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雪女の夫  作者: 小指
1/1

方言は変換ツールなので期待しないでください。

厳密は勘弁してください。

雪女の生態は想像です。

「なは外で頭だば冷やせ」

ぴしゃりと目の前で戸が閉められた。

こんな日に子供を外に放り出すなど正気の沙汰じゃない。

外気の冷たさにセツはブルリと震えた。少しでも体を温めようと

両肩を手で搔き抱く。はあ、と吐く息が白い。

回りは一面の雪で白銀で、空も一面の雲に雪が降っている。

寒くて一分もしないうちに歯がカチカチと音を立て始める。

寒い。このままでは死を連想させる寒さにセツは何とかしようと

周囲を見回す。


火、なんとか体を温めるものを。

小枝はあっても火種になるものがない。でも必死でかき集めた小枝に

濡れた自分の衣服の一部を悴んだ手で掴み歯で噛み切る。

そして火打ちでもない石で火が出ろと

石と石をぶつけるが当然、火の子など出るはずもない。


だんだん寒さに眠さを覚えて目が閉じ始める。

そんなセツの耳に場違いなほど明るい子供の歌声が聞こえてくる。


ゆーきやこんこん―――

あられや…―――


「あいーこの人、わの事が見えてらみて。きゃー、きゃーまなぐずきやしいきゃー(めずらしいねー)」

白い着物に金魚の柄、黒髪のおかっぱ頭がぼんやりとした視界に写る

「だば、このままだどこの人の子、寒ぐて死んだばうし」

「直接触ってはまいねし(駄目よ)」

白い小さな手がセツに触れようとすると別の場所から止める声が聞こえる。

「もうなはまなぐば閉じまれ。そして忘れて誰サもわンどのごどば言ってはまいねし

(もうお前は目を閉じなさい。そして忘れて誰にも私達のことを言ってはだめよ)」

子供よりは大きなそれでも細やかな女の手がセツの前に翳される。

そうすると、スウッと抗いがたい眠気が襲って意識を失った。




「もうあれから5年か」

セツは廊下を拭く雑巾の手を止めずに振り出してきた雪に空を仰ぐ。

昔、雪んこに助けられた。セツは曖昧ではあるがその記憶が残っている。

次の日、目が覚めて体に巻かれた獣の皮に入れられた小さなかまくら。

あれは雪んこの仕業以外に考えられなかった。

昔からなにやらおかしなものを見る孤児であったセツは厄介がられて

ある日嫌がらせに雪が降る真冬の外に放り出された。

死も覚悟する寒い日に姿を消して、明くる日しもやけ一つない体で

戻ってきたセツの姿を見つけた家人は驚いて、時間が経つとともに

不気味がってセツを知り合いの寺に押し付けて帰ってしまった。

そこから縁あって今の奉公先を見つけて、そこで下働きをしている。

「はあ」

今でも冬の寒い日に、空から雪の小さな結晶が降ってくるのを見ると

およそ人ではありえない精巧な人形のように愛らしい雪んこの顔が浮かんでくる。

セツに触れようとした小さな白い手。血の気を感じさせない白い手だった。

見たこともないかわいらしい顔で、セツが自分を見ていると喜んで笑っていた。

長いまつげに唯一色づいた唇。

「忘れねば、忘れねば」

頭に浮かぶ映像を追い払うように、止めていた手を動かして

廊下の拭き掃除を再開する。








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