『偶の勇者』『偶の革命家』
「ここから先がグートレル王国か」
ミアレチョキ共和国と、グートレル王国の国境に1人の男が立っていた。
彼の名前はヤケダ・グント。偶の力の使い手、特徴的な藍色の髪をたなびかせ、たった今国境の壁を越えようとしていた。
「グレン・ディストロ!!」
ドゴォォォォォン!!!
偶の力により、彼の後ろに偶像のような影が現れ、その巨大な岩のような拳で国境の壁を難なく破壊した。
「フ、超気が偶に勝てる訳ないのだ」
こうして、一人の偶の使い手がグートレル王国にやって来た。
「.........」
だが、その偶の使い手を歓迎しない者も居た。
彼の名はまだ不明。使う力も不明。だが、歓迎はしないが敵とも限らない。すなわち正体を知る由も無い。
―――――
ここはグレストルの丘。グートレル王国南の人の住まない丘だ。だからここで人に出会う事は無い。普通であれば。
「やはりミアレチョキには自然が少な過ぎる!グートレルの様に自然豊かな国も良いではないか!!」
優しく風が吹いた。風も賛成のようだ。
「...だがしかし、世の中そうも行かない。ミアレチョキは自然を破壊し、工場や軍事施設を作って来た。おかげでミアレチョキ共和国はジャントピア最強の技術力を誇っている!!」
そう、ミアレチョキ共和国の技術力はジャントピア、いや、世界一と言っても過言では無い力である。これは、超気の力が大きく関わっているが、今はそれはいいでしょう。だがしかし、技術に一切の妥協をしなかった結果、自然は減り、問題の数もジャントピアで頭一つ抜けている。つまり、世の中技術が全てでも無いのだ。
「自然を守るという昔ながらのやり方も良いが、それが良いとは限らない!!この俺ヤケダ・グントはミアレチョキ共和国に行き技術の素晴らしさを知った!!そして俺は決意し帰って来た!!この国をミアレチョキに負けない技術大国にするとな!!
グストレルに、大きく風が吹いた。
フン、いずれこの丘も工場となるだろうな」
彼はミアレチョキ共和国の技術を自国にももたらそうと考える。自国の発展と平和を願って。
「...果たして彼はグートレル王国に良い結果を残せると思えるか?――、――」
そう言って謎の人物はまた彼を追いかけ始めた。
―――――
「今日は何か大きな事が始まりそうだわね」
グートレル王国南東の、スケグルいう場所。そこの貧民街に、ある少女が居た。
彼女の名前はイトレギ・シィグ。彼女も偶の力を持っている。特徴といえば緑のセミロングの髪ぐらい。後は―
「はぁ、早く戦争始まらなかな」
少し危ない思想を持っている事だ。
「ミアレチョキに攻撃したら十中八九で勝てるんだし、レイパーロなんか臆病な猫よ」
大きく腕を広げ仰いだ。
そうもいかないのが世の中です。
「これ、そんな考えは良くないぞ」
貧民街の物知りお爺さんオーク・パロンだ。
「なんでよ、グートレル王国は今物凄く有利なんだよ?それなのに日和ってるから問題が増えるばかりなんだよ」
「そうじゃな、今は戦争が一番良い手と言っても過言では無いやもしれん。だがこの世には邪拳がある」
「邪拳?そんな物有っても無くても変わらないわよ」
「邪拳はの、かつて、偶、超気、波を恐れた人間達が、その3つの力をまとめてそう呼ぶようになったのじゃ。そして、ワシはそれが真実で有ると思うのじゃ」
「...やっぱりアンタの考え方は古いわ」
「これは先人達の教えじゃ。先人の経験が今のこの世界で役に立つじゃろう」
「時代は常に変わるわ。先人の教えなんか一回役に立つか立たないかよ」
「それならそう思っておけ。自分の力だけで乗り超えられるのならな」
「私を誰だと思ってるの?」
すると、大通りを誰かが走って来た。
「おーい!なんかあっちに凄い奴が居るぜ!」
「?何かしら?」
そこには大きな人だかりができていた。そして、その真ん中で、ヤケダ・グントが戦っていた。
「少しぬるいな。これでは相虎にすらならない。俺に勝てるような者は居ないのか?」
その様子を、シィグが眺めていた。
「何アイツ」
蛇の様に目を細めていた。
「あいつはな、数分前にここにやって来てだな、歓迎しない奴らを一瞬で倒しちまったんだ!それで、『俺に勝てる奴が居たらかかって来い、勝てたら仲間にしてやろう』っつって皆んなと戦い始めたんだ。でも誰も勝てないんだ!」
「ふ〜ん」
そう言いながら一歩踏み出た。
「おいシィグ、戦って勝てる相手では無いぞ」
「大丈夫、絶対勝てるから」
そう言い、グントの前に出た。
「一応言っておくが絶対と必ずは違う意味だぞ」
「その時代ももう終わりよ!」
「ぬ、どうやら今日一番の強敵が来たかもな」
「お世辞は古い考えよ!」
「ほう、見るにただの偶の使い手では無いようだな。言うなれば偶の革命家か」
「アンタもそうみたいね!」
こうして戦いが始まった。お互いが岩のように強大な偶像を出した。どちらも相手の出方を伺っている。それだけでも観衆が騒いでいる。
次の瞬間、少女の方が先に仕掛けた。
「フン、全然弱いじゃない」
彼女の力は他の人とは違い、流れるように攻撃し、グントの攻撃を受け流す。
グントの偶像は成す術なく攻撃されている。
「成る程、力は分かった。どうやらこちらの勝ちのようだ」
「古い考えならね!!」
「フ、時代が変わっても邪拳は変わらない!ルェイチョキ・グラファント!!」
偶像が拳をクロスさせ、そのまま拳をハサミの様にかち合わせた。
シィグが何かに挟まれたように拘束された!観衆達には見えなかったが、シィグには見えた。鋭き刃の様な拳が。
「く、...仕方ないわね。降参するわ」
『ウォォォォォ!!!』
大きな歓声が上がった!みなグントを尊敬の目で見ている。
「其方、いや、革命家よ、名前は何という?」
「イトレギ・シィグよ、あんたは?」
「ヤケダ・グントだ。君に提案がある、私と一緒にこの―」
『ジャントピアを変えてみないか』
シィグに拒否権は無かった。勝った方が正義であり勝った方が全てなのだ。だが、これも古い考えといえる。
「...やっぱり、古い考えは変えなきゃダメね―」
『いいわ。ジャントピア、いや、世界を変えて見せるわ!』
「だからあんたもこき使ってやるわよ!偶の勇者!!」
「ああ良いさ、偶の革命家!!」
こうして、偶の勇者と偶の革命家が出会ったのであった。
この出会いが無ければ、世界はとても大きく変わっていたでしょう。出会って無かった世界線も書いてみたいですね。いやーにしてもあの謎の人物は誰なのでしょうかね〜。