第49話:戦車戦をエンジョイしていたら、いつの間にか二十五万の軍勢に囲まれていた件
「今からここで戦車戦をやりましょう」
「え、レースは?もういいんですか?」
「だって、戦車ですよー。戦わないと損じゃないですか?」
修理をしていたリサが見上げると、
悪そうな顔をしたオトハがこちらを見ている。
「か、カオル様が、私の勝利を……」
「じゃあ、レースが引き分けだったから、
戦って勝負したって事にすればいいじゃないですかー?
ねーーー、だめーーー?やろうよーーー」
お菓子をねだるように、リサに迫ってくるオトハ。
なんて強欲で、わがままな少女だろう。
自分がカオルから聞いているオトハは、戦うと怖い存在だが、
いつもは静かで、黙々と魔道具を整備する少女のはずだ。
だが目の前にいるのは、ただの駄々っ子のオタクだ。
とはいえ、オトハが言うように戦うにしても、
今のマウスの状態では、足回りが限界で動かない。
(そうか!この状態のマウスを叩いて、完全勝利をしたいのね。
なんて強欲で卑怯なんだ。魔道具士の風上にもおけないわ)
リサは、オトハの懇願の真意が分かり、心の中で怒りが湧いてきた。
……だが、そんな予想は簡単に覆される。
「ねぇ、ちょっと、それ、
サスペンションに付与された魔力のバランスが傾いていますよ。
このパーツに組み替え方が、元気に動きます」
オトハが工具箱を、ガサガサして、いくつかのパーツを手渡す。
リサは手渡されたパーツを眺め、しばらくの間、固まった。
渡されたパーツは、効率の極みを超えた、美しいフォルムだけでなく、
羽が生えたかのような軽さだったのだ。
「す、すごい。でも、こんなことをしてアナタに何の得があるんですか?」
「だって、実力が近いスペックで戦う方が、楽しいじゃないですか!」
目の前の少女は、嘘をついていない。
損得がなく、純粋に魔道具を愛する、ただのオタクなのだ。
そう確信するにあたって、リサは笑ってしまった。
「分かりました。やりましょう!」
パーツさえ手に入れば、リサも天才魔道具士である。
あっという間に、マウスは生き返り、前にも増した動きを取り戻した。
「いいわね、いいわね。マウスちゃん、強くなったわね」
「そりゃそうです。私の魔導具です。効率バッチリで最強です」
「それじゃ、お互いに1分間離れて、そこから戦闘開始にしましょう」
「はい、師匠」
「え?」
「なんでもありません」
リサはオトハと出会って分かった。
この人は戦う相手ではなく、高め合う技術者仲間なのだ。
<< ドドーーーン >>
互いの車体から咆哮が放たれる。
戦闘力はほぼ互角。
パワーはオトハのブリットに分があるが、
効率よく発射されるリサのマウスが、次第に押し始めた。
「師匠、その程度ですか?」
「まだまだです。少しだけパワーを増しますよーっ」
◇◆◇◆◇◆
「な、なんだー!あれは?
馬がいないのに、戦車同士が勝手に動いて戦っているぞ」
「あの大砲もデカい、普通の魔導馬戦車の5倍はあるぞ」
いつの間にか、キキョウたちと、シルバーランド軍が
別々の方向からメディーナの前線にたどり着いて、
戦車戦に目が釘付けになっていた。
帝国側からは、世界最強の魔導重騎士隊・ヘルダイバーズを
中心とする正規中央軍・約10万がやってきた。
更にロンドラ方面からも、最強の魔導弓兵隊を中心とする
連合国中央軍約12万が整然と現れる。
シルバーランド軍が3万人。
帝国軍が10万人
VS
ロンドラの連合軍は12万人。
ほぼ互角の戦力が、この場に集結した形となった。
その全ての兵が、オトハとリサの異常な戦車戦を
固唾を飲んで見入っていた。
それぞれ勝利した方が、兵士たちを鼓舞する。
将軍たちも手に汗を握りながら、自軍の代表を応援した。
「みんなー、遅かったねー」
そんな、しんと静まり返る帝国軍営に、学ランの少年が現れた。
見た目は変わらないが、どこか大人びて見える。
そして、小さな体からいつにもまして、魔力があふれ出ている。
その威圧感に周りの兵士たちが圧倒された。
「局長殿、ご無事でしたか」
「あぁ、みんなが来ないから、もう僕たちダメかとおもっちゃったよ」
「お待たせして、申し訳ございませんでした」
「でも、もういいや。僕一人でも大丈夫になったから?」
「いま、なんと?」
「もう、キミたち、必要ないってことだよ。
今から僕一人で、世界をもらうことに決めたんだ」
そういうと、カオルの身体が宙に浮き始めた。
やがて、カオルの身体が紫の光に包まれ、
