ガリガリガリ
掲載日:2025/10/12
カチ、ガリガリガリ
ボールペンに後戻りは許されない。
進むインクは一度乾けば消しゴムなんてうけつけやしない。
真っ黒でまっすぐな軌跡は、
混じり気のない真っ直ぐな思いに重なる。
ガリガリ、ガリガリ、ガリガリガリ
時計は一日のおわりを伝えようとしている。
そんなの男とそのペンにとっては、
関心をひくようなものではない。
窓の外はすでに垂らしたインクのような色。
そんなの男にとっては、
見ようとも思わないカーテンの奥の世界。
今男が見ているのは、
どんなものにだって消すことのできない真っ直ぐな思い。
ガリガリガリ、
ガリガリガリ、
ガリガリ、
、
ふいに手が止まる。
この消えないインクと想いを受け取ってもあの子は、
次の日もその次の日も、
笑顔を向けてくれるだろうか。
カチ、
勇気とペン先が引っ込む。
続きがでてこない。
何も見えない。
止まってしまった。
こんな手紙なんてもう、
こんな恋文なんてもう、
、
あの日向けられた笑顔を思い出す。
あの日救われた笑顔を思い出す。
あの子に笑ってもらえない?
「今の俺なら笑い者だな。」
ボールペンは何も答えない。
ただ静かに続きを待っている。
カチ、ガリガリガリ
ガリガリガリ
この男に後戻りは許されない。




