今日
に
ははさま。
餅。
くだされ。
焼いて、
くだされ。
双子は、菜を刻む、美波に、からむ。
ふたりは、太めの鶏に、紐をつけて、
それぞれ、連れている。
美波は、手を止めた。
もうじき、あにさまが、大きな餅を、
背負って、来ますよ。
それまで、辛抱。
大きい餅。
餅。来る。
双子は、目を、輝かせた。
鼻の穴が、ぷくりと、開いた。
今日は、緑の餅だろうか。
正時が、芋の皮をむきながら、
嬉しそうに、言う。
ちちさま。
緑のは。
なりませぬ。
双子は、顔を、しかめた。
美波と正時は、息子たちをながめて、
穏やかに、笑った。
旅人たちが、道端に立ち、
畑にいる村人に、道を、尋ねている。
草にまみれた、一体が、林から、
飛び出してきた。
大きく、分厚い、風呂敷包みを、
背負っている。
まいて、やったわ。
満足気に、にやにやしながら、
わらじを、履き直し始めた。
急に。
林が、ざわめき、
ぶふぉ、と、鳴った。
吐きだすような、その音に続いて、
大きな、灰色の雲が、飛び出した。
それは、いろんな形に、なる。
原型を、とどめていないが、
おそらくは、人や、動物で、
あるらしい。
一体は、わらじの片方を、握りしめて、
走った。
旅人たちは、青くなり、
腰を抜かしたり、漏らしたりした。
村人たちは、あちらこちらで、
可笑しそうに、笑う。
成仏させろ!
このたわけ!
このあほう!
灰色の雲が、いろんな声で、罵る。
一体は、舌打ちして、走る。
村人は、指笛を、吹いた。
向こうの、原っぱにいる、馬が、
草を噛みながら、顔を上げた。
一体を見つけると、勢いよく、
駆け出した。
馬は、一体の横に並び、
少し、首を、下げる。
おお。
ありがとうよ。
手を伸ばし、裸馬に、軽々と、
飛び乗った。
灰色の雲は、みるみる、引き離されたが、
負けじと、速度を、あげてくる。
来た!
あにさま!
双子は、鐘撞堂のはしに、
鶏を抱いて、座っている。
緑が広がる、畑の間から、
こちらに向かって、緩やかに下る、
道を、正時は、眺めた。
一体が、衣を、はためかせながら、
近づいて来る。
来たな。
どれ。
綱を、掴む。
双子は、鶏を抱え込み、
耳を塞いだ。
正時は、鐘を、ついた。
その衝撃が、当たると、
馬は、大いに、喜んだ。
頭を振って、よだれを飛ばし、
跳ね上がった。
雲に、当たると。
灰色と、白とに、わかれた。
灰色の煙は、光る海の、向こうへと、
運ばれて行き。
白いすじは、風にのり、青い空へと、
のぼって行く。
一体は、馬から降りると、その鼻面を、
何度も、撫でた。
正時は、風呂敷包みを受け取り、笑った。
よく、このように。
重たい餅を、軽々と、
背負ってきたものだな。
あにさま。
白い餅。
あにさま。
大きい餅。
双子が、足に、飛びついたのを、
ふたり一緒に、抱え上げた。
大喜びで、明るい声を、上げる。
美波は、戸口から、嬉しそうに、
眺めた。
一体は、正時の背丈を、越えている。
つづく