あたり一面の兵士たちが、はるか後方へ、吹きとばされていく。
<< うわーーー >>
<< 助けてくれー >>
「前方で、何が起こっているんだ?」
隊長らしき男が、背伸びをして前方を見ながら副長に尋ねた。
副長が慌てて、前に走っていき状況を確認する。
「……前方にいた技術開発局長が、空に浮いたかと思うと、
我が軍の中で暴れ始めたようです」
「き、気が狂ったのか……。かまわん局長から始末しろ」
「は、はい」
一斉に帝国軍の魔導士たちが攻撃魔法をカオルに向けた。
火、氷、風、土、あらゆる属性の魔法が彼に集中したが、
全ての攻撃が、不思議な光によって跳ね返された。
「ふははは、これは凄い、まだまだ力がみなぎって来る」
帝国軍が、たった一人の反逆に大混乱になった。
その様子は連合国軍の側からも、はっきりと見える。
「帝国軍は、いったい何をやっているのだ?」
「あ、あれは!」
連合王国軍の大将・ケイン皇太子の横で、
キキョウが双眼鏡を覗き込み、大声をあげた。
「キキョウさん、あの悪魔のような少年を知っているのですか?」
「はい、いちどだけ戦ったことがあります。あれは、カオル」
「カオル?敵の技術開発局長か……。
でもなぜ、彼は帝国軍と戦っているのでしょうか?」
「わかりません。しかし、あれはどうみても無差別攻撃です。
恐らくは、次に攻撃の矛先は我々に向けられるでしょう。彼は危険です! 」
「聖女の君が、それほど恐れるとは……、強いのですか?」
「はい、前に闘った時には、私が完敗しました」
「なんだと、」
「それに、あの強さは
帝国だとか、連合王国とかいう次元のものではありません。
いま、潰しておかないと、世界が滅ぼされます」
「キキョウさん、いくつもりですね。僕、一緒にいきます」
ケインの横からカイル王子が前に出た。
「カイル王子。死ぬかもしれませんよ」
カイルは決心した表情でキキョウにうなづく。
「僕はキキョウさんを守りたい。一緒にいく」
「キキョウはん、ウチもいくで。
ここで見捨てたら、メディーナの恥やし、
シバはんも未来の妻として認めてくれへんわ」
「ミアちゃん……。ありがとう」
「待ちなさい」
「アナタは。。。。法王様がなぜ」
「わがサンブルグでも、不穏な気配が察知されたので
オトハさんが、聖堂に残してくれた、空飛ぶ工房でやってきたのだ。
この聖なる杖を持っていきなさい。そして悪を撃つのです」
「ありがとうございます」
「では、みなさん、行きましょう!
って、あれ?なんでアンタがここにいるの?」
キキョウが虚空を見つめてつぶやいた……。
周りからは巫女であるキキョウが神の神託を受けているように映る。
「おぉ、いま、神の啓示が下っているだ」
そこにはサクラが立っており、キキョウがいくのを止めていた。
もちろん、姿はキキョウにしか見えていない。
サクラは、届かない声でキキョウに訴える。
< アンタひとりじゃ、勝てないわ >
「止めても無駄よ。オトハを頼むわね」
そう言い残すと、一団は帝国軍の中に入っていく。
< ばかオトハ、あんた親友が死ぬ覚悟で戦いに行こうとしている時に、
これ以上、遊んでいる場合じゃないでしょ >
さすがに、サクラがキレ気味にオトハに怒鳴った。
「へ?サクラさん。いつのまに、こんなに人がいるの?
それに、親友が死んじゃうって、サクラさん、どういうこと?」
「師匠、どうしたんですか?まだ戦闘の途中です。
あれ?なんでカオル様、帝国軍の中で暴れているの?」
「リサさん、この対決は延期よ。
とにかく、戦争を止めて、あのカオルって子を捕まえなきゃ」
「カオル様は悪くないんです。きっと誰かがカオル様に
いじわるをしたに違いありません」
遠くで眺める天使たち。
ヤヨイがサクヤに振り向き、意味深な笑顔で訪ねた。
< サクヤさん、この場合、あなたはリサさんを守るのですか?
それともルシフェル様の加護者をまもるのでしょうか? >
< ふふふ、知れたこと。人間などは、いつでも取り換えが効くのです。
それに比べてルシフェル様はかけがえのないお方なのです >
『なんて質問をするの?』とでも言いたげな顔でサクヤが即答した。
< この子、相変わらずのクズやな >
< えぇ、噂にたがわぬクズ天使ですね >
サクヤがリサの加護を解き、カオルとルシフェルの元へ走る。
最後の決戦を前に、神と人間、両側の役者がそろった。
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