第51話:猫耳AIリリー起動! ~『灯台下暗し』蘇りの魔法は、焼きたてのデニッシュでした~
「……ねぇ、オトハ。リサさん、まだ部屋から出てこないの?」
キキョウが心配そうに、リサが使っている部屋の扉を見つめた。
「うん。差し入れのパンも、手をつけてくれなくて。
……よほど、カオルくんに裏切られたのがショックだったのですね」
部屋の奥からは、すすり泣く声さえ聞こえない。
ただ、重苦しい沈黙だけが漂っている。
「そのカオルって子だけど、あんな子じゃなかったわよね。
急に羽根も生えてたし。途中から、あの天使に乗っ取られたように見えたわ」
キキョウがサクラへ視線を向けると、サクラは苦々しく腕を組んだ。
< 天使が人間に直接乗り移ることはないわ。
だけど、天使の魔力が強すぎると、人間に影響することがあることは確かね >
「サクラさんが『あり得る』って言ってます」
その言葉を聞いて、キキョウが身を乗り出す。
「じゃあ、その天使を何とかすればいいのね」
< ……さすがにそれは相手が悪いわ、キキョウ。
はっきり言って、人間には無理。危険よ >
サクラが冷たく釘を刺す。オトハがそれを代弁した。
「キキョウさん、サクラさんが『それは危険だ』って言ってます。
なんでも、キキョウさんが見た天使は、天界で三本の指に入る強者で、
人間の手に負える相手じゃないらしいです」
「何か、弱点はないのかしら?」
< 弱点ねぇ。……唯一あるとしたら。
いえ、やめておいた方がいいわ。現実的じゃないわ >
サクラは言葉を濁した。
だが、オトハには別の心当たりがあった。
「もしかしたらですが……」
「なに?オトハ、何か思い当たることがあるの?」
「カオルくんって、サトルくんを知っているみたいでした。
サトルくんに会えば、記憶を取り戻して元に戻るんじゃないでしょうか」
<< ……バタン! >>
「それが本当なら、そのサトルさんを探しに行きましょう!」
「リサさん、やっと出てきてくれましたね」
「師匠、心配をおかけしました。キキョウさんも、ごめんなさい」
「いいのいいの、じゃあ、さっそく準備しましょう!」
「はい師匠、まずはお腹の準備をしてきます」
そういうと、リサは一目散に食堂へ走っていった。
「あの子、食堂の場所、知ってるのかしら?」
キキョウが安心した笑みを浮かべてリサを追った。
ひとり残された部屋で、
オトハが左腕の時計を見ながらサクラに尋ねた。
「サクラさん、サトルくんの『蘇りの魔法』ですが、
ヒントは、アッポーウォッチにヒントがあると思うんです。
確かめる方法はないですか?」
サクラはアッポーウォッチを覗き込み、何かを思い出すように考え込んだ。
< メモ帳かマップと連動してる可能性はあるわね。
……うーん、こんな時にリリーがいれば…… >
「リリーって、誰ですか?」
< 人工知能AIよ。って、いるじゃない、そのウォッチの中に。
確か起動方法は……「リリー、おはよう」よ。
ねぇ、オトハ、時計に向かって「リリー、おはよう」って言ってみて >
オトハは半信半疑で、ウォッチに呼びかけた。
「……リリー、おはよう」
その瞬間、ウォッチから軽快なアニソンが爆音で流れ始めた。
青白い光が収束し、3Dのホログラムが空中に投影される。
現れたのは、フリフリの衣装に身を包んだ、十歳ほどの愛らしい猫耳少女だった。
「おはようだにゃ、ご主人様!
ご、ご主人様、なんだか可愛くなりましたね?」
「えっ、私はオトハだよ」
「あれれ? サトル様じゃないのかにゃ?」
サクラがげんなりとして、頭を抱えた。
< ……まさか、あいつがオタクだとは知っていたけど、
猫耳少女にまで手を出していたなんて。……変態オタクね、サトル。
会わない方がいいかもしれないわ >
「いえ、ダメです! リサさんに元気になってもらいたいんです」
オトハは必死にリリーへ向き直った。
「リリーさん、この世界の『理』について、何か知っていることはありますか?」
「それは、ご主人様からも同じ指示を受けているにゃ!
もちろん、この世界のデータにはアクセス済み、完璧だにゃ。
リリーにできないことはないのにゃ!」
< ほう、さすがに元の世界の人工知能ね。
……じゃあオトハ、「蘇りの魔法」について聞いてみなさい >
「ところで、さっきからご主人様がお話ししているのは、天使さんだにゃ?」
リリーの言葉に、サクラが目を見開いた。
< お前、私(天使)を認識できるの!? >
「当然だにゃ。リリーは完璧だにゃ!」
リリーは胸を張り、猫耳をピコピコと動かした。
「それじゃ、答えるにゃ。蘇りの魔法は……」
固唾を呑んで見守る一行。
「蘇りの魔法は……その前に、リリー、お腹が減ったにゃ!」
「ズコーッ!」
サクラが漫画のようにひっくり返った。
< うわ、このAI、めんどくさい性格してるわね。これもサトルの趣味なの? >
「わかったわ、リリーさん。何が食べたいの?」
「リリー、知識が食べ物だにゃ! 新しい、面白い知識が欲しいにゃ!」
オトハは困り顔で、
自分が作った「魔導オーブン」をリリーの前に差し出した。
「これ……私が作ったオーブンなんですけど、どうかな?」
「なんだにゃ、これ。普通のオーブンじゃないにゃ。
……ちょっと、何か焼いてみてにゃ!」
リリーの目がキラリと光る。サクラが促した。
< オトハ、デニッシュを焼くのよ >
オトハが手際よく生地を入れ、オーブンが温かな光を放つ。
数分後、黄金色のデニッシュが焼き上がった。
「これです、リリーさん」
リリーは鼻をクンクンさせると、信じられないものを見るような顔をした。
「これは……! ご主人様が作ったものと同じ香りがするにゃ!
うん? いや、これは違うにゃ。……エネルギー法則が、デニッシュの表皮で
書き換えられて……意味不明だにゃー!?」
「……こんなので、いいんですか?」
「グーーーッドだにゃ! もっと解析していいかにゃ!?」
「いいですよ。そしたら、蘇りの魔法を教えてくれますか?」
すると、リリーは不思議そうに小首を傾げた。
「えっ? 必要ないにゃ」
「……なんで?」
「だって、今焼いたこれが、蘇りの魔法そのものだにゃ」
「「「………………えっ!?」」」
顔を見合わせるオトハとサクラ。
部屋の隅で、ただのパンを焼いていたはずのオーブンが、
神の理すら超える光を放っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
遂にサトルを復活させる糸口をつかんだオトハ。
次号では、サトルの復活で世界が大騒ぎする物語です。
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