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姉がうざい

ヒロインは姉に協力してもらってでも彼を本気で捕獲したい

作者: ロルフ

ヒロイン視点

 私がこの学校に転校してきたのは十二月頭を少し過ぎた頃だった。急に決まった父親の海外転勤に母親もついていくことになって、私は前の学校の近くにアパートでも借りて一人暮らしするから、と言ったのに校内に学生寮が建っているこの学校に転校させられてしまった。両親は過保護すぎなんだよ。


 転校したのはもうすぐ冬休みというすごく中途半端な時期だった。クラスメイトたちは冬休みにどう過ごすかを話し合っていたけど、人見知りな私は既に数ヶ月間を共に過ごし仲が良くなっている彼らの中に入るなんて出来なかった。

 でもそんな時、困っていた私に話しかけてくれた人がいた。


「はじめまして梅桃ゆすらさん。俺は鈴木って言うんだけど、どうぞよろしく?」

「よ、よろしくお願いします!」


 鈴木くんはその時クラス委員だったし、馴染めていなかった私を見かねただけだったのかもしれない。そんな何気ない鈴木くんのその一言。でも私はその一言がすごくすごく嬉しかった。泣きそうだったのバレてないよね?


 冬休み、実家に帰れなかった私を生徒会に誘ってくれたのも鈴木くんだった。彼は生徒会には入っていなかったけど担任が生徒会顧問のさかき先生だったからか、時々手伝っているようだった。

 帰省で学校に残っていたのは極少人数だったけど生徒会の人たちはみんな残っていて私もお手伝いという形で一緒に参加させてもらった。

 そのおかげでこの学校で初めての女の子のお友だちとなる生徒会書記の秋海棠しゅうかいどうさんと仲良くなった。クラスは違うけど寮では同じ部屋になってくれたり、相談に乗ってくれたりと今ではなんでも話せる一番のお友だちだ。彼女には双子のお兄さんがいてそちらは鈴木くんと仲がいいらしく時々ちょっとした情報をくれたりする。持つべきものは友だちかな、なんて。

 他にも生徒会長の君子蘭くんしらん先輩や副会長の蒲公英くん、会計の石楠花しゃくなげ先輩とも自然と話せる仲になっていた。


 彼らはこの学校の有名人だから一緒にいれば梅桃さんも人気者になれると思うよ、なんて鈴木くんは言っていたけれど私に気を使ってくれたんだろうな。


 その後にもみんなでクリスマスパーティーや年越しで集まったりして楽しかったっけ。ああ、でも秋海棠さんたちと神社にお参りに行った時は鈴木くんはいなかったんだ。

 そういえば鈴木くんが学校の門の外に遊びに行くのを見たことがない――かもしれない。他の人が外に遊びに誘っても頑なに出かけることを拒んでいたし、それに春休みにも実家に帰っていないようだった。

 それを不思議に思った私はある時、鈴木くんにどうしてか尋ねてみた事がある。


知っている住所いえ に帰ったとしてもそこに実家があるかわからないから」


 と彼に苦笑いでごまかされてしまい、私にはその言葉の意味がよくわからなかった。けど、もしかしたらあまり聞かれたくないことだったのかもしれない。そのことに思い当たって、その時はしばらくへこんでしまった。

