表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/17

第9話:金よりパンを信じなさい。〜インチキ名医を「愛の耳栓(きこえーる君)」で解体(わから)せます〜

【 1. 闇に動く「鴉」:シルバーランドの焦燥 】


 シルバーランド軍作戦本部。

バルカス将軍は、影からもたらされた「オトハ一行、連合王国へ」の報に戦慄していた。


「……あの娘を連合王国に奪われるなど、あってはならん。あの技術は、大国の軍事力を圧倒する力だ」


 将軍は、闇に潜む隠密部隊『からす』に密命を下す。

 

「連合王国に潜伏させている部下と合流しろ。オトハを監視し、もし連合王国が彼女を囲い込む動きを見せれば、強引にでも連れ戻せ。……あの娘は、我が国の至宝だ」


 将軍の言葉が終わると返事もなく、部隊の気配は本部から消えていった。


【 2. 屋根裏部屋のリリア:安宿の奇跡 】


 一方、連合王国。

首都ダブリンは、世界の取引のほぼ半分がこの地でおこなわれる大都市。


 シルバーランドで買えないものでも、ここでは全てがそろう。

この地を初めて訪れ、お上りさんとなったオトハとキキョウ。


 ガジェットに紹介された商業ギルドで宿の手配をしたのだが、

手違いで貴族用の宿ではなく、隣の安宿へ案内されてしまった。


 オトハにとって、第八寮と比べれば、どんな安宿でも天国だ。 

オトハが喜んで、部屋に入っていくと少女が一人で掃除をしていた。


「あ、すみません。すぐに終わらせますので」


「ありがとうございます。でも1人では大変じゃない?」


「いえ、慣れていますので」


 少女はオトハよりも背が小さい。10歳ぐらいだろうか。

部屋の家具の誇りを払い、床をまんべんなく掃き清めていく。


 本当に3分ぐらいで掃除が終わり、少女は次の部屋の掃除に向かった。

まだ小さな娘だが、掃除は完璧なまでに行き届いている。

 

