第6話:歪んだ愛の「炭」が呼ぶ、札束のアタッシュケース。〜「集金ならこのプロ(堕天使)に任せとき!」〜
【 1. 聖女の咆哮:プロトタイプ・ボルケーノ 】
「……な、にこれ、苦っ! 熱っ……っていうか、アッツゥゥゥゥイ!!!」
キキョウの口内で、凝縮されたオーブンの過加熱(炭)が広がった。
特設会場を支配していた絶対零度の空気が、キキョウの体内から悲鳴を上げてひび割れる。
「熱い熱い熱い! 喉が燃えるぅぅぅ!」
のた打ち回るキキョウに、リングサイドのオトハがメガホンで叫んだ。
「キキョウさーん! サクラさんが、『早く魔法を出さないとアンタ自身が内側から焼け死ぬ』って言ってますよー!」
「ふ、ふざけないでよ、あの年増女! わかったわよ、やるわよ!!」
キキョウが天を仰ぎ、喉の奥に溜まった「失敗作」のエネルギーを一気に解き放った。
「極大魔法――『プロトタイプ・ボルケーノ』!!!」
――ドゴォォォォォォン!!!
轟音と共に、学園自慢の結界が紙細工のように突き破られる。
特設会場の空が真っ赤に割れ、そこから巨大な火の岩石が降り注ぐ。
ドシュゥゥゥッ! 地面がひび割れ、
そこから噴き出したのは鮮血のようなドロドロの溶岩。
一瞬で、豪華絢爛だった特設会場は紅蓮の地獄へと塗り替えられた。
「……な、わたくしの秩序が……溶けて……」
会長が絶句する暇もなく、圧倒的な熱波が彼女を飲み込み、そのまま意識を深い闇へと刈り取った。
【 2. 沈黙の計算者:少し静かにしてよ 】
地獄絵図は、なおも加速する。
逃げ場を失った観客たちが、熱風の中で阿鼻叫喚の声を上げる。
「きゃーー!! たすけてーー!!」
「熱い! 溶ける! 誰か止めて!」
悲鳴と絶叫が特設会場を埋め尽くす中、
そのど真ん中でオトハだけは四つん這いになり、
瓦礫の山となった床に、ポケットから取り出したチョークで一心不乱に数式を書き殴っていた。
「……おかしい。サクラさんの魔力が触媒になって、核融合に近いエネルギー効率を実現している?」
ボォォォッ!
真横で溶岩が破裂したが、彼女は微動だにしない。
ただ、チョークを握る手を止め、少しだけ不機嫌そうに顔を上げた。
「……ちょっとぉ、少し静かにしてよ。大事な計算中なんだから」
頭上を飛んでいく火の岩石に向かって小言を吐き捨てると、彼女は再び床にチョークを叩きつけた。
【 3. 堕天使の影、介入す 】
<ヤヨイちゃんも、サクラちゃんもやりすぎやで! ……あ、アンタは天界にいた頃から、いつもこうやったね!>
ヤヨイが呆然と立ち尽くす中、ユヅキが面倒臭そうに立ち上がった。
視線の先では、飛んできた溶岩が頭を直撃し、白目を剥いて倒れている実況のシバ。
<よいしょっと。……この子、少し太ったわね>
ユヅキがシバの体へ、慣れた手つきで潜り込んでいく。
シバの瞳が黄金色に輝き、彼はふらふらと立ち上がった。
<じゃあ、派手にいくでー!>
シバの身体に乗り移ったユヅキが両手をぐるぐると回すと、雨雲が生まれ会場全体を飲み込んでいく。
次の瞬間、バリバリバリッ! と雷鳴が轟き、猛烈な嵐が吹き荒れた。
そして叩きつけるような豪雨が、ボルケーノの猛火を次々と消していった。
<……ご、ごめーん。まさかあんなに出るとは思わなかったのよ>
サクラが気まずそうにユヅキに頭を下げる。
<……謝って済むかい。貸しやからな、サクラちゃん。……この前、神殿周りを焼き払って、堕天使に格下げされた時の教訓、まったく生きてへんやんか。これ、高くつくでー>
ユヅキはぶつぶつ言いながら、シバの体から抜け出した。
もちろん、嵐の中、この神々の鎮火劇を見ている人間は一人もいなかった。
【 4. 伝説級の惨劇のあと 】
嵐が去り、ようやく熱気が引いた後に残ったのは、焦げた大地と立ち上る黒煙だった。
中央には、魔力を使い果たして真っ白になったキキョウと、気絶した会長が倒れている。
ヤヨイは、あまりの光景に開いた口が塞がらない。
まさか、目の前で伝説の魔法が使われるとは思わなかったのだ。
だが、サクラと言えば、天界では知らぬ者がいない魔力の持ち主。
神に逆らい神殿すら焼け野原にした**「破壊の堕天使」**だ。
そんな大物が選んだ人間である。
ヤヨイごときの加護を受けた人間でかなうわけがない。
あらためて、彼女は桁外れなサクラの魔力に身が削られる思いだった。
【 5. 翌日の風景:黄金の興行師 】
翌朝……。
学園の廊下では、特設会場を消し飛ばしたキキョウを恐れ、誰もが怯えた顔で道を譲る。
「……なんでボクだけ、みんなから逃げられなきゃならないの?」
「それもこれも、あの年増女と、魔道具オタクのコンビのせいよ」
キキョウは独り言をつぶやき、ため息が虚しく響いた。
午前の授業が終わると、キキョウのため息の原因・魔道具オタク『オトハ』の第八寮前には、異常なほどの大行列ができていた。
「おい、あの『バトル・デニッシュ』をくれ!」
「炭のやつ! ボルケーノが出る伝説のやつを売ってくれ!」
「あ、あの、並んでください……! オーブンちゃんの予熱がまだなんです……!」
困惑しながらも、嬉しそうにエプロンを締めるオトハ。
その時――。
「はいはい、そこまでや! 下がりなはれ!」
聞き慣れた言葉遣いと共に、派手な扇子を広げたシバが列の先頭に割り込んだ。
その瞳には、昨日ユヅキが乗り移った時と同じ、怪しい黄金の光が宿っている。
「ええか、今日からここは予約制や! 特製『炭ボルケーノ』は限定5個! オークション形式でスタートやで! ほら、金のないヤツは帰りや、時間の無駄やわ!」
「シ、シバさん!? なんだか急に商売っ気が……」
「オトハちゃん、あんたは焼くことだけに集中し! 雑用と集金は、このプロに任せとき!」
シバ(ユヅキ)が鮮やかな手つきで列を整理し、次々と高値でデニッシュを捌いていく。
背後では、サクラが呆れたように鼻を鳴らし、キキョウはため息を漏らし続ける。
そんな混沌とした中、一人の老紳士が第八寮を訪れた。
何かを覚悟した鋭い視線、そして手には札束が入ったアタッシュケース。
「ここに面白い魔道具を作る学生がいると聞いて来たのですが……」
読んでいただき感謝です!
「魔法力ゼロの少女が、歪んだ愛で世界を解体する」
その軌跡を、ぜひ最後まで見届けてください。ご一読ありがとうございます。
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