03
2度目の高校生活がスタートした時、友達はみんな三年生になっていました。わたしは、教室に一人取り残され、クラスで浮いた存在になっていました。わたしから話しかけてみても、必要なこと以外は誰も話してくれない。気をつかっている? 年上だから話かけづらいだけ? それから何度か話かけたみたもののやっぱり会話は続かない。気づけばひとりぼっちでした。
学校帰りは、土手に座って大霧川を見ます。高校から家まではいいリハビリコースです。パパは、「車で送る」と言ってくれたけど、いい運動になるし、外の空気を吸い、太陽を感じることができる。それが幸せでした。
グラウンドで遊ぶ子供たちが、ボールを取り合う姿を見ていると、教室で興味本位に話している男の子たちのことを思い出しました。はっきり言ったけど、まだどこかすっきりしない。そう思っていると、また声が聞こえてきました。
わたしは、年上だからか除外した? 冗談じゃない、こそこそ話をするなんて許せない。見るとやっぱり同じクラスのあの二人でした。一人はクラスのお調子者、もう一人は、高橋さんよりも大きな男の子。今度は逃がさない。わたしは土手の階段を登り、間に入って二人を睨みつけました。そこに知らない男の子がもう一人現れました。
誰だろう? わたしを無視して、お調子者のにやけた顔を見ていたら、待たされているこっちがバカに思えてきました。二人の会話を待つ必要もないのに……。わたしは、家に帰ることにしました。せっかくの気分が台無しです。とにかくもうかかわるのはやめよう。わたしが損をするだけ。
その時、また嫌な言葉を耳にしました。杖をついた彼女じゃカッコつかない? 聞きたくない声が聞こえました。わたしのこと? 好きでこうなったと思っているの? あんたの彼女なんてこっちからお断り。何か言わないと、わたしが振り向くと大きな男の子が立っていました。男の子は何を思ったのか、お調子者と自転車の男の子のところに行き、いきなり言い争いを始めました。理解できないわたしをよそに、三人がグランドに降りていきます。わたしは、土手から様子を眺めていました。
大きな男の子は、びっくりするぐらい速い球をなげました。子供たちが騒いでいるのもわかります。あんな球、見たことありません。わたしは、応援しました。ひどいことを言った奴をやっつけてほしかった。
でも、わたしの願いは届きませんでした。ボールは大霧川の真ん中に落ちていきました。投げていた男の子を見ていると、バットをもったまま、あいつが階段を登ってきます。わたしにひどいことを言い、ボールを打ち返し、さぞ気分がいいのでしょう。わたしは、負けません。今度はこっちが言う番です。
ところが、意外な言葉が返ってきました。「ごめん」と男の子が言ったのです。名前は岬俊彦、藤崎学園の一年生で野球部に所属しているそうです。ひどいことを言ったのは、あの大きな男の子、塚本くんをわざと怒らせて彼の球を打ちたかったからだと言いました。岬くんは、わたしに掌をみせました。掌は何度もまめがつぶれ皮がむけていて、わたしの杖を突いている掌も硬いけど何十倍も硬いものに見えました。塚本くんはすごいピッチャーで彼の球を打ちたいがために、あえて藤崎学園に入学したそうです。選抜試験で塚本くんの投げる球をみて打ちたくて、手の皮がむけるほど努力してもまだ打ち込めないと悔しがっていました。
「ひどいこといってごめん」と何度も岬くんはわたしに謝りました。