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けむりちる  作者: 川進
2/10

今日



ははさま。

餅。

くだされ。

焼いて、

くだされ。


双子は、菜を刻む、美波に、からむ。

ふたりは、太めの鶏に、紐をつけて、

それぞれ、連れている。


美波は、手を止めた。


もうじき、あにさまが、大きな餅を、

背負って、来ますよ。

それまで、辛抱。


大きい餅。

餅。来る。


双子は、目を、輝かせた。

鼻の穴が、ぷくりと、開いた。


今日は、緑の餅だろうか。


正時が、芋の皮をむきながら、

嬉しそうに、言う。


ちちさま。

緑のは。

なりませぬ。

 

双子は、顔を、しかめた。

美波と正時は、息子たちをながめて、

穏やかに、笑った。



旅人たちが、道端に立ち、

畑にいる村人に、道を、尋ねている。


草にまみれた、一体が、林から、

飛び出してきた。

大きく、分厚い、風呂敷包みを、

背負っている。


まいて、やったわ。 


満足気に、にやにやしながら、

わらじを、履き直し始めた。


急に。

林が、ざわめき、

ぶふぉ、と、鳴った。


吐きだすような、その音に続いて、

大きな、灰色の雲が、飛び出した。


それは、いろんな形に、なる。

原型を、とどめていないが、

おそらくは、人や、動物で、

あるらしい。


一体は、わらじの片方を、握りしめて、

走った。


旅人たちは、青くなり、

腰を抜かしたり、漏らしたりした。


村人たちは、あちらこちらで、

可笑しそうに、笑う。



成仏させろ!

このたわけ!

このあほう!


灰色の雲が、いろんな声で、罵る。


一体は、舌打ちして、走る。


村人は、指笛を、吹いた。

向こうの、原っぱにいる、馬が、

草を噛みながら、顔を上げた。

一体を見つけると、勢いよく、

駆け出した。


馬は、一体の横に並び、

少し、首を、下げる。


おお。

ありがとうよ。


手を伸ばし、裸馬に、軽々と、

飛び乗った。


灰色の雲は、みるみる、引き離されたが、

負けじと、速度を、あげてくる。



来た!

あにさま!


双子は、鐘撞堂のはしに、

鶏を抱いて、座っている。


緑が広がる、畑の間から、

こちらに向かって、緩やかに下る、

道を、正時は、眺めた。

一体が、衣を、はためかせながら、

近づいて来る。


来たな。 

どれ。


綱を、掴む。

双子は、鶏を抱え込み、

耳を塞いだ。


正時は、鐘を、ついた。


その衝撃が、当たると、

馬は、大いに、喜んだ。

頭を振って、よだれを飛ばし、

跳ね上がった。


雲に、当たると。

灰色と、白とに、わかれた。


灰色の煙は、光る海の、向こうへと、

運ばれて行き。

白いすじは、風にのり、青い空へと、

のぼって行く。


一体は、馬から降りると、その鼻面を、

何度も、撫でた。

正時は、風呂敷包みを受け取り、笑った。


よく、このように。

重たい餅を、軽々と、

背負ってきたものだな。


あにさま。

白い餅。

あにさま。

大きい餅。


双子が、足に、飛びついたのを、

ふたり一緒に、抱え上げた。

大喜びで、明るい声を、上げる。


美波は、戸口から、嬉しそうに、

眺めた。

一体は、正時の背丈を、越えている。


つづく

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