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別世界の道化師  作者: あかひな
五章
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第八十七幕 道化師と第二戦(前編)

「ふぅ。第二形態ってのはさすがに驚いたけど、初戦は楽勝だな」

「楽勝ねぇ。あれだけ札を使っておいて、よく言うわ」

「いやいや、武器の種類は制限して戦ってたんだからいいだろ」

「でもお兄ちゃん、ちょっと格好悪かったかも……」

「ぐふっ」


 第一回戦が終わった俺たちは、控室で反省会をしている。反省会とは言っても、さっきの戦い方について藍雛に弄られているというだけなんだが。

 藍雛に言われるならまだしも、スイに言われるのは結構キツいな。

……格好悪いかぁ。戦い方を改める必要があるな。

そうやって時間を過ごしていると、控室の扉がノックされ、大会関係者の腕章を付けたお姉さんが入ってくる。


「失礼します。第二回線の対戦相手が決定したので、ご報告に参りました」


 相変わらず白いローブを被っているためか、お姉さんの挙動が若干不審なのが悲しい。とはいえ、EXランカーと知られるわけにもいかないので、フードを脱ぐこともままならない。


「対戦相手は、アイガス国聖女親衛隊所属の、セリア選手です」





「……いったい何の冗談だよ。セリアさんがこんなとこにまで出張ってくるなんて」

「冗談とはつれないねぇ。こんなに綺麗なおねーさんが会いに来てくれてるんだから、少しくらいは喜んで飛び跳ねてくれてもいいんだぜ?」

「ワーイ、ウレシーナー」

「……キッチリと、鍛えてやるよ? 覚悟はできてるんだろうな? えぇ?」


 口は災いの元、とはこの事か。ちょっとした冗談のつもりだったのに、セリアさんの額にはうっすらと青筋が浮いている。美人が台無しである。


「それは冗談として、本当に何のつもりですか。能力(不老不死)が知られたら、ちょっとした騒ぎどころじゃ済まされませんよ」

「わーってるよそんなこと。だから鍛えてやるって言ってんだろ」


 セリアさんはそう言うと、口元を釣り上げて不敵に笑う。


「うちが怪我を負ったら負けで、神使サマは通常通りのルールだ。それでどうだい?」


 ルールがあまりにも一方的すぎるだろ……。けど、セリアさんの能力がばれない様にするという意味じゃあ、間違ってはいない。


「俺は地面に体が着いたら、です。腕とかは許してもらえますか?」

「勿論。縛っていいのか? 後悔すんなよ?」

「セリアさんと対戦する(当たった)時点でもう遅いですよ」

「ククっ、違いない」


 笑い方が完璧に悪役である。が、負けるわけにはいかない。なんといっても、スイと藍雛に格好いいところを見せる、数少ない場面だからな。


「選手同士の声の掛け合いも終わったところで、試合開始だ! 息をつく間もない第二回戦、始めぇっ!」




 踏み込み、顎を狙ってフックを掛ける。が、その際にワンテンポ遅らせてくるぶし狙いで刈り取るような蹴りを放つ。ちなみに、制限(リミッター)は2割解除の状態だ。


「狙いが単純すぎる。フェイントを混ぜたのは悪くないが、蹴りは大振りで避けやすい」


 鍛えるといった通り、俺に技術の及ばない点を指摘される。だが、鍛えるといった割には速攻で俺を地面に倒そうと仕掛けてくる。素人の俺にはこれが手抜きかどうかなんて分からないし、仮に手抜きだと言われても信じられない。


「大振りな動きをすれば当然隙が出るし、動きが早かろうと先読みされてんなら意味はない」


 俺が踏み込もうとした先にはセリアさんの小さな足払いが待っていた。早く移動しようとするあまり、重心は完全にそちらに掛かっていた。


「一撃で終わったなんて思ってんじゃねーぞ。二撃、三撃まで飛んでくると思え」


 体制を崩し、空中でうつぶせの体勢の俺に背中から突き抜けるような衝撃が走る。生理的に体が反る。目の前は地面だ。


「ぐ……あぁ!」


 寸でのところで空間の床を創る。しかし、叩きつけられた衝撃はすさまじく、そのまま数メートルはバウンドする。


一般人(ふつう)なら内臓破裂でも済まねーぞ。使える手は使え」


 下から突き上げるようなアッパーが腹に刺さる。貫通こそしなかったものの、胃が引き締まり、中身が多ければ吐き出していた。

 あまりの連撃に息をつく暇もない。しかも、こちらが体勢を立て直す前に次の攻撃が加えられる。手が、打てない。


「……格好悪いよな」

「魔法でもないなら口の前に体を動かしな」


 一体どう動いたのか、体が浮き切らないというのに、その俺よりも高い位置にセリアさんがいる。その上、体にはひねりがかかった状態で。


「踏ん張ってみな。無理ならうちが先に進む」


 上を向いていた俺の胴体に、セリアさんのムーンサルトが命中する。羽虫を落とすように、俺は落ちていく。


「……おいおい、あっけねーな。神使サマは技術力がネックと。今度うちの軍にでも放り込んで鍛えさせるか」


 鼓動が高鳴る。


「それにしたって情けねー。手ェ抜いてたんだぜ? これでも」


 鳥肌が立つ。


「ま、賞品はうちがもらったな」


 腹の底から、熱を感じる。


「いやー、いい別荘地が手に入って嬉しいね。そんじゃあ審判、判定ヨロシク」


 制限(リミッター)、三割解除だ。





「――そんじゃあ審判、判定ヨロシク」

「しょ、勝者! セリ」


 判定がかかる直前。神使サマが墜ちた場所から爆音と共に土埃が上がる。


「くひひっ! やっぱりそうでなくちゃな」


 卵の殻に覆われたように、真っ白い悪魔の羽に包まれる神使サマ。見えずとも、あの羽を見間違えるはずもない。美しいまでの純白。全てを拒絶しているといわんばかりの白は、神使サマしかいない。


