第八十一幕 片割れと拷問
想像しすぎたらグロ。
苦手な方はご注意を。
「いや、だってお前、どっかの貴族の息子を燃やしたんじゃなかったのか?」
「燃やしたわよ? なんだか知らないけど、燃やしたときに「ありがとうございます!」とか言いながら、変なポーズを取ってたし」
……あれ? それって、ただの変態マゾヒストじゃね?
「ハアハア言いながら寄ってきた時は流石に燃やしたけど、結果的には喜んでたからいいんじゃないの?」
なぜ喜んでいたか、燃やした当人には分からないらしい。が、気にしてはいないようだった。
「いやまあ、そこはいいんだ。それより、それから何か無かったのか?」
「あー……毎日違う花が届くようになったわね。そろそろ部屋が花畑になりそうで、困ってたのよ」
……嫌がらせ? いや、元の世界では人によっては気持ち悪がったり、恐怖を抱いたりするが、それはやられた側が場所を伝えていない場合。フィアほどの美人なら、部屋番号くらい噂になっていてもおかしくないだろう。
「というか、私は貴族でもなんでもないのに、いきなり現れて王女様に気に入られて、その上エリート集団に入っちゃったのよ? 元々そんなようなものもあったんだから、今更増えたからってどれか分からないわよ」
「……それで、なんともないのか?」
「別にどうという事もないわね。私は緋焔を呼んだのよ? これくらい、なんでもないわ」
フィアはそう言うと、晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。その姿を見た俺は精神的に疲れて、思わずそのベッドに倒れ伏す。
なんともなかったのはいいことなんだけど、なんかもう……。
「まあ、何ともなくて良かったじゃない。フィアもそこまで苦しんでいるのでは無かったのだし」
「あー……全くだよ」
藍雛もこちらに近付き、ちょうど俺とフィアの間に収まるようにベッドに飛び込む。……嫌な川の字だな。
俺は一通りぐったりしたところで立ち上がり、ため息を吐きながらドアに向かう。
「じゃあ、俺は部屋に戻るよ。フィアはしばらくこっちにいていいらしいから、久しぶりに飯とか食べようぜ」
「そうさせてもらうわ」
「我はもう少し残るわね。ガールズトークを楽しみたいし」
そう言っている藍雛の目は、いつもの楽しむ目で、これから起こるだろう事を如実に表していた。
「……そーか。まあ、無理はさせるなよ」
「勿論よ」
俺はその言葉を聞いて、その場から立ち去った。
―――――
「さて……緋焔も出ていったことだし、我達はお話でもしましょうか?」
我はそう言いながら、いつもより深い笑みを浮かべる。だって、これから大事な話をしなければならないのだから。
「な、何よ。緋焔の事だったらこれ以上話さないわよ!」
フィアはそう声を荒くして我から距離をとる。可愛らしくて、思わず自然な笑みが出るが、今話すのはそれではない。
「ねえ、フィア。嫌がらせは大丈夫かしら?」
我がそう言うと、フィアは納得したような表情を浮かべ、苦笑いを浮かべる。
「それなら、緋焔に言った通り――」
「フィア、我は嫌がらせは大丈夫? と聞いたのよ」
我がそう言うと、先程まで浮かべていた苦笑いは消え去り、冷たく、自嘲的な笑みに変わる。
「分かってたの」
「ええ。花が届くようになったと言ったあたりからね。
頭が良くて常識も分かっているフィアが、あんなことを嫌がらせと言うわけがないもの」
「そっかぁ……」
泣きそうで、寂しそうで、切なそうで、見てるこちらまで胸が苦しくなりそうな、そんな儚げな笑みを浮かべる。その姿を見て、思わずフィアを抱き締めてしまう。
「そんな顔をしないでちょうだい、フィア」
緋焔の中から見ていた時から、ずっと付き合ってきて、生活を共にしてきて、一緒にマウを助けて、マウと暮らしてきて、旅をして、好きで、大好きで、愛しくて、愛しているのに。そんな顔をしてほしくない。
この感情は、きっと我だけのものではないけれど。それでも、フィアを想う気持ちは間違ってはいない。誰にも否定させない。だから……。
「藍雛……」
顔は合わせない。どうなっているのか、自分でもよく分かっていないのだから。
「フィア、緋焔に伝えましょう。緋焔もどうにかしてくれるわ」
悲しむ姿を見るのは耐えられない。それは緋焔も同じ。しかも、それが自分の知らない場所なら尚更だ。しかし、それを聞いたフィアは、激しく首を横にふる。
「絶対駄目。……好きな人に、迷惑はかけたくない。何をされたかなんて、知られたくない」