 でも、寮で一緒にいられる時間が長なるんじゃないかなってことに気づいてちょっと元気になった。




 二学年に進級して、鈴木くんと同じクラスになって喜んだ私はすぐにそれだけじゃいけないもっと仲良くならなくちゃ、と寮の自室で秋海棠さんに相談していた。


「もういっその事、告白したらどう? 鈴木弟のどこがいいのか全くわかんないけど」

「鈴木くんはとっても優しくて頼りになるんだよ! あっ、いや、でも告白なんてまだ早いと思うんだ。その、もうちょっと仲良くなりたいなー、なんて思ってたり」


 恥ずかし紛れに抱えていたクッションを叩いていた私に秋海棠さんは呆れた視線を送ってきた。


「あれはあんまりおすすめしないけどね。腹の中で何考えてるかわかんないし、性格悪いんじゃないかと私は思ってる」

「そ、そんなことないと思うよ! でもたとえ内心でどんなこと考えてようと気にしないというか、むしろ知りたいというか。全て話し合える関係に私はなりたいんだよね!」

「あー、そんなに覚悟が決まってるんなら。あれ、鈴木姉に聞いてみたら?」

「姉って、鈴木先輩? 生徒会室とかでよく見かけるよね」

「そう、変わった人だけど一応姉だし鈴木弟のことも色々知ってるんじゃない? というか弟の彼女になりたいんです、とか宣言してきたら」

「いや、だからまだそんな早いって。ああ、でも最終的にはそうなりたいというか。うん、でもそうだね、一回話してみようかな。挨拶程度にしか話したことないし」

「変人だから気をつけなさい。下手したら飲み込まれるから」

「え……う、うん」


 秋海棠さんの不穏な言葉になんかちょっと不安になってしまったのだけど、それでも私は鈴木くんのお姉さんである鈴木先輩と話してみることにしたんだ。




「あ、あの! 私は鈴木くんと同じクラスの――」

「あら、あなたがヒロインの梅桃ね!」


 どうしよう、本当に変な人だった――!?


「えっと、はい私が梅桃ですけど」

「うふふ、知ってた」

「そ、そうでしたか。すみません」

「ところで何か用事があったんでしょう。どうせ弟のことでしょう?」


 そうだった、あまりに鈴木先輩のインパクトが大きすぎて相談内容が頭から飛んでしまっていた。

 このまま先輩に相談しても大丈夫なのかと心配になったけど鈴木くんともっと仲良くなるためには今ここで聞くべきなんだ。

 そこで私は先輩にどうすればいいのか尋ねてみたんだけど……。


「そうね、外堀を埋めていくといいわ! 直接好意を伝えても弟は頭が硬いからなかなか認めようとしないでしょうけど、周りが二人はそういう関係なんだと認めた時点で終わりだから」

「えっと……つまり?」

「周囲には付き合っているんだと宣言しなさい。弟には事後承諾で十分よ!」


 それは本当に十分なのかな……? でも周りにそれとなく広めてみるのはアリなのかな?

 よ、よし。何事もチャレンジ精神が大事だよね。


「あの! とりあえず頑張ってみます」

「そう、その意気よ! そうすればあなたが弟にかまけている内に、うふふ……」


 やっぱり変な人なんだなーと突然笑い出した先輩をぼんやり眺めた。

 でも、楽しい人だ。この人とも仲良くなれたらなぁ、なんて。なんたって、み、未来のお義姉さんになる人かもしれな……うあー。


 自分の考えに思わず照れていると鈴木先輩の背後から廊下を走ってくる人影が見えた。


「おい、鈴木! お前また俺が受け持っている教科だけ赤点取りやがったな!」

瑠璃茉莉るりまつり! 近づくんじゃないわよ」

「あぁ? 先生と呼べ、先生と。いいか、今から補習すんぞ。一対一でな」

「嫌ぁ! 何であんたなんかと! いい、梅桃、頑張りなさい。それじゃ」

「おい、待て鈴木!」


 目の前で始まってしまった鈴木先輩と瑠璃茉莉先生の追いかけっこを唖然として見送った私は気づく。



「あぁ~、御礼言い忘れちゃった……」




 もうすぐ夏休みが始まる。とりあえず鈴木くんと休み中でも逢えるように今から何か約束しておかなくちゃね。



終わり

「(あなたがこの世界のヒロインだということは)知ってた」




梅桃は姉に毒されました。

瑠璃茉莉は姉の苦手な人です。つまりそういうことです。ちなみに歴史担当。

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