんなんだ)

溜息は、自転車を、下りると、そのまま、その赤い液体を、見た

ちょうど、曲がり角であり

それは、見えない方から流れている

まるで、子供が、いたずらに、色水を、道路に流すように

・・いや、きっと本当に子どもの悪戯だ

そう、溜息は、希望観測的に、そう思い込もうとしたが

酷く生臭いにおいが鼻についたとき、おおよそそれが外れているような気がした

「大丈夫ですよね」

溜息は、それを見て、口から言葉が漏れ、耳に届いたとき

自分が喋ったことに気が付いたが

そんな事はどうでも良かった

目の前に、地面に人が突っ伏していた

曲がり角を、進み、その地面に、何かが居た

いや、倒れている

それは、スカートをはいており

上は、手編みらしいセーターを、着ている

どれも、古ぼけた色をしており、若者ではないことが、分かる

体も小さく、手足も、細い

老人だ

そう、老人、背骨が曲がっている

まるで、ダンゴ虫か、生まれたての雛のようだ

ただ、それと違うのは、それは、首と呼べるものが

何処にも存在せず

今なお、血が、漏れ出している

(頭が無い)

そう溜息の脳裏に浮かんだ言葉が、溜息の最後の記憶の中の言葉である


「目が覚めましたか」

上を見ると、白い

だいたいこういうときの展開は二通りだ

一つは、悪の組織につかまっているか

もう一つは、夢落ちだが

今回は両方とも違うようで

第3の選択肢として、病院の白い壁と言う選択肢を、わすれていることに

天使のような太った顔の看護婦さんの顔を見て、気が付いた

「奥さんは、今、着替えを撮りに戻っています」

太った看護婦さんは、顔だけではなくバランスよく太っているようで

実に健康的に、体を揺さぶりながら、体温計やら、ガーゼ、その他もろもろが、積んであるカートを、弄っている

その白衣には、ネームプレートが、写真つきであるようであるが、反対を向いているのでわからず

ただ

「あの、看護婦さん、僕は、動いても大丈夫なのでしょうか」と、その健康的な山のような背中に聞く

「ええ、大事をとって、あと2、3日は、安静にと先生が・・・あら」

太った看護師鮴山が、振り向いた部屋には、抜け殻のように、開いている、白い上布団だけが残されていおり、その他に生体反応のありそうなものは

机に置かれた、赤い富士(林檎)だけである

「・・・・逃げたな」

看護婦は、おおよそ、体型とは、似つかない、早業で

胸元から、黒いトランシーバーを取り出すと

ナースセンターに、脱獄の趣旨を伝えるのであった


「どう言う事だろうか」

派出所までの道のりを、妻が用意してくれた(何故か)仕事の制服を、着ながら歩くでもなく走るでもなく急いで向かう

どうやらあの後、僕は情けないことに、国に仕える法の人間にもかかわらず

私情を挟み、あまりの恐怖に、思考を、とぎらせてしまったようだ

溜息は、上着に、腕を通した

「急がなくては」

一体どうなったのか

知るべきであろう

溜息は、警察帽を、被り直すといよいよ走り出す

「キィーーーーーーーーーーー」

突如として、音が聞こえた

それが、すれ違いざまに、前に行こうとしていた先輩青目高だと気が付いたのは、警官帽を、後ろ向きに、被っているからに他ならない

「どうしたんですか、運動嫌いの先輩が、電動でも無い自転車に乗るなんて」

先輩と呼ばれた青目高は、靴の音をカツカツと言わせ

溜息に近づくと

靴ではなく、声を鳴らす

「事件だ、第一発見者」

あまり言葉を放さない先輩は

語彙が足りず、その意図を、察することが、難しいことが、多々あるが

今回に限ってそれは

「「お前が犯人だ」」

なのか(or)