「体が着いたらアウト。だったよな?」

「くひひっ。当然、続行できんのか?」

「余裕だよ」


 全く、何百年ぶりに火が付き(やる気が出)そうだ。





 制限(リミッター)解除は、少しばかりずるいかもしれない。けどまあ、いつまでもサンドバッグ姿の醜態をさらしている訳にもいかないからな。


「それじゃあ、反撃の狼煙は盛大にってことで」


 羽をしまい、想像する。創造するべき道具を。


「既存に頼るな。基盤(ベース)にするな。自分の概念(かんがえ)を押し込めて、最適な形を組み上げろ。試合に勝て。戦いはするな」


 汚いと罵るだろうか。また無様な姿を晒して、恥ずかしいと思わないのだろうか。


「自分に合った戦い方(スタイル)を探せ。技術はそれからだ」


 少しは家族にいいところを見せなきゃな。


「《創造》、《夜と霞の隠し蓑》」


 ……白いローブが暗く染まり、裾が無くなったかのように曖昧になっていく。完全に染まった頃には、俺自身が夜霧に飲まれたかのようだった。


「はいはい。まずは戦ってからな」


 いつの間にか背後に回り込んでいたセリアさんが、これまでで最速の突きを放つ。間違いなく夜霧にあたった。だが、先ほどのような衝撃はない。


「どこに当てる気なんですか?」

「……神使サマといえど、あんまり馬鹿にされたら立つ瀬がねえからさぁ」


 顎を狙ってのフック。


「勝たせてもらうわ」


 素早いフックが向かってくる。だが、俺は動かない。そして――


「んなっ!?」


 ――フックは当たらない。


「っは、ははは。こうも簡単に行くと面白いな。今度はこっちの番ですよっ!」


 俺はその場から、霧散する。




「一体どういう仕掛けだこりゃ」


 いや、仕掛けるのは舞台柄不可能か。なら、元々あったんじゃあなく、神使サマがやったってことになるか。


「雲の中のような霧じゃあ、二、三メートルが限界か」


 やってくれるぜ。当てられないし当たらない。その上見えないとくりゃあ、夜と霧の隠し蓑とはよく言ったもんだな。どうしたもんか――。


「おっと」


 後ろから槍。それも投げられたものじゃねえな。これは。




「夜と霧の隠れ蓑。隠すのは俺だけじゃないんだよ」


 この霧は俺自身であり、俺ではない。中にあるものを不可視にした上で、さらに接触が不可能になる。また、霧は夜間の霧中のごとく視界を不明瞭にする。そして、一番の特徴、それは――。


「《投げ撃ち殺す雷の槌(ミョルニル)》」


 ――一度創ったことのあるものを、魔力がある限り創りだすことが出来るということだ。

 霧が俺の魔力を吸って密度を増し、魔力に記憶された物の形と能力を形作る。目が使えないこの霧の中、どこから現れるか分からない物の雨に耐えられるかな?




「上左後ろ左上真下右ぃ!」


 厄介極まりねえな。視界がきかないっつーのに、全方位からの道具の雨あられ。当たったら負けっつったからには、一発でも喰らうわけにはいかねえからな。

 とはいえ、このままじゃあ避け続けることしかできねえからな。一旦ここから出るようにするか。

 両足に限界を超える力を入れ、全力でその場から跳ぶ。


「……おお?」


 間違いなく、全力の跳躍だったはずだが……抜けるはずの霧の中から、出ることが出来ない。壁にも当たらない。ステージ自体はそこまで大きくなかったはずだ。


「……さすがは神使サマ。空間、弄ってやがるな」


 ともすれば抜けることもできない。打つ手としては……ありゃ、詰んでるな。これは。




 セリアさんにできることは、その身の癒しと不死性を利用した超高速再生だけだ。アリスのように強力な魔法を使うこともできなければ、藍雛のように《破壊》してくることもない。その身の異常な回復力があっても、今回は傷がついた時点でセリアさんの負けだ。なら、俺は地面に体を引きずり落とされない様にしつつ、セリアさんに攻撃を続けるだけでよいのだ。

 しかしながら、観客席からこの光景を見た場合、実に退屈なものだと思う。ステージは霧で覆われ、音が漏れることもなく、ひたすらそれが続いている状態だ。しかも、この大会は宣伝目的といったことまで含まれているのだから、これ以上身を隠した戦い方は不審だろう。

 まあ、元々ローブで姿を隠しているうえに、これだけの事をしていればもう不審がられているだろうけど。


「というわけで、3割分の魔力を全開放だ」





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