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別世界の道化師  作者: あかひな
五章
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第七十三幕 天龍と逆上


「じゃあ、三人はやっぱり大会に出るのか」

「ああ、僕とジークは個人で出場して……」

「三人で団体戦に出場するんです」


 夜。安全面も考えて、今日まではずっと《ジッパー》の家で夜を過ごしていたわけだが、今は三人がいるわけだし、面倒な説明を省くために見せないでいる。

 なので、今日と最悪明日はこうして一般的に夜営を行う。ちなみに、俺と藍雛は初めてだが、やり方なんかはフィルマとアーサー達が知っていたので、俺と藍雛は索敵と危険の排除を行った。その間、ジークが舐める様にこちらを見ていたせいで、藍雛が無駄に張り切り、危うく木々の生える街道が木が一本も無い原っぱになるところだった。


「なら、もしかしたら我達とも当たるかも知れないわね。我とスイが団体戦で、緋焔が個人戦なのよ」


 藍雛がそう言うと、ジークは暖めたスープを飲みながら、藍雛の横で一生懸命スープを冷ますスイをジーっと見つめていた。


「こんなに小さいのに、団体戦に出るなんてすごいんだね」

「……別に」


 アーサーはスイが団体戦に出ることに素直に驚いた様で、満面の笑みでスイに話しかける。だが、それに対してスイは、いつもとはうってかわって冷たい態度でいる。やっぱり、種族的に上位だからそういう態度になるのかも知れない。天龍の巣に助けた人達を連れていった時も、龍達はそんな感じだったしな。

 しかし、ネヴィーはその態度が気に入らなかったのか、白いローブを揺らしながらスイの頭を小突く。


「こら、目上の人にはそういう態度をとったらダメ――」


 まあ、ネヴィーがそういう態度をとるのは、間違いではなかっただろう。スイが見た目通りなら。

 しかし、スイにそんな人間の理屈が通じる筈もない。龍は、どちらかというと理性よりも本能に傾いているのだから。


「――ただの人間の癖にっ!」

「ストップだ、スイ」

「ダメよスイ」


 スイが手に持っていた皿を握り潰し、そのまま時元すらも引き裂く天龍の爪でネヴィーを刻もうとする。それを、藍雛が抱き締める様に止め、俺は腕を障害にしてその爪を止める。痛むが、どうせ分かるか分からないか位の速さで治る。


「フーッ!フーッ!」

「よしよし、ダメよ? あんまり力を使いすぎては」

「藍雛、それよりスイを中に。俺たちも魔力が漏れてる」

「分かったわ、後は頼むわね」


 呆然とする三人をよそに、俺達はスイを出来るだけ遠ざけるよう、《ジッパー》の家に連れていく。


「い、今のは?」


 いち早く復帰したのはアーサーだった。しかも、俺が腕で止めた事も気付いているようで、腕と、《ジッパー》を開いた場所を交互に見ながら、目を白黒させている。


「あー……話せる所だけ話す」



―――――



「えーっと、つまり、僕達はギルドのトップランカーに助けられて、ネヴィーは白龍や黒龍を上回る龍種に嫌われたって事?」

「あれでも龍種の王女だからな。下手すれば、龍種全体の敵と見なされかねない」


 注意の意味合いも込めて、さらに一言付け加えると、元々青ざめていた顔が、土気色に変わっていく。もはや、涙すら出ずにひきつった微笑を浮かべている。


「ははは……面白い、冗談ですね……」

「あー、やっぱりあの娘、人じゃなかったんだ」


 それに対し、納得の声をあげたのはジーク。やっとモヤモヤが晴れたよー、などと呑気に言っているが、隣のネヴィーはそれどころかじゃない。


「な、なんで教えてくれなかったんですか!?」


 飛び付くようにすがり、食って掛かるネヴィーは、もはや助けを求めているのか何なのか分からない。

 ジークはあはは、と苦笑いを浮かべてネヴィーをたしなめる。


「ごめんごめん。気の流れ方が人っぽいけど人じゃないし、なんだろうなーって思ってたんだよね。

 それに、よく分からないのに他人をどうこう言うのは良くないじゃん?」

「まあ、結果として勘は当たってた訳だけどな」


 それまでは考え込んでいたアーサーが、それなら、と言って言葉を続ける。


「なんで、緋焔や藍雛の言うことは聞いてるんだい? 見たところ、御者の人の言うことも聞いてるみたいだけど」

「俺と藍雛は親だからな。フィルマは……謎だな」


 フィルマの謎スペックに関しては、多分誰にも分からないんだろうな。いや、分かろうと思えば分かると思うが、今のところやる必要も無い。


「親って……緋焔と藍雛は人……なんだろ?」


 そこで戸惑うな。


「一応な。色々あるんだ」


 説明が面倒だから、細かくは言わないがな。


「じゃ、じゃあ、どうにかしてください! スイちゃんのお父さんならどうにか出来るんですよね?!」


 まあ、出来ない事はない……が、現在進行形で白龍とかには借りを作ってるからなぁ。これ以上強制するのは得策ではないだろう。かといって、俺達と会わなければこうなる事もなかったわけで。俺達が原因ではない、とも言いがたい。