「「次の事件が発生した行くぞ」」

見たいな物だろうが、

先輩が、自転車に歩いて行き跨ると、指差す

その方向は、派出所でもなければ、警察署の面でもない

ただ、溜息は何も分からないまま

いきなり漕ぎ出した自転車を、追うのである


「事件現場は、白川荘の202号室

部屋数は、下に101、102、103、104

上に同じく201、202、203、そして、管理人が住む204号室となっています

今回殺害されたのは、先ほど言いました通り202号室の住人唐草 妃美子と思われますが、首の部分から切断されており頭部が見当たらないためDNA鑑定を、しています

ただ、同居人の駁革マダラガワ 千都セントによると、彼女で間違いないそうです」

上で、刑事の偉いさんであろう人が、給食室のおばさんみたいな恰好をして、一人、鑑識の人から

口伝えで、現場の状況を、階段の踊り場で、している

酷くさびれたアパートであり、階段のペンキは錆び、誰かが降りたり登ったりするたびに、音を鳴らす

「先輩、どうしてここに」

「・・(馬鹿、それくらい自分で考えろ)」

先輩は、そんな目をして、溜息を、お決まりのしかめっ面で、睨んだが

後輩の腕を引きながら、僅かに口を動かし

「刑事が、お前に、いくつか質問したいらしい」

そう言って、刑事らしい、人の方へと押しやると

後は一人でやれと顎でしゃくる

さすが先輩だ、刑事と言えども、自分より下だと思っている

などと詰まらない事が頭をよぎるも

階段の錆びた手すりに、手をついている刑事の前に近づいたころには、そんな考えをする余裕は、溜息にはなく、ただ、妻が持ってきた、制服の袖を、強く握りしめた

ただでさえ、音のなるその階段に、溜息が足を踏み入れると

それは、破壊しかねないうるさい音を、立てて、まだ、鑑識の人と喋っているでっぷりと太った刑事らしき人物を、振り返らせた

「・・・君か」

刑事らしき人物は、登って来た、若い警官を、見ると、納得したように、頷き

声をかけた

「はっ・・はい、白川派出所勤務のきっ・・き・・・」

名前を、言おうとする溜息を手で制して、刑事は、脂で、てかったような

大凡おおよそ一般人ではない、危ない職業者のような嫌な笑顔をして、下から見上げる溜息を見下ろす

「そんな事は、どうでも良い、ところで君に聞きたい事は、三つある」

刑事は、かりんとうのような太い指を、真ん中から三本出す

残りの親指と小指は、何とか後ろに折り曲げられ隠れていた

「一つ、君は、犯人を見たのかね」

溜息は、記憶を探るが、混乱しているのか、上手くは、思い出せない、と言うよりも

そんな記憶はない、だから、首を横に振る

「二つ、君は、犯人に襲われたかい」

溜息にすぐさま、質問する、いつの間にか薬指が、奥に隠れている

「いいえ、ただ、恥ずかしながら、死体を見たとき、驚きで、記憶がそこまでしか」

頷く刑事、また指が折り曲げられている、今度は中指だ

「三つ、君は早く、仕事に戻るべきだ、こうした今も、犯人が、誰かを襲うかもしれない

そうだろ」

最後だけ、毛色が違うが、そんな事を、思うが早いか

刑事が、今度は、指を折り曲げず

人差し指を突き立てて、アパートに面した、道路に、指示し、叫ぶ

「行けぇえーー」

刑事が言うがままに、走り出すが、それを、見るか見ないか、鑑識が、ギシギシなる

階段の音に、負けないように、大声を張りあげて言った

「でもおかしいんですよね」

「おかしい」

指をパーに戻し聞く刑事

「血が、有り得ないでかたをしているんですよ」

「それで、分かることは」

「さあ、私には、さっぱり」

「どうせ、同じなんだから、変わらんだろ」

刑事はそう言うと、めんどくさそうに、走り去る警官をにらむのであった


先輩のもとに、帰ると、先に帰ったのか、その姿は、何処にもなく

急いで、帰りの道を急いで、ようやく靴をカツカツ鳴らす姿を発見する

その姿を見ながら溜息は思った

「刑事なんてろくな奴はいない」

先輩の言っている意味が、始めて分かった帰り道であった



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