それを聞いた瞬間、血の気が引くように体の芯が冷え、皮膚に熱くなった血が巡る。
「分かったわ。知られなければ構わないね?」
スッと立ち上がり、フィアの返事も待たずに部屋から出ていく。
―――――
空間を引き裂き、たどり着いたのはファンネルの元。スティラと一緒にいたようだけれど、関係ない。
「ファンネル、フィアに嫌がらせをしていた奴の名前を教えなさい」
「いや、それは構わないが、突然どうしたんだ?」
訝しげにこちらを見るが、そんなことに時間を使っている暇はない。
「いいから」
「……ストークだ」
「ありがとう」
我は礼を言って、そのまま再度空間を引き裂く。
「《我が、ストークの居場所を知らない事実を、破壊する》」
ガラスが割れるような音が響き、思い出すように忌々しいストークの居場所が分かる。空間の亀裂を越えると、目の前には奴がいた。
鍛えられた体と、整った容姿に、群がるように人がまとわりついている。
「《邪魔よ。退きなさい》」
人混みが割れ、道ができ、我とストークを取り囲むように人々が円を描く。その様子を見て、多少取り乱したようだったが、我の姿を見るや否や下卑た笑みを浮かべて、こちらに近付いてくる。
「やあやあ、これは実に麗しいお嬢様だ」
気持ち悪い。吐き気がする。
「突然皆が離れたからどうしたかと思いましたが……あなたのような美しさの人が現れれば、思わず距離をとってしまうのも仕方がない事でしょう」
我の体をなめ回すように眺め――気付かれていないとでも思っているのか――目を見つめ、笑顔を浮かべる。その姿は、どんな罵倒よりも気分を害して尚、我に不快感を与えた。
「どうです? これからお食事でも――」
「《大魔違い》」
右腕。何がなんなのか分からず、呆然とする。
「左足」
左右のバランスを崩し、その間抜けな顔を地面に押し付ける。
「左腕」
ようやく事態を理解し、絶叫をあげる。
「ぎっ――ぁぁぁあああ!!」
「《黙りなさい》」
聞くに耐えない。フィアはその苦しみをどれだけ受けたのかと考えると、また体に熱が走る感覚がする。
激痛のなか、必死に立ち上がろうともがき、右足だけで立ち上がったところで、右の太もも。
「《我が与えた傷を破壊》」
全て無かったことになり、怒りに満ちた表情で剣を振りかぶる。あれだけの事をされても尚、戦意を失わないとこらは腐っても王都騎士団なのだろう。
剣は吸い込まれるように我を袈裟斬りにしようとする。が、衣服に触れただけで、まるで鉄板を殴ったような音をたて、終いには我の魔力にあてられて粉々に瓦解する始末。ストークの表情が、絶望に染まる。
「《死を切り裂く》」
我はそう呟き、さっきやられたように、ストークを袈裟斬りにする。
その様子を見たストークは、みっともない叫び声をあげながら、尻餅をつくが、体のどこも切れてはいない。
あまりに不可思議な現象を続けて体験したせいか、それとも我が外したとでも思ったのか、狂ったように笑い声をあげるようにしながら、勝機と見て魔法を詠唱しようとする。
「――っ!?」
「両足」
当然、喋られる訳もない。笑ったときに声があげられないことに、気付いていなかったらしい。状況把握能力に欠ける。再度地面に倒れ伏し、失禁する。
「死なないのだから、また生えてくるわ」
良かったわね。万人が望んでやまなかった、不死になることができて。不老ではないけれど。
「ゆ、許じ――」
「《マントルまでの障害物》」
我のすぐ近くに円を描き、そこに呪文を言いながら大魔違いを突き立てる。すると、どこまで続いているか分からない様な、とても深い縦穴が出現する。
蹴り、その中に叩き落とそうとするが、寸での所で縁を掴む。ああ、腕を忘れていたわ。だが、我が手を下すまでもない。
「あっ――」
ここは岩場でもない、唯の土の地面なのだから、崩れもするわ。
「あアぁあアああァアああ――!」
「《我が地面を切り裂いた事実を破壊する。――ただし、人間が通過したあとに限る》」
傷口が塞がるように地面が動き、浅い部分だけではあるが、元通りになったのを確認して、空間を引き裂き、帰路につく。
……ああ、先ずはお風呂に入って服を変えなくてはならないわね。
お久し振りです。神薙です。
着々とストーリーが進みますが、提示された順に物事が進むかどうかは分かりません。
今回は意見があるとすれば、批判が多いじゃないかな、と思っています。タグがついてないのに、ここまでのような。
タグつけた方がいいという意見が多かったら、R-15にしておきます。
ご意見、ご感想、誤字脱字誤用等、お待ちしています。