クリスマスに乾杯を
シャンシャンシャンと、クリスマスを告げる鈴の音があらゆるところから聴こえてくる。吸い込んだ息が、肺の中をすっかり冷やしてしまい、思わずせき込んだので──
私は冷えたビールで喉を潤した。普通にホットワインにしておくべきだったか。でも、値段的にビールのほうがお得だったしなあ。
「──つまり、俺はあなたのことが好きなんやけど」
「あー、はいはい。ありがと」
呼吸をするかのように、口説き始めた彼は、私の返答が気に食わなかったようで唇をとがらせる。モコッとした髪の毛に、モコッとした防寒着を着ているから、彼はもはや動物の類かもしれない。
「俺の愛の言葉を、右から左に流し過ぎやろ……」
「私がそんなしょーもない愛の囁きを聞き流せるようにしたのは、キミのほうやん」
気まずくなったのか、彼は彼自身のホットワインをぐいっとあおって、そして盛大にむせた。
あーあ。
「だから、やめとけって言ったやん」
「冬に飲まんかったら、1年で飲む機会なくなるし」
「アホなん」
「酒飲みなんてみんなアホや」
「暴論や。新世界の方で、同じこと言ってみいや」
「そこやったら、めっちゃ共感得れるやろ」
毎年のことだった。彼は、ことごとく温められたお酒類に弱い。本人曰く、アルコールに弱いのではなく、揮発したアルコールが喉の粘膜に直接ダメージを与えるせい、だそうだ。
いろんな店が並んでいて、いろんな光が私たちを照らしている。
「それで、何を思って、唐突に私に、今更愛の告白(笑)を?」
「日頃から思ってることを口にしただけや」
「それなら、日頃言えばいいやん」
気まずくなったのか、彼は自身のホットワインをぐいっとあおって、そして盛大にむせた。(二回目)
「ごまかし方ワンパターンすぎるやろ」
「ご、ごまかしてへんし」
「そもそもやけど」
しょーもない茶番を繰り広げようとした、しょーもない男を、私は軽く睨む。
「アルコール入れて囁かれた愛の言葉なんて、軽くみえてもしゃーないやろ」
へたれ。
「うっす……すんません」
見るからに落ち込む彼。
「でも、これはわかってほしいんやけど。ほんまに、あなたのことは好きやし、いつも思ってることやから」
「知ってるよ」
そうじゃなきゃ。
「君のカノジョなんてやってへんわ」
「やだ……俺のカノジョ、可愛すぎ?」
「それ、シラフで次回言ってな」
黙り込む彼。恥ずかしいことを言ってる自覚はあるがゆえの沈黙だろう。
へたれめ。
シャンシャンシャンと、クリスマスを告げる鈴の音色が、私達を包み込んだ。