「リリア!早くしなさい。次の部屋もお客様が到着しますよ。

遅れたりしたら、今日も夕飯抜きですよ」


「はい、わかりました」


 この世界では10歳ぐらいの少女が働くのは普通の事だ。

だが、さすがに夕飯抜きは可愛そうだ。


 その日の夜から、オトハが何かをゴソゴソ作り始めた。

そして王宮へ行く前日の夜、それは完成した。


「じゃーーーん、『すいとーるくん』が完成しました。

ほら、リリア。使ってみて」


「え、オトハさん、これは何ですか?」


「いいからいいから。ここを押して魔力を込めてみて」


 赤く腫れた手で箒を動かすリリア。

その手に取ったのは、小さな掃除機だった。


 ガガガーーー。

小さな音を立てながら、ホコリを吸い取り始めた掃除機・すいとーるくん。


 その日からリリアの仕事は半分の時間で終了。

余った時間を使って、リリアの好きな勉強ができるようになった。


「リリア、それからこの本もあげるわ」


「え?いいんですか?こんな高価な「魔道具」の本だなんて」


「いいのいいの、アタシのお古だから、落書きがあるけど面白いわよ」


 本を開くとびっしりと、オトハのメモが書かれている。

しかも、本文よりも分かりやすく、丁寧に解説されていた。


 ……余談だが。


 三年後、連合王国から一人の天才魔導士リリアが生まれる。

その知識は、このオトハの本が源となった。


 彼女は、絶対的知識と勇気で、後に英雄として世界を救うことになるのだ。


 リリアの話はまた別の物語で。



【 3. 王宮の謁見:偽の名医と金の延べ棒 】


 翌日。王宮へ向かったオトハとキキョウ。

二人を待っていたのは、貴族特有の階級差別だった。


 朝早くから待合室で待たされ、後から金持ちそうな医師の一団が現れると、やっと謁見の間に通された。


 医師の一団は、謁見の間に入るや否や、うやうやしくアピールした。


「我々こそが、王子に薬をお送りしたシルバーランド王立医師大学の教授です。本日は王子の耳を治しにに参上いたしました」


 大臣は名前と身なりから、彼らこそが王子の恩人であると判断し、国王の前に招き入れた。


「そなたたちが王子を救った名医か。これは僅かだが報酬だ」


 台車で運ばれてくる5本の金の延べ棒。


「では、皇子を頼む」


 医師は王に一礼すると、助手たちから魔道具を受け取り、診察を始める。

しかし一時間後、彼は神妙な顔で王の前に膝まづいた。


「世界中の名医でも、治療は難しゅうございます」


「やはり、そなた達でも無理であったか」


 がっかりする国王夫妻。

 医師たちは、従者に延べ棒をカバンに詰めさせると、部屋を出ていった。


 その場に残された、みすぼらしい身なりのオトハとキキョウ。


「……そちらの卑しい者たちは何者だ?」


 大臣が応接係に尋ねた。


「この者たちも、シルバーランドから来たと申します」


「は、金が欲しくて来たのか? 手土産でも持たせて帰らせよ」


 国王の落胆を横目に、大臣の罵倒が飛ぶ。

キキョウが怒りで杖を握りしめるが、隣のオトハは話を聞いていなかった。


 謁見の間に入って以来、国王の背後にある巨大な柱時計に目が釘付けとなっていたのだ。


「……と、とけーだぁぁぁ……! あの中身どうなってるの……? 動力は? 重りは……!?」


 キキョウがオトハの手を引いて、退室しようとするが、ピクリとも動かない。


「手遅れだ。インチキ医師と一緒に退室すべきだった」


 キキョウは天を仰いた。


 国王夫妻がオトハの異常行動に気が付いて、不思議そうな顔をしている。


その横では、王子らしき男の子が、キキョウの方ばかりをチラチラと見続けていた。



【 4. 毒味と真実:みなぎる魔力 】


 「ほ、ほら、オトハ。ちゃんとしなさい」


 キキョウに声をかけられ、我に戻ったオトハ。

カバンを取り出し、ごそごそし始め、こともあろうか国王たちに声をかけてしまった。


「あ、あなたがカイル王子ね。パンを持ってきましたよ。……今回はね、ちょっと変わった味にしたの」


 大臣がオトハの前に立ちふさがり「毒味を!」と叫ぶ。

メイドが恐る恐る一口食べる。


 すると――。


「……おいしーーーーーーい!!」


「な、何を馬鹿な……」


 大臣がパンを小さくちぎり、口に運ぶ。


「う、美味い! それに、魔力が、力がみなぎってくるぞ!」


 大臣まで完食し、王子カイルも奪い取るようにパンを頬張る。


「……カイル。お前が元気になったのは、このパンのおかげだったのか」


 国王の表情が変わり、改めて二人にお礼をしたいと言い始めた。

慌てて御礼の品を取りに動き出す、執事とメイドたち。


 その間、カイルは一気にパンを二つも平らげた。



【 5. きこえーる君:初恋の女神 】


「あ、そうだ。忘れてたわ」


 オトハが、またカバンをガサガサしはじめた。


「あったーーーー! じゃーん、これはね、『きこえーる君』!」


 オトハがカバンから取り出したのは、奇妙な形の小さなイヤホンだった。

マイクとスピーカーを作った時にヒントを得て、昨日の夜、作ったものだ。


 オトハは近衛兵すら反応できないスピードでカイルに肉薄し、その耳に無理やり『きこえーる君』を装着した。


 カイル王子を救った恩人の意外な行動に、一瞬、部屋中に緊張が立ち込める。


「不敬である! 兵士たち、その娘を捕らえろ!」


 バラバラと現れる近衛兵団。

 拘束されるオトハ。


 キキョウは「やれやれ」といった顔で杖を構える。

 彼女の構えは、大国の屈強な兵士たちを前に、余裕すら感じられる。


 (この娘、ただ者ではない)

 その場にいた戦士長の目が光った。


 不穏な空気に包まれた謁見の間に、慌てて執事長ガジェットが現れた。


「「何事ですか! 下がれ、兵たちよ!」」

「ですが、ガジェット様!」


 混沌とする兵士たちの壁の向こうから、小さな声が聞こえた。


「あああああ……う、うるさいっ!」


 声の主を見るとカイルが耳を押さえて叫んでいた。

 静まり返る謁見の間。


「……カイル、聞こえるの?」


 王妃が震える声で尋ねる。


「……き、こ、え、る……」


王妃は涙を流して息子を抱きしめた。

国王もカイルを抱きしめ、夫婦は子供に何度も話しかけた。


「よろしゅうございました。それでは、ボクたちはこれで」


(これ以上、ここにいるとオトハが何を言い出すか、分からない)


 キキョウは礼の品も求めず、オトハの手を引いて颯爽と立ち去ろうとする。

 その時、カイルが駆け寄った。


「……あ、り、が、と……」


「おめでとうございます、カイル王子様。これからも幾久しく」


 初めて聞く、キキョウの涼やかな声。

それは世界で初めて認識した美しい旋律だった。


「……あ、な、た、な、ま、え……」


「私はキキョウ。この子はオトハです。それでは」


 立ち去る二人の背中を、カイル王子はいつまでも、いつまでも見つめていた。


「……き、ききょう……」


 それは、少年にとっての鮮烈な初恋だった。

読んでいただき感謝です!


「魔法力ゼロの少女が、歪んだ愛で世界を解体する」

その軌跡を、ぜひ最後まで見届けてください。ご一読ありがとうございます。


**「面白そう」**と少しでも思っていただけたら、

下の【☆☆☆☆☆】と【ブックマーク】で応援いただけると、執筆の魔力が爆上がりします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