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tears  作者: T-99
B side1 神崎 舞~心の日記
12/23

04

 岬くんがそうまでして勝負したかった塚本くんに興味が湧きました。杖を使うようになって人目が気になり、人を少しさけていた自分でしたが、塚本くんがどんな男の子か知りたくなりました。



 昼休みに屋上に歩いて行く塚本くんを見つけて、後を追いかけました。屋上で黄昏て、元気のない塚本くんに声をかけてみました。

 ところが、塚本くんは落ち込んだ様子もなくたんたんとしています。もっと話をしたかったけどチャイムがなって、午後の授業がはじまります。わたしが階段でもたもたしていると、塚本くんがわたしを抱きかかえて階段を降りはじめました。びっくりしました。わたしを軽々と持ち上げてまるで何事もなかったように一階まで連れて行ってくれました。階段をこんなに気持よく降りることができたのはいつ以来だろう。

 塚本くんが「階段は走るなと書いてない」と言った時の顔をみて思わず笑ってしまいました。あんなに自然に笑えたのは、事故にあった後初めてのことでした。



 ゴールデンウィーク最終日に結衣の誕生プレゼントを買いにいきました。このところ結衣が口をきいてくれません。どうしてか理由はわからないけれど……。歩けるようなったとき、自分のことのように喜んでくれたのにどうしてだろう? 気になっています。



 三時に時計台の下で待ち合わせをしました。ケーキのおいしい店も見つけてあるので、そこで食事でもしながら昔のように楽しくおしゃべりしたい。プレゼントは決めています。あの日ママと一緒に買物に出かけて買ったけど渡せなかったもの、ガラスのイルカの置物。イルカの好きな結衣のため、ママと一緒に探した思いでの品です。二年前に渡すことができなかったプレゼントを渡します。きっと結衣も喜んでくれるはずです。前もってお店に予約して支払も済ませてあるので、あとはプレゼントを取りに行くだけです。



 わたしが約束の一時間前にプレゼントをお店にとりにいくと、偶然岬くんに会いました。岬くんは、妹さんと一緒でした。小学二年生で唯ちゃんといって、わたしの妹と漢字は違うけどおなじ名前です。映画をみた帰りで、岬くんが「この前のお詫びになにかおごるよ」と言ってくれました。丁寧に断ると、唯ちゃんが「かわりにごちそうして」と言ったので三人でファーストフードのドリンクを飲むことにしました。三人でおしゃべりしていると時間のたつのも忘れるほどで、携帯をみると約束の20分前でした。岬くんに「ごちそうさま」と告げて時計台に急ぎました。

 今日は偶然が重なります。時計台のそばに塚本くんがいました。わたしが声をかけてもあいかわらず、ほとんどしゃべりません。シャイ? それとも無口なの? わたしは塚本くんともっといろいろ話したかったけど、急いでいるのか、塚本くんはすぐに駅を後にしました。

 約束の三時を過ぎても、四時になっても結衣はあらわれません。さすがに心配になり携帯で連絡をとると「そんな約束してない。あんたに誕生日なんか祝ってほしくない」信じられない結衣の言葉を耳にしました。結衣と昔のように話をしたかったわたしに、結衣がさらにこう告げました。「あんたは姉じゃない、養女のくせに、あんたがいなければママは事故にあって死ぬことはなかった。あんたが殺したの……」。



 後の記憶はありません。気づけば塚本くんがいて、落として割れてしまったプレゼントの入ったカバンを拾ってくれました。塚本くんは黙って家までわたしを送ってくれました。

 わたしはただ、結衣と前のように一緒に楽しくすごしたかっただけ、養女の話は知っていました。わたしが高校生になった時パパとママが話しをしてくれました。子供がほしかったけどなかなか子どもが授からず、養子縁組を結んだこと、その後結衣が生まれたことを話してくれました。「折りをみて結衣にも話す」と言っていました。おそらくパパが、ママやわたしのことが落ち着いてきたので、結衣に話をしたのだと思います。結衣が近頃口をきいてくれない理由もこれでわかりました。もしかして結衣なら、本当の姉と思ってくれると考えていました。でも現実はこんなもの、血のつながっていない姉妹。

 幸せだと思っていたのは、高校生のあのときまでで、一人ぼっち。パパは、かわらないけど本当は結衣と同じで、パパもわたしを恨んでいるのかもしれない。わたしがいなければ、家族三人は幸せだったのかもしれない。涙があふれそうになりました。でも、泣くわけにはいきません。わたしは誓かった。もう泣かないと……。

 涙をおえるため、塚本くんの背中にもたれかかりました。塚本くんの背中はとても暖かく、何も聞かずわたしのわがままを聞いてくれました。






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