「……今回だけな。多分、次に同じことがあったら難しいだろうし」

「十分です!」


 良かった。ネヴィーの頬にも赤みが差し、今にも抱きつかんばかりの勢いでお礼を言われる。


「ねね、緋焔」


 俺があまりの様子に若干引いていると、黙ってみていたジークがなにやら嬉しそうに話しかけてくる。


「うん?」

「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

「程度によるな」


 出来る程度ならするけど、過ぎた事はやる気はないしな。藍雛と違って。


「向こうに着いたら、大会前に一戦交えてくれないかな? もちろん、無理しない範囲でいいから」


 ジークはそう言って俺の手を握り、さりげなく逃げないようにしてくる。別に、一戦するくらいだったら全然問題はないし、ましてやただの人間相手に無理も何もないんだが……。


「ジークのほうは大丈夫なのか? ……一応、俺もそれなりに強いから、そっちが無理したら元も子もないんだが」

「あたしは大丈夫! 危なくなったらちゃんと棄権するから」

「まあ、それならな」


 藍雛に見ていてもらえば、危ないことは無いだろうしな。フィルマがいればもっと安心だし。


「やたっ!」


 ジークはそう言ってガッツポーズをとると、締まりの無い顔でニヤニヤと笑う。……闘えるのがそんなに嬉しいかね?

 俺がそんな事を疑問に思っていると、ネヴィーがこそこそと耳打ちをしてくる。


「……ジークちゃん、ああ見えて戦闘狂(バトルジャンキー)なんです。前に聞いたんですけど、自分が切った瞬間の手応えとか、強い相手から漏れる重圧(プレッシャー)を全身で感じるのが気持ちいいって……」


 ……まともかと思ったのにな。やっぱり平穏は自宅警備員か。


「……ついでに聞くけど、アーサーとかネヴィーにそう言うのはないよな?」

「アーサーはそう言うのは全然無いみたいですよ? 皆の笑顔が嬉しいとか、そんなことは聞きましたけど」

「そうか」


 良かった。流石に一つのチームにそんなに沢山の変態がいても、対応に困るしな。


「ちなみに! 私は魔法を打つ瞬間が好きなんです! 大火力の魔法を、発動させるために溜めた魔力が全身を駆け抜けるあの感じ! 全身がぞわってして気持ちいいんですよ!」

「……そうか」


 ……いたよ、変態ナンバーツー。これは多分、ハッピートリガーというやつじゃなかろうか。普通は銃の引き金だが、多分この娘は代わりに魔力を放出する感覚なんだろう。

 ……アーサーも苦労してそうだ。今度、フィルマと一緒に愚痴でも聞こうかな。俺も愚痴りだしそうな気もするが。


「緋焔、スイを落ち着かせてきたわ。あの娘、大分ピリピリしてたわよ」

「ああ、ありがとう」

「僕達のせいで迷惑かけたみたいで、悪かったね」


 藍雛が空間を裂いて俺の隣に出てくると、アーサーは驚きもせずに謝る。……アーサーも、なんだかんだで普通じゃないよな。


「いいのよ。堪え性がないあの娘の問題でもあるもの」

「ありがとうございます」


 今、藍雛が堪え性の問題だといったが、既にその程度の問題ではないと思う。

 普通に龍として産まれ、龍として過ごすのなら今のままでも十分だ。しかし、スイは俺達と同じように、表向きは人間として過ごしている。だとしたら、これ以降に同じような事になるのはとてもまずい。

人類滅亡的な意味でも、スイの成長にとっても……絶対に良くない。

 と、そう考えていると、藍雛の視線がちらりとこちらを向く。


「それじゃあ、我達はスイをなだめに行ってくるわね」

「あ……、お、お願いします」

「よろしく頼むよ」

「ほら、行くわよ」


 藍雛はそう言うと俺の手を握り、俺達の馬車でもない方に向かって飛ぶ。

 ……まあ、言いたいことは同じってことで。



―――――



「まあ、座りなさいよ」

「……いや、まあ俺だけが《ジッパー》を開けるなんて思ってはいなかったけどさ」


 今俺がいるのは、藍雛の《ジッパー》の中。つまりは、藍雛に全権限がある固有の空間。

 中は藍雛専用の安らぎの空間になっているようで、地面に転移魔方陣が描かれた神殿以外は、周囲全てが広大な庭になっていた。藍雛曰く、庭は庭。調理は調理場とそれぞれ別の《ジッパー》を設けているらしい。

 全く、とてつもない贅沢だ。しかも、全てが全て非の打ち所がないと来る。推測だが、別々の空間をそれぞれ専用とすることで、空間自体に特別な能力を付けることを可能としているようだ。藍雛が俺の上を行きすぎている。


「さて、この中と外の時間の流れは完全に別物よ。だから、こちらでいくら過ごしても、向こうでは一瞬たりとも過ぎてないわ」

「……なんだかな」


 一応、俺も同じことは出来る。……が、それは《時空》という専門の魔法があってこそ。流石に、それも無しにここまで出来るかと言われたら、無理ではないにしろ相当難しいだろう。これで元同一人物だと言うのだから、人間は成長するものなんだろうと納得する。ついでに、自分が成長してない事に気付いて自己嫌悪。


「……まあ、そういうのは人それぞれなのだし、我達は時間に余裕があるのだから気にしなくて言いと思うわ」


 ……優しく諭された。

相も変わらず二話連続。

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