立春
節分で豆まきをした翌日、高校2年の井野嶽幌は、料理部の部室にいた。
「こんな感じかな…?」
独り言を言いながらも、フライパンで焼いている薄皮をつついている。
そこに、同級生の陽遇琴子がやってきた。
「なんや、幌だけなんかいな」
カララと入ってきたのと同じように、ドアを閉める。
「琴子かい。なにか、挟むものないかな」
「挟むて、何に挟むんや」
「春餅という、中華クレープだね。まあ、フランスのクレープよりもあっさり目なんだ。自分で好きな物をまいて食べるんだ。ほら、旅番組とかで北京ダックを食べる時に包んでくれてるだろ。あれだよ」
「へー」
琴子がそれを聞いて、周りを見回す。
「今日は、北京ダックなんてないからな。代わりに、鳥の唐揚げを学食からもらってきたから、これ巻いて食べようか。テスト前、最後の部活になるだろうし」
「わかぁた」
すでに食べてみることに頭がいっぱいな琴子は、カバンを置くと、すぐに皿の前に座った。