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野球部の寮は、部屋が一人に一部屋ずつ割り当てられ、勉強机やベッドまで用意されていた。野球のための専用の屋内練習場やトレーニング設備もあり、優秀な人材を確保するためのあらゆる設備がそろっていた。俺がなによりうれしかったことは、そんな野球設備ではなく、誰にも邪魔されず、一人になる空間が持てたことだった。
私立光西高校は、関東の新設の私立高校で、野球部が全国クラスになることで生徒数や高校の地名度アップを狙っていた。野球部が甲子園に行くことが、もっとも確実で宣伝効果がある方法だった。俺は甲子園とか野球部を有名にすることに興味はなく、児童養護施設から出る目的を果たした今、適当に練習して三年間を過ごせればそれでよかった。
野球部の練習は、退屈だった。100メータ以上両翼のあるグランドに、50人近い野球部員がたった九つのポジションを目指し、しのぎを削っている。特待生試験すら不要でスカウト入学した選手もいる中で、残りのレギュラー枠はさらに競争が激化する。たとえ運よくレギュラーの座をつかんだとしても、年功序列がいまだ残る野球部で、出る杭になるなんてばかばかしい。金属音がいくどとなく響く中で、俺は外野のフェンス近くまで飛ばされた白球をひとつひとつ拾いながら、時間が早くすぎることだけを考えていた。
「全員集合」
キャプテンの杉本がホームベース付近で叫んでいる。
「全力で走ってこい」
めんどうだったが、拾い集めたボールの入った黄色いカゴを手にもち走ることにした。もちろん全力なんかでは走らない。ゆっくり走ったぐらいがちょうどよかった。
「ポジション練習を始める」
「お願いします」
部員全員が頭をさげ、ポジション場所にちる。練習初日に部員全員のポジションを監督の西条が既に決めていた。各人のデータをもとに、投手、捕手、内野、外野と区分して、決められたポジションの練習をする。じきに、今季のレギュラー枠の18人が固定され、外れれば二軍ということになる。それまでは、全員にチャンスを与えるのが監督の考えらしい。めんどうくさいやり方だ。ポジションごとに競わせていい結果がでるのは、あくまでも実力が拮抗した場合だけだ。実力がなければ、高校三年生に中学を出たての奴が挑んだところでどうなるというのか? 結果がわかっているのにチャンスを与える? ばかばかしい。
俺はブルペンで投げる順番を待っていた。特待生試験の結果、投手としてここにはいるが、やる気はまったくなかった。あの時も本気をだしていたわけではない。八割ほどの力で投げただけなのだが、誰もバットにかすりもしなかった。今は七割ほどで投げている。学校から支給され、初めて専用のグラブを持つことができたが、野球設備同様に新しいだけの備品に、俺は何の愛着もわかなかった。




